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第10話:伯爵の決断

伯爵の書斎の大きな扉が俺たちの前にそびえ立っていた。


磨かれた木はシャンデリアの光に輝いていたが、空気は重く——まるで中に入ることが俺たちの運命を決めるかのようだった。


エレノアは深く息を吸った。

彼女の白い指先の緊張し、手を握りしめたまま自分を落ち着かせようとする様子が見えたようだ。


俺は手を伸ばし、彼女の手首に軽く触れた。

「エレノア」


彼女は驚いて俺の方を見た。


それに対し、小さくうなずいた、言う、

「何が起こっても、エレノア嬢さんがしてくれていることに感謝している」


彼女の表情が和らぎ、一瞬、肩の緊張がほぐれた。

「それなら、無駄にしないようにしましょう」


そう言うと、彼女は扉を何の躊躇いもなく勢いよく押し開けた。


中では、クレールモン・デュ・リサンダー伯爵が重厚なマホガニーの机の後ろに座り、横でろうそくが揺れていた。


彼の濃い口ひげが動き、鋭い青い目がエレノアと俺の間を行き来した。


権威というものを前に見たことがあったが、その男の存在感は圧倒的だった。


エレノアは丁寧にお辞儀をした。

「父上」


伯爵の表情は変わらなかった。

「エレノア。何かワタシに話すことがあるのだな?」


彼女はドレスの裾をしっかりと握りしめた。

「はい」


彼は向かいの席を指さした。「座れ」


彼女は従ったが、俺は立ったままだった。伯爵の視線が俺に向けられ、長い、居心地の悪い沈黙が続いた。


彼の視線を真っ直ぐに受け止めた。


エレノアは深く息を吸い、話し始めた。


「父上、既に分かっていると思うのですけれど、クロードは良く役に立ってくれていることを知っていますよね?」


「前の約束についてか?」

伯爵の声は控えめだったが、彼がすでにある程度の方針がついているような目をしている様子だ。


エレノアはうなずいた。

「はい」


伯爵は指を組んだ。

「そして?なぜまたもその話を?」


エレノアの目が硬くなった。

「彼は十分に役に立ってくれた。だから、今は彼を守るためにとある保証が欲しいのです」


伯爵の視線が俺に向けられた。「何から彼を守るというのだ?」


「...はい。公爵の令息さんもこんなことを言う予定ですけれど、クロードは私たちの王国の者ではありません——父上が知っているどの土地の者でもありません。彼は祖国、ナイジェリアからここへと何かの幻想的な原因で迷い込んで、迷子になり、傷つき、一人でいるのを見つけたのです。そもそも、この国やこの世界そのものの住民すらいないかもしれませんから、行く当てがないのです。だから、彼を安全な場所であるここで、ずっと過ごしていきながら保護していけるよう、保証がほしいのです」


.........


