第3章 現と助手
「やばいですよぉ師匠ーーー!!!!」
扉を勢い良く開きながら可愛い顔をした,小さな男の子が叫んだ。10,11歳くらいの背丈に見えるが童顔のせいで更に幼くみえる。つんつんとした髪に髪留めをつけ,タートルネックのセーターを着て,男の子だがミニスカートを履いている。可愛い顔のおかげで全く違和感は無いが,余計に幼く見える。
「どうした,そんなに叫んで。とりあえず,座って落ち着け、律。」
白衣を着た高身長の中性的な見た目の男性……女性?はそう言い,椅子を差し出した。
「あ……はい…。ごめんなさい…。でもでも,大変なことになりましたよ!!!さっき,我々の噂を聞きました!!曖昧な情報のみでしたがこれが広まったらかなりまずいのでは……。」
「…………。そうか…。まあ,この場所は外部から特定できないようなシステムになっているから大丈夫だ。万が一特定されてもすぐに脱出できるルートを確保しているから心配するな。それに緊急プログラムが起動すれば自動的に爆破されるようになっているしな!!」
「おーー!!凄い!!流石師匠ですね!!…ってそれ緊急プログラムが誤作動で起動したらどうするつもりですぁ!!!」
「安心しろ,私の作ったシステムだぞ?そんな凡ミスするわけがないだろう。」
『師匠』と呼ばれたその男性(性別不明だが一応男性ということにしておく。)は得意気に言った。
「はあ……まあ師匠なら大丈夫だと思いますけど…。ところで,もし見つかったらどうするつもりですか……?」
「ふふん,私を舐めるなよ…。実を言うとな,この場所の複製をシェルター内に複数配置しているんだ!まあ,今後使うことはないと思うがな。」
「凄い徹底ぶりだ…。」
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彼らが『アジト』と呼ぶそこには大量の資料と作りかけの機械が雑多に散乱していた。キッチンには大量の洗っていない皿。冷蔵庫に食材は殆ど入っておらず,代わりにビーカーと試験管がぎっしりと詰まっていた。壁には無数の数式が書かれており,ホワイトボードには写真が大量に貼られている。机と棚と床には分厚い本が数え切れないほど積み重なっており,足の踏み場もないほどである。一見しただけでも5つの扉があるが隠し扉も存在するため,総面積はそこそこ大きいのだろう。
「まあ,それは一旦置いといて……お茶にしないか?○○」
「そうしましょう!!もう僕,喉カラカラですよ……。最近偵察任務多くないですか…?」
「ああ,すまんな。少し調査したいことが多くてな…。そろそろ最終試験が近づいてきただろ?この時期は1年で最も警備が手薄になるんだ。まあ,試験の準備が忙しいのだろう。研究も最終段階に突入したからな。微調整のために欲しい機密文献が多いんだ。」
師匠ー開闢院現はティカップの中に注がれたアールグレイをかき混ぜながら言った。
「まあ,それは分かりますが…兎に角,もっと俺を労わってください!」
「善処しよう。そういえば律も,もう少しで入学だったな。体力は温存するべきだ。暫く仕事は偵察機に任せようか。」
「え……いや,大丈夫ですよ!た,多少手加減して欲しいっていうだけです!!」
律は焦ったように言い,ポケットから紙切れを取り出した。
「見てください!この前の塾内テストです。5位ですよ!5位!!いやー流石俺だなー!!!……って言うわけで,仕事はいつも通り,この優秀な俺に任せてください!!!」
律は自慢げに鼻の下を擦り,胸の辺りをドンと叩いた。が,強く叩きすぎたのかゴホゴホと咳き込んでしまった。
「ははっ流石私の弟子だな。頼もしい限りだ!!では,早速任務を与えよう。」
「はい!!!」
(やれやれ……本当に可愛いやつだな。)