第18話:侯爵令息、ローランとの決闘
翌朝も、リサンダー伯爵の言葉が頭から離れなかった。
彼の言う通りだった——エレノア嬢の傍にいるのは、騎士としての役目を超えてはならない。
それでも、訓練の準備をしながら、胸の奥に蓄積したもどかしさを振り払うことができなかった。
もうエレノア嬢との更なる関係の発展は望まないと誓っていたのにどうしてこんな暗い気分のままなのか、俺自身も分からなかった。
集中しなければ。
変えられないことをくよくよ考えても仕方がない。
そう自分に言い聞かせ、その思いを押しやり、訓練場へと向かった。
しかし、俺は知る由もなかった……今日はいつもとは大きく違う一日になることを。
............
訓練場はいつもより活気づいていた。
騎士たちが剣を交え、従騎士たちが練習に励む中、入口の近くに小さな人だかりができていた。
好奇心に駆られ、近づいてみた。
そして、『彼』を見た。
背が高く、貴族的な風貌の男。
金色のブロンドの髪をきれいに後ろで結び、見知らぬ貴族の紋章が刻まれた上品な紺色の決闘服を身に着けている。
鋭いエメラルド色の瞳が、威厳を持って周囲を見渡していた。
そして、彼の傍に立っているのは——
エレノア嬢だった。
彼女は不機嫌そうだった。腕を組み、唇を尖らせている。
俺はすぐに、何か問題が起きていると感じた。
そして、何が起こっているのか尋ねる間もなく、その貴族の視線が俺に向けられた。
「そこの君」
と、彼は滑らかながらも強い口調で言った。
「どうやら、どこの馬の骨ともわからない外国人が自分を『騎士見習い』と名乗る資格があると勘違いしていたようだね」
眉をひそめた俺。
「……で、あんたは?」
彼の唇に笑みが浮かんだ。
「ローラン・デュ・ヴァルモンだよ」
彼は胸に手を当て、大袈裟に自己紹介した。
「侯爵ヴァルモンの息子、この王国でも指折りの名門貴族の後継者だ」
俺はすでに彼が嫌な奴だと思わざるを得なかった。
エレノア嬢はため息をついた。
「ローラン、こんなことする必要はないわ」
「いや、必要だね」
彼は滑らかに返した。
「我々貴族と並んで仕える者の価値を試すのは、貴族としての義務だ」
彼の視線が再び俺に向けられた。
「君に決闘を申し込む、クロード」
人だかりの中から、興奮した囁き声が聞こえた。
「名門貴族が外部者に挑戦?」
「これは面白くなりそうだな、がはは!」
その宣言に対し、眉をひそめた。
「決闘だって?」
ローランは微笑んでから、いう、
「そうだ。単なる実力の試しだよ。『騎士』を目指す君が怖じ気づくわけでもあるまい?」
その挑発に対して、歯を食いしばった俺。
この男は明らかに俺を見下している。
しかし、断れば弱腰だと見られるだけだ。
エレノア嬢の方を見た。
彼女は心配そうだった……が、これを止めようとはしなかった。
つまり、彼女は俺がどう対処するか見たいのだ。
深く息を吸って、
「わかった」
と言った。
「受けて立つ」
観衆は歓声を上げた。
「うううおおーーー!」
「あの名門貴族ローラン様が決闘を始めそうだー!」
「これは是非、最後までみたいものだね」
「うっす!きっと面白くなるね、平民君の実力がどれほどのものかを見極めることを!」
俺の了承の言葉を聞き、ローランの笑みがもっと広がった。
「良い。では、時間を無駄にしないように」
彼は既にレイピアを抜いていた。
そして、その瞬間——
決闘が始まった。
俺たちはそれぞれの位置についた。
ローランは優雅にレイピアを構え、洗練された決闘者の姿勢で立っていた。
速く、正確で、致命的だ。
一方、俺は訓練用の長剣を手にしていた。理想の武器ではないが、これで我慢するしかない。
「君の真価を見せてもらおうか。『見た目』ではなく、その中身をね」
ローランは笑みを浮かべながら言った。明らかに俺がここでは異物かのような物言いで挑発してきたのだ。肌色の違う俺に対して。
だから、実力の面だけは証明しなければならない。
俺の価値は外見的なエキゾチック感としての『見世物』でなく、本当にこの国にとって役に立てる『騎士』としての。
「はあー!」
そして、彼は突進してきた。
反応する間もなかった。
カンッ!
