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星々の残響  作者: ナイヤ
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第二話 死神の手招き


 「ピーーーー、ピピッ、ROCK」


 「ロックオン検知。推定距離2000――接近中」


 警告音がコックピット内に響き、ROCKの文字がディスプレイ上に点滅した瞬間、クラウの身体が反応する。


 「チィッ、どこだ!」


 反射的に自動操縦をオフにすると、操縦桿を右へ叩くように倒す。

 

 機体のシステムは脅威を感知し、機械的な音声を機内に響かせた。


 (なんでこんな宙域に!)

 

 ヴァルチャーが咆哮しながら横転し、同時にスラスターが火花を吹く。

 宇宙空間に散る赤色の欠片は、陽のない闇に流星のような光を描いた。


 「ピピッ」


 同時に、ヴァルチャーの後ろから黒い物体が発射される。

 それは瞬時に膨らみ、もう一つのヴァルチャーのような見た目になった。


 途端に、ロックオンの警報が消えた。


 このエリアは航路から外れ、デブリが密集する危険宙域だ。

 高度な操縦技術が求められ、自動操縦でも性能が低ければ衝突の可能性がある。

 この航路は、通常の航行ルートではまず通らない。


 (どこだ、、、どこにいる!)


 クラウは視界を巡らせながらロックされた方向へ機首を向ける。

 

 咄嗟にレーダーを見たが、機影はない。

 

 (ステルスか!?)


 即座に宇宙空間の虚空をヴァルチャーがロックした。


 その瞬間再びロックオンの警報が鳴り響く。

 もう一度この機体に照準を合わせたようだ。


 だが、クラウは視認することができていない。


 ヴァルチャーは何もない闇の中に照準を定め、少しずつ追従している。


 (いるのか、、、?そこに、、、)



 クラウが目を凝らすと、微かだがようやくそこに不自然に浮かぶ影を捉えた。

 それは輪郭が歪み、空間の奥から滲み出てきたような存在だった。


 距離が近づき、徐々にその姿が明確に視えてくる。


 心臓がドクドクとうるさいくらいに鼓膜を響かせている。

 

 鋭利なシルエット、黒い金属を思わせる機体色の表面に星の光が反射していた。


 (なんだ、あれ、、)


 間違いない。

 完全な光学迷彩。

 それもただの迷彩ではない。

 空間そのものを抉り取るような、存在をねじ曲げる異常なステルス。

 

 両手で操縦桿を力強く握ると、操縦桿が引っ込み代わりに身体全てがシートに包み込まれる。

 クラウは咄嗟にヴァルチャーの神経接続システムを接続していた。


 (不気味だ、、、、)


 こちらもロックし、あちらもロックしている。

 それは銃口を互いに突きつけている状態だった。

 時折敵機に反射した光の点が宙を割る。

 だが、即座の攻撃はない。


 (撃ってこない、、、?)


 「ピッピッ、ピピッ」


 警戒を強めながらも、クラウは機体表面のシールド強度を最大に設定する。

 

 やはり反応はない。


 (なんだ?こいつは、、、、)

 

 空間を滑るように進むその機体は、奇妙な滑らかさを備えていた。

 まるで有機的な、どこか動物を思わせる野性味のある骨格。

 異常なまでに細身の機体と脈動するように光を放つ青いラインが、滑らかな表面を走っている。

 照準に表示されたシルエットは、クラウの記憶の中にあるどの機体にも該当しない。

 

「、、、無人機か?」

 

 クラウは思わず呟く。


 (あんな機体、宙戦機や宙機、戦闘機ですら見たことないぞ)


 クラウは目を凝らしたが、それでも限界がある。

 

 撃ってくる気配はない。


 照準を絞り、倍率を上げた。

 

 「キュイー、ピピッピピッ」


 「なんだ、、、、こいつは?」

 

 こちらへのロックも依然として外されていない。それなのに攻撃してこない。

 クラウにはなぜか見られているような、観察されているような気がした。


 不気味だった。

 機体の姿以上に、その沈黙が恐ろしかった。


 数秒、双方が敵をロックオンしたまま動かなかった。

 静寂の中で、自分の心臓が強く跳ねていることを鼓膜が知らせてくる。


  「やるしかないってわけか……!」


 瞬時に脳裏で兵装を[Λ-Cannon<サンダーレイ>]に設定した。


 迷わずに発射した。

 