沈黙が続いた。


そして、伯爵は身を乗り出した。


「エレノア」

彼の声は低く、しかし力強かった。


「自分の立場を理解しているのか?お前はこの伯爵家であるワタシの娘だ。お前の行動はこの家の評判に直結する」


彼女は揺るがなかった。

「理解しているつもりですよ」


「それなら教えてくれ」

と伯爵は続けた。


「未知の男——ワタシたちの習慣も土地も血も共有しない謎の男——を連れ込むことが、あなたの未来にどういう意味を持つのか、理解しているのか?」


彼女の息が少し乱れたが、彼女は引き下がらなかった。


「私は自分の決断を後悔していません」


伯爵はため息をついた。

そして彼は再び俺の方を見た。


「クロード、だったな?」


伯爵の問いに対して、うなずいた。

「はい、伯爵様」


「今一度聞くが、どこから来たのだ?」


「ナイジェリア...です」


彼の眉が少しひそんだ。

「前にも言ったが、そんな国は聞いたことがない。本当のことを言うんだ!」


「これしか答えようがないです。そもそも、この世界がどこにあるかさえ分かりません。だから、自分がナイジェリアから来たというのは事実です」

と俺は単純にこう答えただけ。

これでも信じてくれないなら、万事休す。


「..........」


再び長い沈黙が続いた。


そして、伯爵は立ち上がった。


「この世界で地位のない見知らぬ人間に何が起こるか、知っているか?」

と彼は尋ねた。


身を固くしたが、何も言わなかった。


「彼らのような人々はやがて消えることになるだろう」


エレノアは息をのんだ。

「父上!」


伯爵は冷たい声で続けた。

「称号も土地も身分もなければ、お前は無価値だ。ワタシがお前を屋敷に置くことが不便だと判断した瞬間、社会はお前を捨てるだろう」


エレノアは突然立ち上がり、椅子が床を引っかいた。

「クロードは野良犬ではありません!彼は善良な殿方です!...優しく、賢く、ここにいる価値があります!だからー」


伯爵は目を細めて、娘の言おうとしてることを遮る、

「そして、その【価値のある場所】とは何なのだ、エレノア?」


彼女は口を開いたが、言葉が出てこなかった。


伯爵はため息をついた。

「お前は自分の未来を、この世界に属さない謎の男のために捨てるつもりなのか?」


その言葉は予想以上に俺に響いた。


伯爵の言葉を受けて拳を固く握った俺。

彼は俺のことを本当にそう思っているのか?


「......」

エレノアの手が震えていた。

そして、彼女は深く息を吸った。


「もしそれが必要なことなら……それでも構いません」


伯爵の目が大きく見開かれた。

「何だって?」


「私はクロードを見捨てません」

と彼女は毅然と言った。


「今も、これからも」


「......」


緊迫した沈黙が続いた。


「...が!がははー!」


そして、伯爵は笑った。


それは心地よい笑いではなかった。熱意のこもった、鋭い笑いだった。


「がはは!...なるほどな」

やがて、伯爵は笑いを止めて、こめかみを押さえた。

「母の影響か、お前はあまりにも強情になりすぎたな」


エレノアは毅然とした態度で自分の父親を睨みつけた。

「私は自分の選択ができる人間に成長しただけなのです!」


伯爵はため息をつき、俺の方に向き直った。

「お前」

と彼は俺の事を呼んだ。


「正直に答えるのだ。ここにいる目的は何だ?」


俺はどう答えるべきか、少し考えた。

そして、彼の視線をしっかりと受け止めて、

「わかりません」と自分は認めた。


「この世界に来たいと思ったわけではありません。でも、今はここにいて、行く場所がないのです」


伯爵は俺を注意深く見つめた。


「それなら、これに答えろ」

と彼は言った。


「お前はワタシの娘を気にかけているのか?」


伯爵の問いに対して、一瞬返事に困ったが、直ぐに身を固くした。


「...]


エレノアの息が止まった。


部屋は静まり返った。


俺も息を飲み込んだ。

これを言葉にするべきかどうか、分からなかった。

しかし、エレノア——彼女の揺るがない決意、優しさ、強さ——を見つめながら、答えがわかった。


「...はい。エレノアお嬢さんが、彼女だけが、行く当てのない俺の唯一な味方になってくれたのです。だから、...ここに、...居させてほしい!...俺がいなくなってからのお嬢さんが悲しむ姿を想像したくないからです!」


バータン!

俺の力強い、きっぱりとした答えのお陰か、伯爵の手が机を叩いた。


そして、驚いたことに……


彼は笑みを浮かべた。


「なるほど...」

と彼は考え込むように言った。


「面白い」


エレノアと俺は困惑した視線を交わした。


そして、伯爵は腕を組んだ。


「よかろう!」


エレノアは身を固くした。

「どういう意味ですか?」


伯爵はまたも俺の方に向き直った。

「もしお前が本当に私の娘を気にかけているなら、それを証明してみせろ」


伯爵の要求に対して眉をひそめた。

「証明する?……あの、...どうやって?」


彼は笑みを浮かべた。

「お前に一ヶ月間の期間を与えよう。その間に、この世界で自分がここにいてもいいように、居場所を見つける方法を見つけろ。そうすれば、ここのワタシの屋敷に住んでもいい」


エレノアの目が大きく見開かれた。

「父上、それは——」


「もし失敗したら」

と伯爵は続けた。


「お前はここから去らねばならん」


その取り決めに息をのんだ。

一ヶ月?


それは何もないに等しい。


どうやって一ヶ月間でここに人生を築けるというのか?


しかし、彼の視線を受け止めたまま、うなずいてしまった。

「..わかった」


エレノアは息をのんだ。

「クロード、あなたは——」


「やるよ」

と俺はしっかりと言った。

これ以上、ずっと優しくしてくれてるエレノアお嬢さんを困らせたくはない。

自分の問題は、自分で解決するんだ。


もはや、女の後ろから隠れて保護して貰おうなんて甘えた考えはしたくないから。


もしこれが唯一のチャンスなら、自分はそれを無駄にしないつもりだ。


伯爵は笑みを浮かべた。

「それでは、ワタシの娘のそばにいる価値があるかどうか、見せてもらおうー!」

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