〈卯ノ花姫〉キャティーナ
花の都・ヴィーラリア王国。
大陸の南の端っこにある一番小さな王国だ。
そのヴィーラリア王国の王族のひとつ
アリアーノ公爵家には、花のように美しい
才女と評判の美人な姉妹が産まれた。
長女〈茉莉花姫〉カルメリッサ
次女〈卯ノ花姫〉キャティーナ
エレガノット公爵家の三姉妹と
並び称されるほどのアリアーノ公爵令嬢の
姉妹は、今も、注目をあびている。
25歳となった〈茉莉花姫〉カルメリッサが
王弟ジェンド殿下を婿養子として迎え入れて、
今や、三児の母となっている。
さらに、その姉を見て育った〈卯ノ花姫〉
キャティーナは、イザベルカの国王陛下の
父方の従弟、ヴィーザル王国の次期国王
ライム殿下に嫁入りしたのだ。
18歳から20歳くらいで嫁入りする令嬢が
多い中で、珍しく、23歳の春に。
「ライム様ぁ、あのですねぇ
カルメリッサ姉様からお手紙が来ましてー
第三子が誕生したと書いてありましたぁ!」
「おお!君の姉君からのお知らせなのかい?
それは、おめでたいね!」
セテファ殿下や、アガフォーン次期辺境伯の
ユーリスにそっくり………だけど、黒髪黒目な
青年、ヴィーザル次期国王、ライム・ティ・
イザベルカ・ヴィーザル殿下だ。
ゆるゆるな口調の自分の妃、キャティーナに
苦笑しつつも、なんだかんだ、実は、才女な
彼女を気に入って、妻に迎え入れた。
もちろん、人前では、立派な妃としての口調
振る舞いをしているが、家族のみの時間帯は
こうして、ふわふわ、ゆるゆるなのだ。
「ふむ、君の生家、アリアーノ公爵家か。
嫡男のアロイス、次男のロゼに引き続いて
今度は、どんな子なんだい?」
「わあ! 第三子も、男の子だそうですぅ!
ノエルくんって言うそうですよぉ!」
「おやおや、3人目も、男の子なのかい?
それは、賑やかになりそうだね!」
ライム殿下自身、2人の弟と4人の妹が
いる7人兄妹の嫡男だから、男兄弟の大変
賑やかな幼少期を、思わず、思い出した。
キャティーナは、2つ上のカルメリッサと
2人姉妹。男ばかりな兄弟の大変さは、
いまいち、ピンと来ていないようだ。
「あとですねぇ、エレガノット公爵家には
第三子の女の子が誕生したそうですぅ!」
「おお! 確か、セテファ兄さんの妃の
ご生家だったかな? ヴィーラリア王国は
ますます、発展していきそうだね!」
「はい!お名前は、ブランシュだそうでー!」
エレガノット公爵家には、嫡男のマイオン、
長女のヴァイオレットに引き続き、第三子の
次女、ブランシュが誕生したらしい。
イザベルカのエレオノーラ妃、
ヴィーラリアのエウラリーア妃、
あと、オウルドール伯爵夫人となられたと
噂のフェリチタ夫人の姪っ子にあたる。
「あ!次世代の妖精姫となるかもしれないね!」
「なら、〈紫水晶の妖精姫〉〈白真珠の妖精姫〉
というのは、どうでしょうかーー?」
「おお! それで、行こう!」
エレガノット公爵家出身の〈露草の妖精姫〉
〈白百合の妖精姫〉〈春紫苑の妖精姫〉の次世代
後継者として、噂が立ちー
その姪の、ヴァイオレットとブランシュは、
知らぬ間に、〈紫水晶の妖精姫〉〈白真珠の
妖精姫〉と呼ばれ、親しまれていく。
が、まさか、命名者が、異国に嫁入りした
キャティーナだとは思わないだろう。
「わたしはー、ライム殿下をお支えしてー、
ヴィーラリアや、イザベルカとの同盟国を
強化したいですぅー!」
「うん、ありがとう! セテファ兄さんや
レオニースト殿との連携も、強化するよ!