彼の剣が鋭い速さで俺の剣にぶつかった。
「くっ!」
俺はよろめき、そして彼は前進を続け、その動きは流れるように容赦なかった。
反撃を試みたが、奴はマジで速すぎた。
彼の手首の一振りが鋭い一撃となって俺の肩に当たった。
うめき声を上げ、後ずさりした。
ローランはくすくす笑った。
「さあ、もっとできるだろう?その図体はただの飾りかー?」
ローランの挑発を受けて顎を固く結んだ。
彼にとってこれは単なる遊びだ。
しかし、俺にとっては遊びなどではない。
姿勢を整えた。
そして、攻勢に転じてみる。
「はああー!」
ローランは確かに速い。だが、俺にはもっと力がある。
彼の言ったようなこの『図体』を用いれば、な。
俺は握りを調整し、剣を力強く振り回した。
彼はかわそうとしたが、俺は振りながら軌道を変え、ローランを守勢に追い込んだ。
カンッ!カンッ!
カンッ!カンッ!
「くーっ!やっと本気になったか!」
一撃また一撃と、彼を押し戻していく。
カンッ!カンッ!
「ぐっー!これ程とは!」
彼の笑みが消えた。
その目に一瞬の驚きが見えた。
いいぞ。
俺はさらに圧力をかけた。
そして、ついにチャンスを見つけた——
低く振り下ろし、彼にブロックを強要——そして軸足を変え、彼の脇を狙った。
「せいー!」
ローランはかろうじてかわし、よろめいた。
「わっ!?」
観衆の中からざわめきが起こった。
初めて、ローランは……動揺しているように見えた。
エレノア嬢は俺の攻勢を見ながら、嬉しくなりそうな顔でかすかに微笑んでいるようだ。
その瞬間、俺は悟った——自分は彼女の喜び顔を見ることが何よりも好きかを
ローランは姿勢を正し、息をついた。
「……悪くない」
彼はやっと俺の実力を認め、服の埃を払った。
「平民にしてはな」
って、最後は余計だろう、余計~!
とまあ、プライドの高い貴族の坊ちゃんの言葉なんて無視しようっと目を細めた俺だった。
「ふー」
ローランはレイピアを鞘に収めて明らかに不機嫌そうな表情になり小さく嘆息した。
「これはただのウォーミングアップだ」
彼は言い訳するように言葉を発した。
「次の勝負を楽しみにしているよ」
そう言うと、彼は踵を返し、観衆が道を開ける中、立ち去った。
決闘は終わった。半ば勝敗が分からぬままローランは退散した感じだったが、あれは俺から逃げているみたいなものだ。
どう考えても俺の勝で終わったと見てもいいだろう。
しかし、これがローラン・デュ・ヴァルモンとの最後の出会いではないような気がした。
決闘の後:
観衆が散っていく中、エレノア嬢が俺に近づいてきた。
「うまくやったわね~!」
彼女は満面な笑顔になりながらも上品に口元を片手で覆った。
ため息をついた俺は、
「ローランのことは事前に教えてくれてもよかったのに」
お嬢さんは小さく笑った。
「そうしたら何か変わってたかしら?」
「……たぶん、変わらないだろうな」
「でしょ?ふふふ...」
俺の見解に対してエレノア嬢もまた微笑んだ。
「ローランさんはお構いたがり屋の厄介者だけれど、彼にも実力はあるわ。あなたと出会う前にずっと女子からちやほやされてきたんだもの」
「ああ...」
エレノア嬢さんの言葉にすぐ納得した。何となく、そういう人に見えたから。
そして、ローランの後ろ姿を見やった俺。
彼を見て何か嫌な予感を覚えた。
これはただの貴族の見せびらかしではない。
これは個人的なものだと。
前の公爵令息のオーギュストと同じものを。
しかし、なぜだ?
俺は直ぐにそれを知ることになるだろう——それが望むことかどうかに関わらず。
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