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苦労は続くよどこまでも 〜妻に近づく攻略対象者との戦いの日々〜  作者: 青木薫


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21 ランドルフへの説明

今回もお仕事の話が多いです。

よろしくお願いいたします。

 3人で厨房へ移動し、まずは、とレイゾウコを開けた。


「これは…おお…『冷蔵庫』」


 ランドルフはレイゾウコの中を見て感動しているようで、魔石が入っている上部の箱や内部の構造を開けたり閉めたりしている。


 俺は彼の様子に引っかかったが、指摘はしないでおいた。ランドルフは俺の視線には気付かず感想を言っている。



「これを高位貴族以外の家が使えるようになったらすごいな…」


「そうだろう。保存の期間が長くなれば店に行く頻度や買う物の内容も変わる。変な話、石炭なんかで走ってる汽車に冷やせる箱を積めば、輸送できる物も変わっていく」



 ランドルフの言う通り、ベルの身体を張った発見と改善は本当に世界を変える可能性がある。本人は邪魔にならないようにと思っているのか俺達から離れた厨房の隅でニコニコしているけれど。


「ああ、これまで地産地消で近隣でしか消費されていなかったものが遠くでも買われるようになれば…各地で特産品が生まれる」


 文官らしいランドルフの意見だ。もちろん、そればかりが良いわけではないがと俺は釘を差しつつ、


「クレメンスが王都で魔鉱石と魔石について広めてくれれば、魔力酔いを防ぎながら魔力を込めることができる人が増えて、そういったことが可能になるかもしれない。


 それが人々にとって良いことに使われるなら、俺達も協力したいとは思っている」


と続けた。



 前世での冷蔵庫や飲料に適した水の供給による生活の質の向上を思い返す。特にキレイな水は人々にとって重要だ。早く整備された方がいい。


 俺はベルの作ってくれた水道の蛇口…と言っても回すタイプではなく上下に動かすレバーを動かしながら、心の中で、厨房の隅で俺の話を聞いているベルがこれをどれほどの試作を重ねて作ってくれたのかと感謝しながら話す。



「でも、そのために領地が、領民が荒れるのならば話は別だ。それは結果的にタヴァナーでの採掘に悪影響を及ぼし、王都にも波及するだろう」



 ランドルフは黙って聞いている。タヴァナーで問題が起きれば当然採掘にも影響が出ることは理解できているだろう。そして俺が領地でのイザコザを避けたいがためにこの話をしているんだと考えているんだろうな。


 でも俺はその先の方がもっと大切なんだ。


 どう言えば伝わるか…。まあとにかく話すしかないだろう。


「あのさ、畏まるのはここまでにさせてほしい。ちょっと伝わっていない気がするから」


 俺の言葉にランドルフが眉根を寄せつつ頷いたのを見て、説明を始めた。


「まずね、俺は魔鉱石の採掘を独占したいとか、値を釣り上げたいとかは考えていないんだ。むしろ他の地域でも発見されて、多くの人々がその恩恵に預かれるようになればいいと思っている」


「そのことでタヴァナーの利益が減っても?」



 ランドルフの口調も俺に合わせたものになった。そして彼のそれは当然の疑問だけど、利益だけ考えてちゃダメだよ、若者よ。


 もちろん、他でも魔鉱石の鉱脈が発見されればうちの独占ではなくなる。そして新たな鉱脈との競争で価格を抑える必要が生まれる。


 …いや、まあ協力して価格を下げないようにする手もあるけどそれは談合になって国民の利益を損なうことになるから元公務員としてはできない…まあそれは置いといて。



「これまでは魔石の利用に伴う魔力酔いのせいで防衛軍事利用以外はそこまで重要視されてこなかった。しかも現在は平時で教会と貴族以外は魔石なんてあまり関係ない生活だったよね。


 だから教会用に細々とうちが採掘して売っていくので十分だった。既に貴族の家には配置されてるしね。


 あとは人口が増えるのに合わせて新たな教会に納めるのと、あまりに扱いが雑で傷んだ物を替える、式典に合わせて新調する、そんなものだった。


 うちだって今後いつまでこの経営でやっていけるのか?って思うくらい」


 ランドルフが頷く。


 実際、魔鉱石や魔石って、ゲームの世界ではルナがモテるための設定みたいなものだったのだから、市民は普通に石炭やガスで暮らせているんだ。でも、ベルが魔力酔いの解決と用途別の魔石の作成を可能にしてしまった。


 恐ろしいことに、新たな便利なエネルギー源の創出だ。


「でも、こうなれば他でも鉱脈探しが盛んになるだろう。そうなればどこかで発見される可能性は高いと考えている。再利用魔石も作れるし、供給が増える。


 そうなると、貴族、裕福な商家、市民、と徐々に利用が広がる。そして、生活必需品として広く使われるようになれば次は魔石を買い占めたり、良からぬことに使ったりしようとする者も出てくるものだ。


 ああ、でもね、人々の健康的で安全な暮らしのためなら、やっぱり魔石は使われた方がいいんだよ?


 それでも、悪いことを考える奴っていうのはいる。今は魔鉱石は教会のために出荷しているから問題ないが、これで出荷先が増えたらどうなる?


 一儲けしよう、富を自分のものに、ってくらいならまあ…でも、魔力を使って人を傷つけようとする輩が現れることもある。少なくとも俺はそう考えている」



 ここでランドルフはハッとした表情になった。そうだよ、君が持ってきた教会以外のところからの要望への対応。それは国にとって求心力を高めるためにも応えておきたいところだろうが、すごい危険も孕んでるんだ。


 なんたって魔石には目的別の魔力を込めることができるようになってしまったのだから。それって中身によっては爆弾や何かの武器みたいな物を持ち歩ける可能性が生まれるってことだ。


 これまではランドルフは、おそらく俺が領地と国の両方にとって益にならないことを言っていると思ってたんだろうが、ここでちょっと顔つきが変わった。



「だけど、何か事件・事故が起きた場合に、予め出荷・供給などの管理をしておけば、誰がどれくらい魔鉱石を購入したかがわかる。


 怪しいところがあれば調査・追及できるし、管理そのものが事件や事故の未然防止になるだろう。買う方だってまだ流通量がそれほど多くない今はそんな馬鹿なことはしない。バレるからね。


 でもさ、流通量が増えてから、問題が起きてから、その仕組みを作ろうっていうんじゃあ遅いんだ。今のうちにそうした運用方法を確立しておくことが必要なんだよ」



 ランドルフは成程という顔をした。まだ終わりじゃないけどな。


「そしてその仕組みの1番先頭に立って働くのは、鉱山で働くうちの領民だ」


「あ…」


 ようやく気が付いたか。

お読みくださりありがとうございました。

しばらくこんな感じになります!

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