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4 灯油ポンプとかファイヤースターターとか

冷蔵庫とくれば次は…

 魔法騎士アンドリューが帰ったその日は、二人共疲れて早くに休んでしまった。本当に疲れたからな…。夢見も悪かった。そして次の日、朝食の準備を一緒にしながら俺はベルに厨房の冷蔵庫やパントリーのことを詳しく聞いた。


 まずは冷蔵庫だが、これは元々食料貯蔵庫としてのスペースがあったそうだ。


「でもお芋とかは裏でごろごろ箱に入って積まれているだけだし、この辺りにはお塩とかお砂糖が並んでいて、後はお酒があったわねぇ…とにかく料理をしようと思うと全部一から作らないといけないから時間がかかって仕方がなかったの。だから冷蔵庫があったらいいなと思って」


「…思って?」


「ええと…作った?」


「…」


「箱は自分で作ったわけじゃないもの、そこまで大変ではなかったわよ?」


…俺は大変だったかどうかを知りたいわけではないのだが。気を取り直して別なことを聞く。


「もう一度聞くけど、魔石からどうしてあんなに自動で冷気が出ているの」


「家でもお母様が照明用に魔石を作っていたから同じようにしてみたの」


「いや、照明は光に変換する装置がついていただろう?ほら、壁とかに大きめの…」


「あー、そう…だったわね。でも何もついていない方が使いやすいでしょ?だから、アンドリューさんに教えた通り」


「冷気が出そうなところを見つけて灯油ポンプみたいにって?」


「そう」


 この世界の魔法は魔石に込められた魔力を引き出していろいろなことに使えるように変換する。電池と同じだ。引き出すためにも力がいるので、人が直接変換するのでなければ照明のように装置や器具が必要だ。電池だけあっても困る、と言えばわかるだろう。


 器具や道具無しでいけるのは治癒と守り、か。とにかく使い勝手が悪いのだ。


 このように直接の変換にしてもそのバリエーションはそう多くはなく、だからそれが多様にできるゲームのルナはイレギュラーで貴重だった。まあ、クリアが簡単なゲームで、そういう細かな設定よりもいかに多くのキャラを攻略できるかがメインだったのだけれど。


 そもそも魔力の循環や放出、魔石に魔力を込める際の不要物の生成による体調不良は人によっては筆舌に尽くし難いもので、訓練によって軽減される場合もあるけれどなかなかどうしてあれは危険と言って良い。


 毎日最悪レベルの「二日酔い」に耐えられるか?無理だろう。最初はベルも苦労していたはずなのに、いつの間にこんな魔石や冷却の仕組みを。


「…そんな簡単に…」


「だって、ずっと私がついていなければいけないなんて面倒だし、時間がもったいないわ。だから出来そうな方法を考えたの。何度も失敗したけど、灯油ポンプを思いついたら、その後はそこまで難しくなかったわ」


「…」


 なんだろう、この理不尽な感じ。第一ベルは、いや塔子は灯油ポンプの構造なんて詳しくは知らないと思う。ただギュウギュウ何度か握って離せば液体が出るっていう事実だけで。


「…冷気は?」


「それは、私が上手く引き出して変換できる力は冷やすことと熱することだから、どちらかをそのまま空っぽの魔鉱石に込められたらいいなと思って」


「でも、普通はそんなことできないだろう?」


「あのゲームではね。でもここは…私達にとってはゲームじゃないもの。できたらいいなと思ったし、実際にやってみたらできたの」


「…できたらいいな、で…」


 前世の創作物では魔法はイマジネーションだと、イメージする力が強ければ使えるというものが多かったことを思い出す。


 確かに俺はここでは魔石は魔力をためる電池・タンクのようなものだと思っていたから他の方法を試すなんて考えもしなかった。「できない」と思っていたのだから。


 前世でも電池がそのまま冷たくなるとかとか熱くなるとか、そんなことは危険だしやらないだろう。でもベルは違った。石を空にすれば中に魔力が込められるなら、その魔力が「冷やす力」そのものでもできるのではないかと考えた。そしてそれを自動で引き出すイメージを前世の物である「灯油ポンプ」から得て、実現した。


