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15 クレメンスとの協力3

クレメンス、若者らしくなりました。

 その後もベルの笑顔の特訓により、クレメンスは魔石作り、魔石からの魔力の取り出しと別の魔鉱石への温冷の魔力込め、そしてやっと守りの魔力を込めることもできるようになった。


 ベルとクレメンスが一緒に練習しながら何やら調べた結果、採掘しただけの魔鉱石は中に余計なモノがあるようで処理をする時に魔力酔いが酷いこと、一度でも処理をした魔石は次回からはそこまで酔いが酷くないこと、そしてベルが台所で何度も魔力を出し入れした魔石はとても使い勝手がいいこともわかった。


 そこからベルはあれこれ考え始め、


「だから一日に何度もできたのね。もしかすると回数ではなく、自分がやれば自分の魔力に馴染むということかもしれないから、クレメンスも自分で何度もやってみれば?魔鉱石をいっぱい持って行くといいわよ」


「魔鉱石って最初は何が入っているのかしらね。でもそのおかげでソレが抜けると魔力が込められるのかもしれないから、魔鉱石は魔力が入る隙間のある石なのかも。だとすると、軽石みたいにそもそも密度が低い石は魔石になる可能性がある?」


「あ、でもうちが主な産地で他にはほとんど見られないのは新島の抗火石やリーパリの流紋岩みたいな感じなのかもしれないわね。それにしては山の中で取れるけど…でも塩湖もあるから元は海だったのかな」


「魔力酔いが解消されるならもう少し利用が進むかもしれないから、採掘にも力を入れてもいいかもしれないわね。魔力酔いのリスクが下がることで需要が高まり高値がつく、というのは都合良すぎかなぁ。でもそれでうちの領地に来て採掘の仕事に就いてもいいっていう人が増えれば、採掘が進んで供給が増やせる…ん?そもそも埋蔵量の調査ってどうなっているのかしら?」


 ベルの独り言が尽きない。このままだと、彼女が自分一人で考えていたことが、俺と相談していたという話になりそうなので引き戻さなければ。


 前世はこういった流れで俺が納得していると思い込んで、彼女が早々と業者に屋根の修理を頼んでしまって大変な目に遭ったのだった。いや、結果としては修理をして良かったのだが、急すぎて費用の準備が追いつかなかった…。


「ベル、新島のって?」


「ああ、ほら、◯谷駅や◯田駅のモ◯イ像、あれの材料になっている石」


「あれか…でも、どうしてそんなことを知ってるんだ?」


「設置された時ニュースになってたじゃない、あれ見て採掘場に行ってみたいなって思ったから覚えてるのよ」


「採掘場…って他にもあったね?」


「大谷石でしょ?友達の子が結婚式したし、特撮のロケもたくさんあったし、あそこは実際に行ったわ。新島は行けなかったけど」


「…そうだった」


 ベルは前世オタクだった。しかもアクティブな。


「新島の埋蔵量は多かったはずだけど、ここで魔鉱石がそんなに採れるかと言えばそれはわからないわよね。でもまあ仮にも鉱山なんだし、すぐに無くなるとは思えないからまずはもう少し調べてみましょう。今の採掘方法を見てみたいわ。無駄があるならもう少し考えたいわよねぇ。今回のことで守りの石としての使い勝手が上がれば、今よりも欲しい人が増えて価値も上がるでしょうし、販路も広がりそう。何度も使えるならちょっとした家格なら買っておこうって思ってくれるかもしれないし。あ、成形した丸石も売れそう。お手頃価格でできるし、守り以外にも使えるとなれば…」


「ベル、ベルっ、ちょっと落ち着いて」


 このままだと壮大な開発が待っていそうだ。


「えっ?あ、ああ、クレメンス様もいるのに、ごめんなさい」


「いえ、大丈夫です、が…イザベル様はすごいですね」


 盛り上がっていたベルにクレメンスがしみじみ言う。


「何が?」


「だって、自分が今できることだけではなく、この先どうなっていくか、そして自分に何ができるかを考えていらっしゃる。まだ16歳なのに」


「あら、カイに聞いたでしょう?私、前世は60歳でここに来てから6年経っているから、中身は66歳よ。これくらい考えられなきゃ恥ずかしいわ。クレメンス様こそ、若いのにエライわ」