 その瞬間、敵機も静寂を破った。

 敵は重なるようにして光線を避けた。

 途端に真っ白な光にコックピットが照らされる。

 クラウの瞳孔が絞られ、目が開かれる。


 真正面に敵の何かが撃たれたのだ。


 「ッ!!」

 

 

 クラウは身体が動くように回避行動へ移す。

 瞬時に機体が右旋回する。

 ヴァルチャーの翼の下をその熱源が通り過ぎる。

 軌道上に流れた熱光がクラウの機体をかすめ、シールドが軋んだ音を発する。

 回転する視界の端で、紫電のようなビームが尾を引きながら空間を引き裂いていった。


「なんだぁ!今のは!」


 クラウの目が鋭くなる。


 (あのビームに耐えられるか!?)


 神経接続で今の掠ったビームでシールドが半分以下に減ったことを感じ取る。

 

 異常なまでに細身の機体が、黒い線となって駆けていく。


 (気持ち悪りぃ見た目しやがって!)


 クラウは、敵の直線的な動きから照準を定め、敵機の進行方向を先読みしその空間へと撃ち込む。


 「そこだっ!」

   

 敵機は直撃するその刹那、機体をよじるかのようにして回避行動をとった。

 

 (なんだあの動きは!?)

 

 途端に敵の反撃が来る。

 

 「っっ!間に合わなっ」

 

 回避行動が遅れてクラウの目の前に光が迫る。

 

 油断、それは戦場で死に値する行為なのだ。


 (あっ)


 その時、ヴァルチャーが勝手に傾きビームが機体の左翼を撃ち抜いた。

 

 (ッッ!....ALICEか)


 またもコックピットの頭上を紫電のようなビームが通り過ぎる。

 

 (やられたっ!!)


 ヴァルチャーには、特殊な秘密がある。

 いや、ヴァルチャーではなくそれに接続されたシステムといったほうが正しいだろう。

 ALICE(アリス)システム。

 クラウはそのシステムを使わないようにしていた。


 軍にいたころは、生き抜くために使っていた。

 しかし浪人のようになった今は、その牙が少しでも衰えないようにと意図的に封印していた。

 しかし、あまりの危険さにALICEが自動で操縦したのだった。

 

 (くそったれ!何でこんなやつがここに!)


 クラウは操縦桿とパネルを操作しながら、左翼を見た。

 なんとか形状を保っているが、まるで真ん中をくり抜かれたようになっていた。


 「アリス!起きたなら手伝え!」

 

 「左翼の修復は現在15%です。」


 「完全なやつじゃなくていい!すぐ動けるようにしてくれ!」


 クラウの指示で、左翼の穴がみるみるうちに塞がっていく。

 機体の安定感が戻ったが、絶えず射線を向ける敵機から逃げる状況が続いている。

 

 (くそっ!次当たれば鉄屑だ!)


  重力のない宙域で、二機はまるで意志を持つ獣のようにすれ違った。

 敵機の攻撃に対してクラウは機体を回転することで回避。

 敵機のシルエットが加速で歪み、ヴァルチャーの斜め後方へ回り込もうとする。


 「来るかッ……!」


 クラウはスラスターを反転、機体を180度ひねりながらバレルロール。

 照準を合わせようとしたその瞬間、敵機の姿が、突如として消えた。


 「……っ!? ステルスか、いや、加速中に機体の輪郭が――!」


 視界の端に小さな反射。

 直感が叫ぶ。


 「右下だっ!!」


 クラウは瞬時に操縦桿を右下へと押し込み、機体をねじりながら砲門を向ける。

 敵機のビームがほんの遅れて軌跡を描き、ヴァルチャーの外翼をかすめていった。


 「ちっ、またかすった……!」


 瞬間、敵機が今度は右側面へと一気に回り込む。

 それはクラウが今まで見たことのない軌道だった。

 切り返しの最中に逆スラスターを吹かすその挙動、クラウは目を見張る。


 (……生きてんのか? こいつ……)


 まるでこちらの行動を「見てから動いている」。

 計算ではなく、本能のように――。


 敵機が一瞬、正面に姿を見せた。

 照準と敵機が重なる。


 瞬間、クラウは撃った。


 ビームが閃き、空間が歪む。


 敵機はまたも直撃するその寸前で――避けた。


 「なんだよそれ……っ!」


 途端に敵機が動きだす。

 敵機は軌道途中に迷彩を使い、クラウから完全な追跡を避けていた。


 またクラウが見失う。

 振り返る。

 いた。

 

 機体の背後――すでに射線上に敵の砲門が向けられている。


 「くっそぉぉぉ!!」


 クラウは反射的にヴァルチャーを下へ倒す。

 その瞬間、敵の砲撃がすれ違うように頭上を掠め、閃光だけが視界を焼いた。


 互いの攻撃はすべて一歩届かない。

 いや、あえて届かせていないような攻防。


 「……こいつ、まるで、試してるみてぇだ……」


 追うでもなく、逃げるでもない。

 ただ、目の前に立ちふさがり、反応を試すかのような、妙な間があった。

 

 (あの動きは……俺の動きを読んでるのか!?)


