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5 リサイクルとかSDGsとか

見捨てずお読みいただきどうもありがとうございます。

ベルは今回もカイを困惑させております。

 朝食後、俺はもう一度コンロをよく見せてもらった。


「ええと、この魔石は発熱するってことだね?」


「そうよ。タヴァナー領は魔鉱石が採れるけど出荷には見合わないものもたくさんあるから、それを使わせてもらってるの。こっちよ」 


 ベルに引かれて厨房の裏の洗い場がある10畳ほどのスペースに行くと、壁一面に作り付けの棚があり、中には籐のような植物の蔓で編んだカゴや木箱がきれいに並べられていた。その光景はまるで…


「む…無◯良◯…?」


「いいでしょう?これも庭師のフィルが作ってくれたのよ。最近庭のこと以外でもたくさん働いてもらっているから、お給料をアップしてもいい?」


「…あ、ああ…」


 前世のどこぞのお店のように整っているパントリーを見て圧倒されつつ返事をするとベルは「よかった!」と喜んでいる。一体この中は何が?


「ベル…その、このカゴの中は…」


「前のうちの台所と大体一緒よ。上は軽めのもの、この辺りは保存食、瓶詰めのジャムは重たいから下、あ、魔石も下だから」


 重さを聞いたわけではないのだが、とりあえず保存食とジャムと魔石が入っていることはわかった。そしてベルが一番下の木箱を引き出すと、ゴツゴツした不揃いな魔石がたくさん入っている。


「このゴツゴツしたのは燃料用よ、バーベキューの炭っぽいでしょう?冷蔵庫用はこっちの丸いの」


 そう言ってもう一つ引き出した木箱には丸みを帯びた魔石が詰まっている。昨日見た時は冷蔵庫に驚いてそれどころじゃなかったけれど、こんなにきれいな魔石を一体どうやってこんなに…


「あのさ、これ、どうして丸いの?」


「ああ、最初はどっちもゴツゴツしたのを使ってたんだけどね、燃料と間違えると嫌だから、形を変えたの」


「うん、そうだね…で、どうやって丸くしたの?」


 どうして俺が聞いていることから微妙に外れた答えを返すのか…でもこれは前世からそうだったなと思う。でもそのズレたところがなんていうか、俺とは違うことを重視していることが感じられて、そして俺とは大きく違う人間なのに、俺と一緒にいることを選んでくれたことが愛おしくて…いや、いかん、今考えるべきは魔石のことだった。


「採掘場で出る欠片をね、もらって来てもっと細かくして、水と糊と紙の粉と混ぜて丸めたの」


「粉と糊と水と紙…」


「そう、ほら、私が児童館で子どもたちといろいろフィギュアとか置物とか作ってた石粉粘土ってあったでしょ?あれと同じ。できるかなって思って作ってみたんだけど、もう最初は全然できなくて大変だった〜」


 ベルによると水と混ぜた時は全く固まらなくて、まとまってもすぐに崩れてしまったそうだ。その後いろいろな糊を試してみたところ膠が良かったとのこと。より絡み合って丈夫になりそうな物を、と試して紙の粉も一緒に混ぜることに落ち着いた、頑張った、と得意気だ。


「使い途が冷蔵庫だからそこまで丈夫じゃなくてもいいかなと思ったのよね。入れておくだけだし。実際にこれまで使っていて壊れるとかはなかったけど、どれくらい保つか記録は取っておいたほうがいいわよね。まあ採掘場じゃあ廃棄するものだって言ってたから、そこまで長持ちしなくても惜しくないし、リサイクルで環境にもいいでしょ?SDGsよ!」


「SDGs…そうだね」


 ニコニコしながらガッツポーズをとるベルを見て、俺は背中に冷や汗を感じた。


 俺が領主になってから、いろいろ開発して新たな鉱脈を見つけたり品質管理をしたりして領地経営は改善しているけれど、如何せん魔鉱石は資源なのだからいつかは枯渇する。どれだけ無駄をなくすかは重要な課題で、どこかで他の特産物の活用や何かにスイッチするなどうまく対処できなければ我が領地は衰退する未来が決まっているのだ。


 そこにベルの廃棄物のリサイクル発言だ。屑同然の魔石の欠片がこうして使えるようになったら、どれだけ領地のためになるかわからないし、今は貴族の義務である魔石作りが家でのエネルギー環境の向上に多少でもつながるとなれば、現在すでに各家にある魔石を積極的に活用するだけでなくもっと手に入れようという家も増えるかもしれない。


 何より、アンドリューが言っていたように守りの力を中央や拠点の教会だけでなく、地方やそれこそ僻地にも行き渡らせることができるようになる。


 司祭たちが日々の仕事として守りの力そのものをリサイクル魔石に込めて配布すれば、あとは魔力を引き出せる者がいればOKなのだから。司祭たちの場所に縛られるという負担が減るのはいいことだ。大きくて良質な魔石と同時に、小型で大量の魔石が流通することになれば、あっという間に変化が起きるだろう。


 ベルがしたことは、経済や教会のシステムに影響を及ぼしかねない。でも彼女はそんなこと全く考えていなくて、単に暮らしやすいように、前世であったもので再現できそうなものを頑張って作っているだけだ。


 冷蔵庫も作り置きがしたかったことが理由で、しかも俺の好きなラタトゥイユのことを気にしていたのだ。この先の王都からの介入という大きな問題への不安とベルへの愛おしさとがないまぜになった俺だった。

お読みくださり、どうもありがとうございました。

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