「あ…す、すみません、私なんかが偉そうな…」


 クレメンスは俺達の本当の年齢を思い出し恐縮する。本当は礼儀正しい子なのだろう。


「ダメですよ、自分のことをそんな言い方しちゃあ。その時その時に一生懸命なことが大切なの。そしてクレメンス様は頑張っている。それで十分なんですから」


 クレメンスがベルを見つめている。これは、褒められて舞い上がっているな。全く、油断も隙もない。まあベルはステキだから仕方がないが、だからと言って良いというわけでもない。それにしても…。


「あー、クレメンス、そのくらいにしておいてもらおうか」


「っ!す、すみません!」


「いや、そうだけど、そうじゃないって言うか…うーん…」


 言おうかどうしようか、悩むところだがやはり言わねばならない。


「なあ、クレメンス、君がここに来てもう十日だ。魔石も作れるようになったし、守りの力も入れられるし、レイゾウコもポンプも水の浄化の仕組みもわかったよね。君、それを元にできそうなことや、やりたいことが出てきたんじゃないか?」


クレメンスが目を見開く。


「そろそろ今後のことをきちんと考えたほうがいい。まあ、別に俺達は君がここにいても困らないし、…その、助かる部分もなくはないのだが」


 俺がそう言うと、クレメンスは眉をハの字にして


「そう…ですよね。はい、そろそろ戻ってアンドリューに報告しなければ…いつまでもここで甘えているわけにはいきませんね」


「いや、そのだな…」


「カイ!」


 すかさずベルから厳しい声がとんでくる。あーあ…。


「そうじゃないでしょう?きちんと言わなくちゃダメよ、クレメンス様がここで一緒に研究してくれるのは楽しいって。もっといてほしい気持ちがあるって。でも、クレメンス様には使命があるし、将来もある。だから今は一度戻るべきだって。違う?」


「…違いません」


 ああ、こうしてベルにはなんだってバレてしまうんだから。俺は渋々、正直に話すことにした。


「…クレメンス、ええと、ベルが今言った通りだ。君と一緒に魔鉱石の研究をしたり、これからのことを考えるのは、正直、その…楽しい。とてもね。


 でも、君は優秀な魔術師で、王都で君を待っている人たちがいるだろう。友達や家族…中には仕事のためだけだったり君の才能に寄ってくる人たちだったり、ちょっと距離を置きたいと思う人が含まれていたりするかもしれない。でも、その人たちとだって、君なら有意義なことができると思う。


 だって、ここで俺達と君はすごく、仲良くなれただろう?」


 クレメンスの眉は下がったままだ。


「本当にしたいことのためには君は努力できる人だ。そして君の研究はきっと多くの人たちのためになる。

 そのためには王都にある設備や人脈、情報が欠かせない、それはわかるよね?だから、今は、一度王都に戻って、思い切り研究に取り組んだほうがいい。


 でもさ、その途中、ここに息抜きに来たっていいし、困ったことがあれば相談にものる。一人で頑張ることはないんだ。


 俺達は、いつだってクレメンス、君を歓迎するよ。だから…帰るのを怖がるな」


 クレメンスは何度も頷いていた。


「ああ、もう、泣くなって!」


「クレメンス様、こういうの、『ツンデレ』って言うのよ」


「ばっ、余計なことは教えなくていい!」


「ツンデレ…」


「覚えなくていいっ!」


 次の日からクレメンスは帰り支度としてタヴァナー領での研究を数日かけてまとめ、ベルの作った前世の料理を堪能し、別れ際にはベルに何やらたくさんお土産を持たされて帰路についた。うーん、実家のお母さんって感じだね。


 トウワ領までと準備した馬車に乗り込む前に、クレメンスが俺に握手を求めてきた。彼の能力を思い出してちょっとビビったが断るのも大人げないので手を出すと、恐る恐るという感じで握られた。


「…カイ様は、大きな人ですね。私は、あなたに追いつきたい、そのために頑張ります」


「お、おう…元気でな」


 俺に対して何か誤解があると思ったけれど、言葉にするもの野暮な気がして、ベルと二人で静かに馬車を見送った。まあまあ、楽しい2週間だった、とちょっとだけしんみりしていたら、ベルが『また遊びに来てクレメンス〜って言いたかったな』って言った。やめとけ。

お読みくださりありがとうございます。

クレメンス、年配者にきちんと子ども扱いされてのびのびできたと思います。良かったね。

次回はクレメンスが帰る前に食べたものを紹介するエピソードを入れたいなと思っています。


さて、ようやく後半に差し掛かっている気がします。よろしければここまでの評価をお願いいたします!

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