「…カイ、怒ったの?」


「いや、怒ったりしないよ…ただ驚いただけで。それに、すごいなと思って」


「すごい?そう?」


「ああ、俺はそんなこと考えもしなかったから。ベルはすごい」


 心配そうな表情をしていたベルは俺の返事を聞いてパッと笑顔になった。ああ、俺はベルを不安にさせていたのか、と反省する。そうでなくてもベルが1人でいろいろと奮闘していたことに気付かずにいたことに罪悪感を抱いているのに。思わずベルを抱きしめる。


「でも、他の人に知られる前に俺には先に話しておいてほしい。周りにどれくらい知られてもいいのかとか、使い方で気をつけなくてはいけないこととかを確認しておきたいから。昨日は本当に焦ったからね」


「それは…ごめんなさい。大したことではないと思ってしまったから」


「いいんだ、これからは一緒に考えたいっていうだけだから」


「うん。気をつけます」


 ベルは俺の背中に手を回し、ポンポンしてくれた。この世界でも小柄なベルの可愛い手が俺を気遣ってくれることに幸せを感じる。俺のほうが身体は大きくて強いのに、この世界でやっていくのに必死で、ベルがここで1人で頑張っていたことにも気付かない情けないヤツで。


 俺はこの世界でもこの人がいないとダメなんだと思う。ベルにも同じように俺を欲してほしくて、もっと、もっと力をつけなければと焦りを感じる俺をベルはポンポンし続けてくれた。


 しばらくそうしていて、そのうち何となく落ち着いて、二人して笑った。そしてどちらともなく朝食を作ろうと動き出す。俺は紅茶を淹れようと湯を沸かすためにやかんに水を入れた。そしてかまどに目を向けて…固まった。


「どうしたの?」


「…ベル、このかまど…」


 以前は中で石炭や薪を燃やせるようになっている四角い石造りの囲いの上に穴を開けたかまどがあった場所には、形こそ同じだが下は空きスペースになっている四角い石の台があった。


 上部には四箇所に穴が開けられ、その中にゴツゴツと不揃いな魔石がそのままゴロゴロと入っており、その上に五徳が乗せられている様子はまんま前世のコンロだ。


「ああ、それも魔石で熱を…ってこれも言ってなかったわ、ごめんなさい。冷蔵庫がうまくいったからこっちもやってみたの。炭や薪を使うと煙たくなるから、魔石が使えると良いなと思ったのよね。これは温める時はこの棒で…」


「…棒」


「ええ、こうして擦ると、ほら」


 ベルが20センチほどの木の柄の先に短めの金属の棒が取り付けられた物でそれぞれの魔石をシャッシャッと擦れば、穴の中の魔石が熱を放つのが感じられた。


「もしかして棒で擦るのって…」


「ええ、キャンプで火起こしをした時にあなたが持ってきてた、火起こしが出来るアレよ」


 やっぱり、ファイヤースターターのことだった。でもあれはマグネシウムとかの…と言っても絶対に困った顔をして終わりだろう。


「…そうなんだ、すごいね」


そう言うとやっぱりベルは得意そうに顔を上げ、笑顔になって


「そうでしょう?煙たくならないし、便利なの。弱火にしたり強火にしたりの調節は石の数でできるの。でも見た目だと発熱中かどうかがわからないからちょっと危険なのよね。あとは魔力がなくなるまで放っておくのがもったいないから…何かいい方法がないか考えるわね」


と言った。


 最後のところはちょっと口を尖らせて…可愛い。いや、それはそうだけど、このコンロのことも含めて内心どうしようかと思いながら二人で朝食を作った。

お読みいただきありがとうございます。

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