キャティーナ、一緒に頑張ろう!」
「はい! 頑張りますぅ!」
「キャティーナ王太子妃
お初にお目にかかります。」
「ええ、ようこそ、いらっしゃい。
貴女が、今年の留学生ね、イザベルカの
セテファ国王陛下から聞いていますよ。」
イザベルカからの留学生だという少女の前で
キャティーナの、いつもの、ふわふわとした
面影は、全く、無い。
その姿は、姉のカルメリッサによく似ている。
「わたくしは、イザベルカ王国の北部に位置
します、北のアガフォーン辺境伯家の三女
カーラと申します。15歳になります。」
「ふふふ。カーラと言うの、宜しくね。」
セテファ国王陛下によると、
アガフォーン辺境伯は、イザベルカの王族
ユージェルト公爵の父方の年離れた従弟に
あたるアイラート殿が務めているそう。
彼女は、そのアガフォーン辺境伯の三女で、
親族のオウルドール伯爵のフェリチタ夫人が
可愛いがる妹分だそうです。
「フェリチタさんは、お元気でしょうか?」
「はい、フェリチタお姉様は、三児の母と
なってからも、とても明るく元気ですよ。
嫡男のフォンタールは、年相応の2歳児
らしく、飛び跳ねるようにお元気です。」
キャティーナと同い年の、エレガノット
公爵令嬢、フェリチタは、カーラの従兄
フィレオンに嫁入りしました。
同い年のフェリチタが、すでに三児の母!
驚きましたが、母子共に、お元気そうで
なによりですね。
「カーラさん、これから2年間宜しくね。」
「はい、宜しくお願い致します。」
「カーラさん、良い子でしたよぉ〜!」
「うん? ああ、イザベルカから来た子か!
アガフォーン辺境伯家から留学生だよね?」
イザベルカの北部、アガフォーン辺境伯家。
あの大国・イザベルカ王国の中でも、かなり
主要な位置にいる王族のひとつだ。
「はい、そうです!カーラさんはですね!
従兄の奥さんになったフェリチタさんの
影響で留学したいってなったそうですぅ!」
「ふむ、なぜ、ヴィーラリアではなくて、
ヴィーザル王国を選んだのかな?」
キャティーナも、ライムも、主要人物の
カーラが、ヴィーザル王国に嫁入りして
くれれば良いのにー。
私情を挟めば、そう思ってはいるのだが
実は、アガフォーン辺境伯領内に住んでいる
グランツィー子爵家の嫡男、ディランという
幼馴染の青年が、婚約者らしい。
「それはですね、アガフォーン辺境伯家は、
ヴィーラリア王国のシャーフ辺境伯家とは
隣接しているけどー、ヴィーザル王国には
行く機会なかなか無いからじゃないかって
言ってましたぁ!」
「ああ、なるほど………フェリチタ夫人は、
セテファ兄さんの義妹にあたる方だから……
ある意味、伝手はあるわけだね。」
「はい、そうみたいですぅ!」
それから、
2年の月日が経った25歳の春。
ヴィーザル国王陛下となられた
ライム殿下とキャティーナ王妃の間に
待望の王太子、クオン殿下が誕生した。
これまた、ライム殿下や、セテファ陛下に
そっくりな可愛いらしい御子だ。
「まあ!なんて可愛いらしいのでしょう!」
「オーリオラ姫、イザベルカから見に来て
下さって、ありがとうございますぅ〜!」
12歳になるイザベルカ王国の第一王女
〈鈴蘭姫〉オーリオラ姫。
ライム陛下とセテファ陛下は、従兄弟同士。
なので、12歳も離れた可愛いらしい再従弟
クオンの様子を見に来て下さいました。
「ああ、可愛い!ユディファとそっくりです!
ユディファも、こんなに可愛いらしい赤ん坊
だったのかしら? お母様!」
「ふふ。ええ、もちろんそうよ。
キャティーナ様、お久しぶりですね。
この度は、おめでとうございます。」
「エレオノーラ様、お久しぶりですね〜!
ありがとうございますぅ!」
オーリオラ姫は、まだ、12歳なので、
一緒に、セテファ陛下の妃〈露草の妖精姫〉
エレオノーラ妃も来られていました。
ヴィーラリア王国、エレガノット公爵家の
長女として生まれた方なので、小さな頃から
フェリチタと一緒に、遊んでもらいました。
今や、一国の王妃同士なので、不思議な感じ
なのですが、久しぶりの再会になりました。
「フェリチタの親族、カーラが、お世話に
なりましたね。ありがとうございます。」
「カーラさん、とても良い子でしたよー!」
アガフォーン辺境伯家の三女、カーラは、
自国へと戻っていったそうです。
たまにお茶会して、大変仲良くなりました。
「ふふ。カーラさんは、グランツィー子爵家の
嫡男、ディランに嫁入りすることが決まって
来年の夏に婚姻予定のようですよ。」
「まあ!おめでとうございますぅ〜!」