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18 知性派文官ランドルフ、登場

カイが最も会いたくなかった攻略対象ランドルフの登場です。ここ数話、お仕事の話が多くなっております。

「お初にお目にかかります、王都から派遣されてまいりました、ランドルフ・スローンです」


 執務室に現れた男を見て、俺は背中に汗が流れるのを感じた。文官ランドルフ…ここで来るとは思っていなかった。


 執事のジャクソンが案内してきたランドルフは、黒髪茶色目の眼鏡キャラである。細い銀のフレームが地味目だがバランスは取れている容貌に特徴を与えている。前世、ゲームで塔子が最も推していた奴だ。


 何を隠そう、恥ずかしながら、俺をモデルにしたキャラで前世の俺に似ている。もちろん若い頃の、だが。娘に頼んで入れこんでもらったのは塔子が俺の見た目が大好きだったから。ゲームであっても俺にキャーキャー言わせたかったんだよ。


 地方に出かけては領地の経営の監査をして、帰りにお土産としてペナントだを買って帰るのはちょっとアレな設定だったが、塔子が気に入っていたので良かった。


 でもそれが今、目の前に立っているのは脅威以外の何者でもない。だってそうだろう?今の俺は金髪緑目で整ってはいるが、彼女の好みでは正直ない。


 思わず執務室から追い出して、何なら門からも押し出して、扉を閉めてしまいたかったが、残念ながら門と呼べるほど立派なものは無いので渋々ソファを勧めた。第一、迂闊に外にいたら塔子に見つかるじゃないか。


 ジャクソンがいた時にはにこやかだったが、二人きりになるとランドルフの様子は年齢に合わない落ち着きを見せ、口調も実務的になった。


「それで、今日はどのようなご用件で?」


「アンドリューとクレメンスが関わった、魔鉱石と魔石の件で」


「…ああ、そうでしょうね」


「王都で我々の予想以上に、熱や冷気の込められた魔石の人気が高くて、貴族たちからの希望が殺到している」


「…ええ、それで?」


「もう少し採掘量を増やすべきだと議会で」


「要望が上がったと」


「そうだ。急激な供給は値崩れにつながるので悩みどころだが…タヴァナー男爵はどう思われる?」


 うん、思っていた以上に俺っぽい。俺も議会で質問がとんでくるとあちこち掛け合って落とし所を探した。どの程度なら呑めて、逆に押し返せるか。そこをうまく調整するのが面倒であり、また楽しくもあった。


「こちらとしては、きちんと買ってくれるなら文句はない、と言いたいところだが」


「だが?」


「領地としては急激な変化で荒れるのは好ましくない」


「ああ、そういう」


「数年かけてあと100人くらい増えればいいかと算段していてだな、そのためにまずは鉱山周りの設備の整備を計画している」


「…続けてくれ」


 フム、聞く耳を持っているところも交渉相手としては悪くない。慎重なのは良いことだ。


「俺としては、近々で新規の労働力を増やすより、現在の人数で採掘量を上げたいと考えているんだ」


「整備による作業の効率化だな」


「ああ、それから領民の生活の質的な向上を図りたい。魔石を使ったライフスタイル、生活様式の変化…これはレイゾウコやコンロの使用とそれに伴う食の向上等を狙っている。その上で人の流入だ」


「なるほど。生活がラクになった上で人が来るのなら、領民も歓迎すると」


「ああ、仕事が上手くいっているなら、もう少し人手が有れば、と思える。だが、まだ必要感の低い今ここで、急に新規の住民が来てもな…仕事の取り合いになるのではないかと揉めるだけだろう」


「まあ、ここはいろいろと条件が厳しいからな」


 採掘量を増やすために人を募集すれば、このタヴァナーの厳しい生活環境や条件でも稼げるなら耐える、という人々が集まりがちだ。今すぐに金が必要だという者も多くなる。


 もちろん様々な理由で都会では仕事が見つからないという人の中には、しっかり働ける人もたくさんいる。でも親の介護や子どもの世話が理由の人たちはこんな僻地に来ることはない。家族がいない、または置いて来るしかない、という人が多くなる。


 つまり、理由はなんにせよ、必死な人が来るということだ。そしてその必死さ故に焦り、周りが見えなくなる。ひいては小さなことでもトラブルが起きる。そして現状、領民の中にもそういった状況が苦しい者たちもいる。


 俺は領主として、この領地に住むみんなに幸せになってほしい。必死に稼ぐ中にも、日々の小さな楽しみを感じてほしい。自分自身を大切にしてほしいんだ。そのためには、今、新規住民を大量に受け入れる選択はしたくない。


 でもそれは閉鎖的に運営したいわけではない。今の領民も、これから増える領民も、どちらにも納得できる領地にしたいと思っている。できればその先の発展も。そのためのランドルフとの駆け引きだ。


「望まれて来た方が受け入れられるし、気分もいいだろう?そうなれば、鉱山だけでなく、食料生産や林業、商業に関わる人間も入りやすくなる」


「人が増えれば必要だからな」


「ああ、だから、何時までに、どれくらいの品質のものを、どれくらいの量必要なのか、訊きたい」


「…」


 文官ランドルフはソファに浅めに座り、膝に肘を付いて考え込むような素振りを見せる。黒い長めの前髪がさらりと顔に掛かる。『何だコイツちょっと格好いいな、俺のくせに』と思ってしまう。


 なんて微妙な気持ちにさせるやつだ。


「現状、どれくらい準備できる?」


「…おい」


 こっちが訊いているのに質問で返すな、と前世の自分を棚に上げて思わずムッとする。俺もしょっちゅうコレをして部下に叱られた。そっちの方が早かったからだけど、こうなると確かにヤダな。もう会えない彼らに心の中で謝る。


「…あ、いや…そうじゃない、悪かった。こっちが条件を提示すべきだった」


「…」


「今の話だと、鉱山周りの整備にかかる資金、そこがネックだろう?そこを国が持つ」


「詳しく」


「もちろんだ」


「あ、ちょっと待って」


 意外と話ができそうだと感じた俺はジャクソンにお茶を準備するように、そして絶対にベルをここに近づけないように伝えた。

お読みくださりありがとうございます。これまでの投稿分を修正してまいりました。いかがでしょうか。多少でも読みやすくなっていればいいなと思います。


そしてここからは久しぶりの再開になります。遅筆ですのでなかなか更新できないと思いますが、ブックマークしていただきお付き合い願えれば幸いです。


また、今月まで本業のせいで短編ばかり書いておりました。『作品』からそちらもお読みいただけると嬉しいです。


今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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