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第4話:居場所を見つけた。そして、貴族令息に絡まれた

リサンダー邸の朝:


太陽が豪華なカーテンの隙間から差し込み、床に金色の筋を描いていた。


俺は身を起こし、まだ過去の傷の痛みが残る体を伸ばした。ここ数日の出来事は、まさに嵐のようだった——見知らぬ世界で目を覚まし、エレノアに助けられ、彼女の威圧的な父であるリサンダー伯爵と出会い……


そして今……


今、俺は正式にリサンダー邸に滞在していた。


どれくらいの期間になるか?それはわからなかった。

だが、少なくとも今のところ、どこかの溝で倒れていたり、捨てられた犬みたいに行く当てもなく道端でホームレス生活をこの白人ばかりの中世風な国で過ごすよりかはマシだろう。


この中世時代らしき世界でホームレスにでもなれば、外見の違う俺を真っ先にイジメしにきたり、奴隷商人に捕まってどこかの家や鉱山で働かされるよりも遥かに好待遇なんだ、ここの屋敷では。


俺が起き上がって伸びをしていると、突然のノックの音にびくっとした。


「クロード~!」

ドアの向こうからエレノアの明るい声が聞こえた。

「起きてる?」


俺は目をこすり、ため息をついた。

「ああ、起きてるよ」


ドアがきしむ音と共に、エレノアがいつもの元気いっぱいな仕草で部屋に入ってきた。

その後ろには、ここにいることにあまり乗り気じゃないリリーがいた。


「よかった!だって今日からあなたの訓練が始まるのよ」

エレノアは楽しそうに宣言した。


俺はまばたきした。

「訓練?」


リリーはふんっと息を吐き、腕を組んだ。

「ここに住んでいるなら、役に立つ習い事を学ぶ必要があるわ」


俺はため息をついた。

「なんだか苦しみそうな予感がするな」


エレノアはくすくす笑った。

「だってそういうことだから」


..............


令嬢の執事見習い:


俺たちは基本的なことから始めた。


俺をまだ疑っているリリーが、俺の「訓練」を担当し、エレノアは面白そうに見守っていた。

まず、リリーは俺を使用人部屋に連れて行き、銀のトレイを手渡した。


「まずはお茶の出し方を学びなさい」

と彼女は言った。


「……お茶?」俺は眉をひそめた。

「もっと、なんていうか……大きな形で役に立つことをするのかと思ってたけど?」


リリーは無表情な顔で俺を見た。

「貴方は疑われないように客人から使用人に格下げされたのよ。ここにいたいなら、使用人らしく振る舞う方法を学ぶべきだわ」


俺はため息をつき、議論しないことにした。今のリリーは俺の『先輩』になるのだから、リリーの

命令を聞くのも仕事の内だ。先輩ということもあり、リリーも俺に対して敬語を使うまでもなく、命令口調になった訳だ。


メイドたちは練習用のお茶セットを用意し、お嬢様の側仕えに相応しいメイド長の座についていたリリーが優雅にお茶を注ぐ技術を実演した。

彼女はそれを簡単そうに見せたが、俺がやってみると——


ガチャン。


急須を落としそうになった。


リリーはうめいた。

「だめ、だめ、だめ!もっと優しくしなきゃ」


「今努力してやってみるよ。こんなの初めてなんだからー」

俺は少しだけ愚痴った。


エレノアはくすくす笑って、

「大丈夫よ、リリー。彼はまだ勉強中なんだから」


リリーはぶつぶつ文句を言いながらも、俺に再挑戦させた。


何度も失敗し、エレノアの高級そうなドレスにお茶をこぼしそうになるという危機を乗り越え、ようやくまともな一杯を注ぐことができた。


リリーは腕を組んだ。

「まあまあね。ぎりぎり及第点よ」


エレノアは拍手した。

「よくやった!この調子なら、いつか本当に私の正式な付き人になれるかもしれないわ」


俺は眉を上げた。

「待って、付き人というのは?」


彼女はうなずき、微笑んだ。

「父上に、私が直接あなたに役立つことを教えると約束したの。もしあなたが自分を証明できたら、私の個人補佐にしてもいいかもしれないわ」


それは……予想外だった。


だが同時に、追い出されるよりはマシだ。


俺は息を吐いた。

「わかった。ここにいるために必要なことなら、頑張るよ」


................


庭園の散歩も:


