〈紫水晶の妖精姫〉ヴィオレッタ
花の都・ヴィーラリア王国。
大陸の南の端っこにある一番小さな王国。
そのヴィーラリア王国の王族のひとつ
エレガノット公爵家には〈次世代の妖精姫〉と
呼ばれている美しい姉妹が誕生した。
長女の〈紫水晶の妖精姫〉ヴィオレッタ
次女の〈白真珠の妖精姫〉ブランシュ
〈紫水晶の妖精姫〉ヴィオレッタは、
父親と同じ黒い髪に母と同じ紫の瞳を持つ
イザベルカの〈露草の妖精姫〉エレオノーラ
王妃の再来と呼ばれる美しい女性で
〈白真珠の妖精姫〉ブランシュは、
母と同じ白金の長髪に青の瞳を持つ可憐な
少女だ。 こちらは、ヴィーラリア王国の
エウラリーア王妃の再来と呼ばれている。
私は、エレガノット公爵家の
長女にあたります、ヴィオレッタ・ティ・
レイベールス・エレガノットです。
15歳になります。なぜか、幼い頃から
〈露草の妖精姫の再来〉〈紫水晶の妖精姫〉と
呼ばれて来ました。
私が、あのエレオノーラ叔母様の再来………?
いやいやいや、あの大国・イザベルカ王国の
王妃となられた方の再来だなんて恐れ多い!
私は、平凡な娘ですの!
「ヴィオレッタお姉様!
どちらへ行かれてたのですか?」
「あら、ブランシュ、ご機嫌よう。
アリアーノ公爵家に行って来ましたの。
マイオンお兄様から頼まれただけですわ。」
エレガノット公爵家の次女、ふわふわとした
人懐っこい我が家の末妹、ブランシュ。
3歳年下なので、12歳になります。
街の孤児院や託児所に赴いて、子どもたちの
世話をしているそう。とても優しい子です。
〈白百合の妖精姫の再来〉
〈白真珠の妖精姫〉と呼ばれていますが、
どちらかと言うと、このブランシュは、
〈春紫苑の妖精姫〉フェリチタ叔母様の
再来だと思いますの。
「ふふ。お姉様、ロゼ様に会いに行ったのね?
わたくしにはバレバレですよ?」
「まあ!ブランシュ、お祖母様には、内緒ね?」
「うふふ。ええ、もちろん、内緒にします!」
先代公爵夫人のお祖母様は、どうやら、私を
エレオノーラ叔母様やエウラリーア叔母様の
ように、何処かの王妃にしたいようで………
でも、私は、アリアーノ公爵の次男であり、
アリヴォーロ初代伯爵当主となられる予定の
ロゼ様の婚約者になりたいの。
お祖母様は困惑するでしょうけれど。
「そういえば、ヴィヴィオーン侯爵令嬢の
アヴリーヌ様がいらしていたわ。やっぱり
あの方が、アロイス様の婚約者候補なのね。」
「私は、リュシエンヌ様にお会いしました。
アヴリーヌ様がアロイス様の婚約者候補なら
エルトラーム殿下の婚約者候補は、双子の妹
リュシエンヌ様の方なのかしら?」
「まあ!そうなの?そうかもしれないわね。」
あの双子姉妹が、アロイス様とエルトラーム
殿下の婚約者候補なら………
セティオーン殿下の婚約者候補は異国からに
なるのでしょうか………?
その後、正式に、
次期国王のセティオーン殿下の婚約者は、
イザベルカ王国からエメラール侯爵の長女
ステッラベッラ様に決まりました。
なぜ、イザベルカ王国の侯爵令嬢に………?
と思いましたが、エレオノーラ叔母様の親友
〈赤薔薇の貴婦人〉グラツィアーナ様のご息女
と聞いて、納得致しました。
第二王子のエルトラーム殿下のお相手に
ヴィヴィオーン侯爵の次女〈希望の双葉姫〉
リュシエンヌ様になりました。
さらに、アリアーノ公爵の嫡男アロイス様の
婚約者がアヴリーヌ様に決まり、次々と来る
お知らせに、国民たちは騒めきました。
「ロゼ様、ご機嫌よう。」
「おお、ヴィオレッタ嬢、おはよう。」
ヴィーラリア王国、王都立図書館に入る前で
ロゼ様に、ばったりお会いしました。
私と同じ15歳になりますが、アロイス様と
同じく、大人びてらっしゃいます。
「本を借りに来たんだね。」
「はい。ロゼ様は、何か調べものですか?」
「ああ、これね、アロイス兄上に頼まれてさ。
シャーフ辺境伯とイザベルカのアガフォーン
辺境伯の関わりの歴史。アヴリーヌ義姉上は、
シャーフ先代辺境伯の孫娘だからね。」
ヴィヴィオーン侯爵家のカッツェーナ夫人は、
シャーフ先代辺境伯の一人娘です。
先代辺境伯は、野心家すぎて、その影響故に
他家から養子を迎えることとなりましたね。
「あ、そうだ、ヴィオレッタ嬢!
アガフォーン辺境伯家関連の書籍って
どこにあるか知らない?」
「アガフォーン辺境伯についてでしたら
我が家にありますが………」
「えっ!?なぜ、エレガノット公爵家に?」
「フェリチタ叔母様がアガフォーン辺境伯領の
伯爵夫人になりましたので。」
エレガノット公爵の末妹の〈春紫苑の妖精姫〉
フェリチタ叔母様は、珍しく、伯爵夫人です。
イザベルカ王国の、アガフォーン辺境伯家の
親族、オウルドール伯爵夫人として、隣国で
ひっそりと暮らしています。
お祖母様を無理に説得して嫁入りしたのだと
エウラリーア叔母様から聞いています。
「あっ!そっか、なるほど!もし良かったら
借りても良いかな?」
「我が家の図書室の管理は、マイオンお兄様
なので、兄に聞いてみますね。」
「ヴィオレッタ嬢! ありがとう!」
その出来事があってから、
ロゼ様と私は、より一層、仲が深まりました。
ロゼ様と図書館で会ったり、ブックカフェで
待ち合わせしたり………
この2年間、まるで恋人のような、曖昧な
関係が続いて、私は、17歳になりました。
「我が妹、ヴィオレッタよ、アリヴォーロ
初代伯爵となるロゼの婚約者になるかい?」
「マイオンお兄様、本当に、良いのですか?」
「フェリチタ叔母様だって伯爵夫人なのだから
姪のヴィオレッタも、伯爵夫人になったって
おかしくはないんだよ?」
「マイオンお兄様!ありがとうございます!」
20歳になると同時に
アリヴォーロ初代伯爵となられた
ロゼ様と結婚して、妻になりました。
有り難いことに、ロゼ様は、
エレガノット公爵邸のすぐ近くに
アリヴォーロ伯爵邸の屋敷を構えて
下さったので、実家にも帰宅しやすい
新しい居場所になりました。
「ヴィオレッタお姉様
本当に、おめでとうございます!」
「ふふふ。ありがとう、ブランシュ!
貴女も、良い人、見つけてね?」
「はい! 頑張ります!」