第16話: 伯爵令嬢が料理に挑戦!
市場での食事を終え——ヴィヴィアンの苛立ちをよそに——エレノア嬢さんと俺は王都にある伯爵の第2の屋敷に戻った。伯爵家ということもあり、王都での第2番目の屋敷を代々の昔から買い取って何世代も持っていたことは普通であるようだ。
その日の楽しみはこれで終わりだと思っていた。
しかし、それは大間違いだった。
屋敷の大きななキッチンに足を踏み入れると、エレノア嬢さんは俺に向き直り、サファイア色の瞳が決意に輝いていた。
「あなたの料理を習いたいわ」
「え、何だってー?」
エレノア嬢さんは腰に手を当てた。
「ナイジェリアの料理を作る方法を学びたいの!あなたは食べ物が人々を結びつけると言ったでしょう?それなら、私はそれをきちんと体験したいわね」
俺はキッチンを見回し、磨かれた大理石のカウンタートップ、高価な銅鍋の列、きれいに積まれた材料を見た。
「あの……これは良いアイデアかどうかわからないな」
と慎重に言った。
「どうして?」
首を傾げた嬢さん。
言いづらそうに、
「ええと……君は今まで料理をしたことある?」
彼女は一瞬止まった。
それから咳払いをした。
「……お茶の準備を手伝ったことはあるわ」
と彼女は誇らしげに言った。
ため息をついた俺は、
「やっぱりな。」
エレノアはふくれっ面をした。
「私の腕前を疑っているの?」
「疑っているんじゃない」
と訂正した。
「ただ……キッチンの安全が心配なだけ」
腕を組んだ彼女は、
「クロード、もしあなたがいつか私の側仕え騎士になるのなら、私の事を信じるべきよ。」
眉を上げた俺は。
「もし教えるの断ったら?」
彼女は笑みを浮かべた。
「命令するだけだわ」
負けを認めて息を吐いた。
「わかった、わかった。でも、警告しなかったとは言わせないぞ」
にっこりと笑ったお嬢さんは、
「素晴らしい!さあ、始めましょう!」
『ステップ1:大惨事』:
俺はシンプルなものから始めることにした。
「豆のポリッジを作ろう」
と言った。
「簡単だし、ここにある材料で作れる。」
必要なものをすべて並べた: 豆、パームオイル、玉ねぎ、唐辛子、干し魚、スパイス、そしてスープ。
「よし」
と始めた俺。「
まず、豆を水に浸す——」
ガチャン!
振り返ると、エレノアが豆の袋を落とし、床に散らばっていた。
「……おっとと」
と彼女は気まずそうに言った。
こめかみを押さえた俺が、
「大丈夫だ。掃除しよう」
俺たちは結局お嬢さんのドジした事故現場を掃除した。
次に、彼女に包丁を手渡した。
「よし、玉ねぎを刻む——」
バン!
エレノア嬢さんは包丁を玉ねぎに叩きつけ、まな板が揺れた。
すぐさま彼女の方をじっくり見つめる。
彼女は無邪気な笑みを浮かべて、
「玉ねぎはこうやって切るんじゃないの?」
「はぁ...」
短いため息をついた。
「もうちょっと……ゆっくりやろうな?」
彼女はうなずき、再挑戦した。
今度は目を細め、顔をしかめた。
「……エレノア嬢さん、大丈夫か?」
鼻をすすった嬢さんが、
「玉ねぎが……私の目を攻撃してるわ…!」
ふふふと笑った俺が、
「普通だよ。まばたきして」
エレノア嬢さんは目を激しくこすった。
「これは残酷だわ!」
微笑んだ俺は、
「料理の世界へようこそ、お嬢さん」
『ステップ2: 小さな勝利』:
彼女の悲惨なスタートにもかかわらず、エレノア嬢さんは改めて決意を固めていた。
ゆっくりとだが確実に、玉ねぎと唐辛子を刻むコツをつかんだ——たとえ切り方が不揃いでも。
次に、彼女に材料を炒める方法を教えた。
彼女は鍋に油を入れ、玉ねぎ、唐辛子、スパイスを投入した。
香りが空気に広がった。
「まあ!」
とエレノアの目が輝いた。
「もうすごくいい香りが漂っているわ!」
微笑んだ俺はこう反応した、
「言っただろう?」
彼女は集中して鍋をかき混ぜた。
そんなに熱心に見えるのを見て、俺までも……嬉しかった。
故郷では、料理はずっと一人でしていたものだった。
しかし今、エレノア嬢さんが俺の文化から何かを学ぶことに心を込めているのを見て、温かい気持ちになった。
「料理の物覚えはすごく上手いよ、お嬢さん!」
と彼女に言った。
エレノア嬢さんはこの褒め言葉に明るく反応した、
「本当に?」
「ああ」
と答えた。
「君は生まれつきの才能がある。だから物覚えが早いんだ」
前にも剣術の面で俺を練習試合で何度も打ち負かしたことあるしな。
まあ、俺が最初に剣を真剣に習おうって決めたばかりのあの日だけだったのことなんだけどね。
今は最早、剣の腕も上達して、上手い具合に騎士見習いの日常生活に慣れ始めている最近のこと。
「まあ、ふふ...]
俺の誉め言葉に対してまたも天使のようににっこりと笑ったエレノア嬢さん。
『ステップ3: 最終テスト』:
ついに、試食の時が来た。
エレノア嬢さんは豆のポリッジを少しお皿に盛り付けた。
彼女はスプーンを取り、息をついて一口食べた。
じっとお嬢さんのことを見つめた。
そして、エレノアはゆっくりと噛んだ。
それから、彼女の目が大きく見開かれた。
「……クロード。」
息を飲んだ俺は、
「ええと……どうした?」
彼女は純粋な喜びの表情を浮かべて俺に向き直った。
「これ……美味しいわ!」
「ほら?そんなに難しくないって言っただろう?」
つられて俺もやっぱりなって答えた。
エレノア嬢さんは今まで以上に明るく微笑んで、喜びの声を上げる、
「私、できたわ……!あなたの故郷の料理を作れて大成功ー!やったわね~うっふふふ~」
彼女の喜びは伝染した。
突然おれの手もつかんできて、
「クロード、教えてくれてありがとう。すごく楽しかったわよ、料理がね!」
お嬢さんの幸せそうな顔を見て胸が熱くなるのを感じた。
「ああ……どういたしまして。」
はにかんだお嬢さんも、
「またやりましょうね、こういうの~!」
彼女の熱心さに思わず微笑んだ。
「ああ。いつでもオッケーだよ」
その間……
俺たちが気づかないうちに、ある伯爵がドアの側に立ち、その光景を見守っていた。
彼の鋭い青い目は、エレノア嬢さんがクロードと笑い合い、彼女のいつもの優雅で落ち着いた態度があの黒い肌している男の周りで和らぐ様子を観察していた。
目を細めた伯爵。
そして、背を向けた。
「なるほど……クロードか、儂の娘を...」
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