何時間もの訓練——主にリリーに姿勢が悪い、物をこぼす、服のアイロンがけが下手だと叱られる——の後、エレノアは邸宅の庭園を散歩しようと提案した。


ここに来てから初めて外に出た。


庭園は息をのむほど美しかった。


手入れされた生垣、鮮やかな花々、大理石の噴水——まるでおとぎ話から抜け出てきたような光景だった。


歩きながら、エレノアは興味深そうに俺を見上げた。


「クロード……あなたの故郷についてもっと教えてくれる?」


俺は驚いて立ち止まった。


「俺の故郷?」


彼女はうなずいた。

「あなたはいつもそれについて話すのをためらっているみたい。だからすごく気になるの」


「それは......」


俺はまたもためらった。

ナイジェリアについてあまり話したくない気持ちがまだあった。


ここは俺の世界ではない——車や高層ビル、飛行機の話を聞いて彼らがどう反応するかわからない。


しかし、エレノアは本当に興味を持っていた。


そして正直……俺も故郷が恋しかった。


だから、少しだけ話すことにした。


「俺の国はナイジェリアというんだ。前にもちょっと話したな」

と俺はゆっくりと言った。


「ここからはとても遠い……とてもね。土地は暖かく、ここみたいだけど、大きな川や山、森がある」


エレノアは真剣に耳を傾け、青い色の瞳が興味で輝いていた。


「私たちの王国のように王様が治めているの?」

と彼女は尋ねた。


俺はちょっと笑った。

「...いや、そうじゃない。俺たちには……リーダーがいるけど、彼は人々によって選ばれてるんだ。こことは違うよ」


彼女は首を傾げた。

「臣民がリーダーを選ぶの?」


「そうだよ」

と俺は言った。


「俺たちの国は……共和国と呼ばれるものなんだ」


エレノアは考え込むように眉をひそめた。

「それは興味深いわ。何を意味するか分からないけれど...」


共和国がどういうものか話すと、こことは違う価値観の政治的システムを説明することになるので、出来ればこんな気軽い会話の中にそんな難しくて、彼女達に分かりにくい解説をしたくはないので話すの逡巡した。


しかし、リリーは鼻で笑った。

「ばかげてるわ。人々がリーダーを選ぶんだって?もし彼らがひどい選択をしたらどうするの?」


俺はふふふって笑った。

「信じるしかないんだ。いつものことで。...民はそうしてきたよ。『今の』地球ではよくあることだ」


エレノアはくすくす笑った

。「それで、あなたの食べ物は?ナイジェリアでは何を食べるの?」


それは……答え易かった。


「いろんなものを食べるよ」と俺は言った。


「ジョロフライスっていう料理がある。スパイシーでトマトを使った料理で、これ以上ないほど美味しいんだ」


エレノアの目が大きく見開かれた。

「それは素敵そう!」


俺は微笑んだ。

「いつかお嬢さんに作ってみたいな」


エレノアはにっこり笑った。

「それなら決まりね!いつかその『ジョロフライス』を絶対に作ってくれると約束してよね~?」


俺も彼女の希望に応えようとしながらふふって笑った。

「わかった。頑張るよ」


.................


数日後:


俺たちが平和な午後を楽しんでいると、新しい声が俺たちを遮った。


「やああ!……これはこれは」


エレノアの表情が凍りついた。


振り返ると、高貴な服装をした若い男が俺たちの方に歩いてくるのが見えた。


彼はウェーブのかかったプラチナムブロンドの髪、鋭い灰色の瞳、そしてすぐに俺の警戒心を引き立てる傲慢な笑みを浮かべていた。


リリーは緊張し、エレノアの礼儀正しい微笑みが崩れた。


「……オーギュスト様」

とエレノアは堅く挨拶した。


その男——オーギュスト・ドュ・ブリソノー——は数歩手前で立ち止まり、俺をちらりと見てからエレノアに目を向けた。


「面白い噂を聞いたよ」

彼は考え込むように言った。


「君が迷子を拾ったそうだな」


彼の声には軽蔑がにじんでいた。


エレノアの礼儀正しい微笑みは変わらなかったが、彼女の目は硬くなった。

「クロードは私の付き人見習いです」


オーギュストは笑った。

「なんて可愛らしい。高貴なるリサンダー家の令嬢が、迷子の蛮族を拾うとはね」


俺の拳が固くなった。


リリーは彼を睨みつけた。

「オーギュスト様、あなたはとても失礼なことを言うんですよ!」


「はああ?そうかな?」

と彼の笑みが広がり、一歩近づいた。


「失礼、エレノア令嬢。だが、人間の形した真っ黒い野生動物を家に置いておくのは奇妙だと思わないかい?」


俺が彼の言葉を理解する間もなく、エレノアが動いた。


パン!


鋭い音が庭園に響き渡った。


オーギュストは凍りつき、頬にはエレノアの白い手による強烈なビンタの跡が赤く浮かび上がっていた。


彼女の声は冷たかった。

「クロードのことをそんな風に言わないで!彼は私の大事な使用人、もとい付き人見習いよー!」


一瞬、オーギュストはただ彼女を見つめ、驚きが顔をよぎった。


そして、彼の表情が暗くなった。


「……後悔するぞ。僕の身体に手を上げたことを」

彼は怒りのこもった冷たい口調でエレノアを脅した。


それ以上何も言わず、彼は静かに立ち去っていっただけだった。


俺は息を吐き、まだ鼓動が速かった。

「あの男……何が目的だ?」


エレノアはイライラしたため息をついた。

「彼は自分がすべてを手に入れる権利があると思っている傲慢な愚か者よ」


リリーは首を振った。

「これはまずいですよ、お嬢様。ブリソノ家の令息である彼はこれで終わりにするつもりはないはずです!」


俺は嫌な予感がした。


そして、オーギュストが俺に対して必ず手を出してくるだろうという確信があった。

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