20 ランドルフとベル①
カイ、ランドルフがいろいろと気に入らない様子です。
結局ベルは執務室でランドルフに挨拶をすることになった。
レイゾウコも魔石もベルの功績なのだから当然だし、それを俺の手柄にするつもりもないのだから良いのだが、ランドルフはベルの最推しだったので面白くない、というか不安でしかない。
娘のマリエに頼んでゲームに登場させた『俺』が現れたのだから。しかもゲームキャラだから当然元の俺よりカッコいい。
要素は俺だけど。 俺・だ・け・ど。
ランドルフはベルと顔を合わせると、細い銀のフレームの奥のスッキリとした切れ長の目を細めて笑顔を作り、
「初めまして、王都で文官をしております、ランドルフ・スローンと申します。この度はクレメンスからの紹介で魔鉱石と魔石についてタヴァナー男爵にお願いがあってまいりました。しばらく滞在の予定ですのでどうぞよろしくお願いいたします」
と頭を下げた。黒髪がサラリと揺れる。
「あ…わ…は、はい、私はカイ・タヴァナーの婚約者のベルでございます。ど、どうぞよろしくお願いいたします」
ドギマギしながら自己紹介をするベルに微妙な気持ちになる。
だってランドルフは『俺』であって『俺』ではない。前世の俺の姿にドキドキしているのは嬉しいが、今はカイ・タヴァナーである俺の婚約者だろ?そんな顔をするなよ。
「ええと、初めまして、とはご挨拶しましたが、先程私の名前をお呼びになりましたね?どこかでお会いしたことが?」
「えっ?いえっ、その…」
「優秀な文官がいるという噂はこの田舎にも流れていてね。容姿についても詳しく語られているよ…黒髪に眼鏡はこの辺りではあまり見られないから」
「ああ、そうですか…それは光栄ですね」
モゴモゴ言うベルに助け舟を出したのだが、でっち上げの褒め言葉を素直に受け取るランドルフにちょっと違和感を覚える。
ゲームでのこいつは真面目な、旅行のお土産はペナントを買ってくるような、朴訥と言っていい公務員だったはずなのに、謙遜するどころかサラッと流した。ますます腹立たしい。
「では、早速ですが、クレメンスに教えてもらった『冷蔵庫』や『水道』の設備について、見せていただいても?」
ベルが挨拶しているのにサラッと仕事の話かよ!とムッとした。しかも突っ込みどころが…いや、でも、なるべく接してほしくないからいいのだ。でも、…ベルが
「は、はい。あ、でも良ければ先におやつはいかがですか?」
と誘ったため、ランドルフはトレイの上のショートブレッドをチラリと見やり、言った。
「ああ…これは失礼」
俺達はソファに座り直した。
本当は食べなくても良かったんだろうな、とランドルフの反応から察した俺は腹立たしかった。外見が俺だけに余計そう感じた。
それでも、喧嘩を売っても仕方がない。俺達は三人で一見和やかにショートブレッドを食べながらクレメンスの話をした。
「クレメンスは元気に過ごしているかな」
「ええ、魔鉱石・魔石の取扱い、魔力の込め方、力の引き出し方と、全てに秀でている彼は今や時代の寵児ですよ。元々優秀ではありましたが、もう引っ張りだこで」
「そうですか、それは良かったです。クレメンス様が元気で何よりです。ねっ、カイ?」
嬉しそうなベルに俺も笑顔で頷く。
「タヴァナーへ行く前はちょっと胡散臭いところがあると感じていたのですが、戻って来てからは何と言うか、随分と積極的でして。相手の出方を待つのではなく、彼の方から必要な人や組織に働きかけて魔石に関することを進めているように見えます」
初対面の俺達に友人のことを『胡散臭い』とか言うなよ、と思いつつも、クレメンスが褒められたことは嬉しく、
「そうか…元気に頑張っているんだな…良かった」
そう本心から答えた。
「正直、彼があんなにも社会に貢献しようとするようになるとは…意外でした」
ランドルフの気持ちは理解できなくはない。俺達だって最初はクレメンスのことを警戒していたのだから。でもここで過ごすうちにクレメンスは変わった。成長した。努力したんだ。
「ここでの暮らしが彼には合っていたのかもしれない。優秀すぎるくらいの彼を特別視せずビシビシ鍛えたからね…主に、ベルが」
「ビシビシ…ですか」
「ああ、失敗を恐れるな、とにかくやってみろってね。でも、その中にも優しさがあるんだよ。
ベルは人を…やる気にさせるのがうまいんだ。自分自身も努力家だし、その姿がクレメンスの心に響いたんだと思う」
「やだ、カイったら、褒めすぎよ」
ベルはちょっと顔を赤くしている。でも本当のことだ。
『やる気』と言ったが、中身が60過ぎのベルは子育ても仕事も経験しているので、相手の悩みやコンプレックスを理解して寄り添いながらも励まし、育てるのがうまいのだ。
「あのクレメンスがあれだけ変わったのですから、いい土地なのでしょうね」
「…ああ」
まただ。気に入らない。
俺が『ベル』と言っているのに、こいつは『いい土地』だと言い換えた。つまりベルがクレメンスに影響を与えたというのを信用していないか軽んじているということだ。
それならば尚の事、真剣に相手をする必要はない。いや、でもせめて実際にモノを見て、話を聞いた反応を確かめてからにするか。
「そろそろ移動しましょうか」
俺は席を立った。
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