24 カイの驚き
どうぞよろしくお願いいたします。
具体的ではありませんが、災害に関する話題が出てきます。苦手な方はご注意ください。
「俺は『たてはら市』で働いていた。転生は60歳。この世界で8年だから中身は68歳だよ」
「えええ〜っっ?」
ランドルフの甲高い声に顔の奥がブルっときた俺だったが、
「驚くのはわかるけど、声が大きいよ。落ち着いて」
と片手でランドルフを制すると、彼はアッという顔をして口を閉じた。
「で?どこで働いていたの?俺の話をあれだけ普通に受け止めて聞いてたんだから、公務員だったことには間違いないよね?」
俺の言葉にランドルフはブンブンと頷いた。
「は、はいっ、公務員でした。そして、その、俺も『たてはら市』で働いてました!」
「ええーっ?」
今度は俺が大きな声を出してしまった。
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取りあえず、と厨房から執務室に再び移動した俺達は、ジャクソンにお茶を頼むとソファに座った。
「いや、正直想定外で…参ったな」
俺の言葉にランドルフも大きく頷いた。
「驚かせるつもりだったのに、俺のほうが驚いてしまって、カッコ悪」
「そんなことありません!て、あの、いつ俺が『転生者』だって気づいたんですか?」
ランドルフの言葉に、
「『冷蔵庫』や『水道』って言葉の発音や使い方が他の人たちとは違ったこと。あとは専売制度や行政の進め方に対する反応が10代のソレじゃあなかった。予算案やロードマップの話をしても聞き返さなかったし」
と答える。ランドルフは
「いやぁ、あまりに自然なやり取りだったんで、普通に返事をしてしまいました。そうか、これって今の俺の歳、18じゃあ無理でしたか…」
「そもそもここじゃあロードマップとは言わないね。ああ、エネルギー革命とかも」
「…俺、ここに『転生』したの、2ヶ月前なんですよ…」
「あー…そうなんだ。じゃあ俺の話に出てくる言葉は聞き慣れてたし警戒もしなかったね。まあ俺も試しながら話してたから、ちょっと意地が悪かったよ。すまなかった」
ランドルフは『いえ、王都では俺が変わったことを言ってもみんな「何だかすごいな」みたいな反応で流されてたんで』と、首を横に振って苦笑いしている。
「でも、ここに来て、学生なのに文官でって、驚いたんじゃないの?」
「ええ、何がなんだかわからない中でとにかく学校で勉強して、仕事にも行って。業務内容はそう難しいものではないので困りはしませんでしたが、なんだかアルバイトしてるみたいで、でも上手くはいっていて…だもんで、仕事を甘く見てました」
「前世はどこにいたの?」
「俺はまちづくり、文化観光、最後は総務です。って言っても4・3・3年でまだまだ下っ端ですけど」
「へえ、なかなかだね」
俺がいたのは危機管理局だったので、多少の親近感を覚える。
「でも10年か、いろいろ考える時期だよね」
「ええ。主任面接を受けたところでした。総務では危機管理との橋渡しの部署で忙しくて…でもこれが終わったら係長試験を視野に入れて行き先の希望を出したいと思っていたんです。できれば危機管理でって…でも」
「何があったの?」
「局またぎで災害派遣の依頼があって受けたんですけど、派遣された先でさらに事故があって」
「…っそれは…大変だったね」
俺は自分のことを思い出して少々息苦しさを感じながらそう言った。俺も他市の災害支援の業務で無理をしたのが祟ったのだ。もちろん自分が行ったわけではなく派遣の調整やらをしていたのだが。仕事が原因だったことには変わりない。
「ええ。だからここで気がついた時には、生きてるってことに感謝しました。何でもやってやろうって思いましたし、もう頑張るしかないって」
「王都での仕事って、前世と比べてどう?」
「そうですね…何というか…作業はあるんですけど、その上の理念みたいなものはあまり見えてこなくて、ただ言われたことをきちんとしていくって感じです。もっとやれることがあるんじゃないかって思ってしまうくらいで。
だから今回、ここに人を派遣するって言われて手を挙げたんです。あのクレメンスの変化にも驚いたし、魔石の可能性はすごいって感じて。
でも…全然、ダメダメでした」
苦笑しつつ肩を落とすランドルフに、まあまあと声をかける。
「まだ経験が10年じゃあ仕方ないよ。これからだろう」
「いやぁ…」
「ところでさ、君が事故に遭ったのって、何年?俺は向こうで20XX年に来てから、ここで8年なんだけど」
「えっ、そうなんですか?俺はその6年後です」
「2年の誤差か…ベルも2年遅れて来たし、何かあるのかもしれないけど、俺にはわからないな…」
「あの…亡くなったのが20XX年なんですか?」
俺がうっすらと年度の計算をしているとランドルフが気まずそうに訊いてきた。
お読みくださりどうもありがとうございました。
作中出てくる自治体には特にモデルはありません。いろいろな自治体の組織を参考にしています。また前回の専売についても異世界でのものと考えていただければと思います。




