19 ランドルフの計画
短編を頑張っていたので、連載は久々の更新です。ブクマありがとうございます!
お仕事の話が多くなっております。よろしくお願いいたします。
ジャクソンの運んできたお茶とお菓子を前に俺達は話を続けた。素直に受け入れる気はないが、話くらい聞いてもいいかという気になる相手ではある。
「鉱山周りの整備とは、運搬や鉱員の移動だろう。もう少し人が入っても安全なように坑内堀部分の内部の支保工や入口付近の強度整備を考えれば人手も資材も必要だ」
「あ、ああ…」
ここに来るまでにいろいろと鉱山のことを調べてきたのだろう、随分と性急に話を続けるランドルフに『そんなんじゃ足元見られるぞ』と思いながら頷く。
「奥方の発明した成形魔鉱石は素晴らしく、あれができるのなら手堀りだけでなく発破が使える。ああ、もちろん資源は無限ではないのだから、調査用として使って、その後は良質な物を手掘りで、ということになるだろう」
『奥方…まだ先だけどいい響きだな』なんて喜んでいる場合ではない。内容が大きい。
発破、それは俺も考えた。
思っていたよりも埋蔵量が多いことがわかってきたからできる、と思ったのだ。これまでは魔鉱石を無駄にできないと考えていたこともあって全て手掘りの垣根掘りだったが、ベルの考えたリサイクル魔石が作れるならば、最初の鉱脈探しを平場でドカンとやってから四方へ広げることができる。
しかしだ。
「それには随分と費用がかかるんだ。そして俺以外に、鉱山と採掘について専門的な知識や技能を持った人材も必要だ。
今は手掘りメインだから俺でも何とかなっている。納めるのは教会用で、そのための工期や工賃、採掘量の管理が主な仕事だから。
そもそも魔鉱石は性質と用途上高価だから、それでもやってこれたというのもある。
でも王都での需要や各地の貴族の注文に応じて採掘量を増やすならちゃんとした技術者が要る。どこか他所で働いていた経験のある人がいればいいが、そう簡単ではないだろう。
いないなら領地で育てなくちゃならないしな。結局は人が重要になってくるんだよ。
なんにせよ、うちの懐具合はそっちのほうが詳しいぐらいだろうが、ようやく黒字に転換したところだ。ホント、やっとだよ。
鉱山の整備は今回納めて流通している魔鉱石の代金が入ってからになるし、その後で効率化による増量、その間に人材の確保・育成、人の流入、だよ。逆じゃあダメだ」
「…」
「だから、それには数年かかるし、それでいいと思っている。王都には悪いがこればっかりはな、領地づくりは焦っても仕方がない…なあ、さっきから黙ってるけど、何かないのか?」
真剣に考えていたら、つい普通に語ってしまっていた。
「…タヴァナーの領主は若いのにすごいとは聞いていたが…聞きしに勝るとはこのことだなと…」
「…あ、いや、まあ…どうも」
俺の話を聞いたランドルフはちょっと居心地が悪そうだ。でも仕事に関することだし、王都から代表で来ている文官だし、若いけど理解できるだろうと思っても仕方ないよね?
「そういう君も俺と大体で言えば同年代だろうし、大差ないのでは?ここに派遣されてるわけだし」
「ははっ…ありがとう。でも、領主と文官じゃあだいぶ違う。まぁ俺は…いや、それはそうと、話を戻すが、今の計画の最初の整備費、これを国で持たせくれないか」
「えっ?今の俺の話聞いてた?最初のって、だからまずはそこが1番費用が…」
おいおいという俺に、ランドルフはさらに続けた。
「ああ、でもその価値があると国は考えている。これまで、何十年、いやもっと、動くことがなかった魔石の使い方に大きな変化が起きる。これはエネルギー革命になるかもしれない」
「エネルギー革命…」
「…とにかく、魔力酔いの軽減・解消と、温冷などの各魔力の蓄積など、新たな要素が奥方のおかげで発生し、王都では君の想像以上にタヴァナー領に注目が集まっている…王宮からもだ」
「…おっ王…そうかぁ」
一瞬凹んだランドルフだったが、今度はデカい言葉や政治的な流れを持ち出してきた。自分の役割を思い出して、何とか俺を説得すべく、優位に立とうという気持ちからだろう。しかしなぁ。
「男爵の言うことはよくわかるが、今はもうそういうことを言っていられる状況ではない、というかこの先は男爵の心配していたことしか起きないと考えたほうがいい。だからこそ、俺が来た。
いろいろなヤツラが男爵とお近づきになろうと画策中だ。実際に動き始めるのは間もなくだろう。
俺は若造だが、目端が利くというので最近はこうして仕事を任されている。心配かもしれないが、悪いようにならないよう一緒に検討していきたいんだ」
ランドルフは自分を『若造』と言い、タヴァナー領を心配している風だ。でも根底には俺よりも自分の方が上だという気持ちが有り有りで、俺は半目になりそうだ。
まあ、ランドルフの言っていることは正しい。でも、若造ねぇ…。
このままだとうちを食い物にしようと魑魅魍魎どもがやってくることになるのは想定済みだ。ランドルフだってクレメンスとの関係があるから、ひと足早く正規のルートで動くことができたというだけで要望は他と同じだ。
変な奴らの相手をして時間と労力を無駄にすることはない、というのは領地と王都の両方にとって益となる。
国からすれば、うちが疲弊せずに利益を上げられるようにするのだから手を組もうというのだろう。それもわかる。
ここまでの早さで動かれるとは思っていなかった、というのは俺の見込みの甘さだが、それでもベルの発見とクレメンスの帰還からこっち、考えていたことではある。
「時間はないぞ」
「わかってるさ…いいだろう。何日滞在する?」
「…3日間。それで決めよう」
『その3日間でお前がどう変わるか見ものだよ』と思いながら、俺はランドルフの手を取った。
と、その時。
「カイ〜お客様がいらっしゃると聞いて…アラ」
執務室の扉が開き、ベルが現れた。持っているトレイには山盛りのショートブレッドとお茶のセット…ジャクソン、絶対に通すなっっ!て言ったのに…。やっぱり無理だったか…。
目を丸くしたベルの可愛らしい口元から
「…ランドルフ…様?」
と奴の名前が零れた。
ああもう!
お読みくださりありがとうございました。この後も更新を頑張り完結までいきたいと考えております。
どうぞよろしくお願いいたします。