 何度攻撃しても、それはまるでクラウの思考を先読みしているような軌道を繰り返す。

 クラウの口元が苦く歪む。


 その時、敵の姿がまたも消えた。

 それも、機体の外側から、宇宙に溶け込むようにして。

 

 咄嗟にクラウは照準を確認し、メーターを確認する。


 (また光学迷彩かよ!)


 周囲に目を行き渡らせる。

 空間を俯瞰するため、クラウはぼんやりと目の前の宇宙を見つめた。


 (ダ、ダメだ...何も見えない!)


 ロックオンされればアラートがなる。

 だが、この状態で何も動かなければ、予測した進行方向に攻撃されて終わりだ。

 

 (ここは離脱するしかねぇ....)


 デブリが多く浮遊する場所に潜り込み、離脱のための目的地とルートを大まかに計算した。

 そしてそれが済むと機首を反対に向け、いち早くこの宙域から離れようとした。


 (……………)


 全速力で離脱するため、操縦桿を強く握る。


 クラウの脳裏に、先ほどの攻撃がよぎった。

 

 (………やはり、ここで仕留めるしかない!!!)


 クラウは即座にヴァルチャーの管制メニューからアクセスする。


 ――"DETAS SYSTEM"

 

 「……チッ、仕方ねぇ!」


 機体表面が白熱する。銀色の塗装が蒸発寸前まで熱せられ、炸裂するように散布される。

 散布された銀色の塗装は即座に分離・再結合し、ヴァルチャーと寸分違わぬ偽影を形成した。

 ヴァルチャーと同じ形状をしたそれが、やがて隣に形成され、並行した。


 「アリス!そっちの操縦を頼む!」


 「承知しました。」


 そういうと、銀色の尾を引きながら敵機を探しに行くそれを見ながら、クラウは機体を反転させた。


 (今度こそ一発でも当たったらおしまいだ。)

 

 クラウは目の前のデブリの隙間、黒い闇を睨みつけスラスターを吹かす。

 クラウの機体は一気に軽量化し、かつてないほど鋭く、鋭敏に宙を切っていった。


 「空間に少しの歪みを検知。敵機だと思われます。」


 ALICEが見つけたらしい。 

 すぐ近くの方向だ。

 

 (やはりか、熱探が効かないってことは大きな移動はしてないってことだ。浮遊してるか、少しのエアーで微調整しているか....)


 「アリス!ロックが効かないから、お前が位置を計算して表示しろ!俺が撃つ!」


 「承知しました。反映します。」


 コックピットの照準に、デブリに重なる赤い点が表示される。

 ここを抜けた先だ。


 「アリス!撹乱してそっちに気を引いておいてくれ!」


 「承知しました。」


 デブリを避けつつ、クラウは考える。


 (この角度なら、前に進むなあいつは。だが、初動のあの速さなら大体この辺りに撃つ。)


 もうすぐデブリを抜ける。

 クラウの握る手が強くなり、目が大きく開く。

 前方に開けた道が見える。

 だんだんと視界が開ける。

 赤い点が照準に重なる。

 デブリが赤い点から外れたその瞬間、撃った。


 「行け――!」


 デコイが散らばる中、赤い炎を上げて敵機が姿を現した。

 まだやつは生きてる!!

 

 瞬間、クラウとALICEが同時に追撃を入れる。

 暗闇を二つの熱線が交差した。

 

 しかし、敵機に当たらなかった。避けたのだ。

 

 そしてその瞬間炎が消え敵機が姿を消した。

 

 周辺をALICEが網羅的に攻撃する。

 しかし反応がない。

 

 静寂に包まれる。


 クラウは違和感を覚えた。

 

(ここは、なぜあいつは追って来なかった?なんでこんな開けたところに??)


 次の瞬間、クラウの右上に赤い光が映る。

 

 「は?」


 ヴァルチャーのデコイが爆ぜた。


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