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1 魔法騎士アンドリューが現れた

目にとめていただきありがとうございます!「定年退職して悠々自適のはずが転生して10歳とは?」の『カイ』が好きすぎてメインにしてしまいました。どうぞよろしくお願いいたします。

 俺の前世は伊皿子隆史、読みは『いさらごたかし』、満60歳で定年秒読みだった。しかし仕事中に倒れ、そのまま、娘のマリエが制作に関わった『ルナと魔法のジュエル』、通称『ジュエルナ』の世界にカイ・タヴァナー男爵10歳として転生した。


 あれから8年経って、この度ようやく成人して爵位を継ぎ、自領の領主となったのだが、ここで感謝してもしきれないのが、現在の愛する婚約者イザベルの父親のトウワ子爵だ。


 どうしようもない俺の両親と兄に責任を取らせ、かろうじて身分を残された俺とルナが成人するまで後見してくれただけではなく、本当の子どものように大切にしてくれて、教育の機会も十分に与えてくれた。


 本当なら俺のこの爵位だって、数年間に渡って領地を管理してくれていたトウワ家に吸収されてもおかしくなかったのに、こうして俺が継げるように便宜を図ってくれたのだ。この恩はこの先絶対に忘れず返していくつもりだ。


 この尊敬すべきトウワ子爵家の嫡男のユーゴは俺の2歳年上で、この世界での俺の妹、本来のゲームでは主人公だったルナ、の婚約者であり、俺の婚約者イザベルの兄である。


 こう説明すると複雑だなぁ。


 まあお互いがお互いの妹と結婚ということになっているのだから、義兄弟といえばいいのだろうか?…いや、それはなんか違うような。


 でもまあユーゴはずっと俺がイザベル=ベルに執着しているのを知っていて、見守ってくれていた。俺のベルへの接し方に文句を言いたそうな様子もあったけど…俺とベルの気持ちを優先してくれたのだと思う。


 ユーゴの栗色の髪と青い瞳、ベルとよく似ているところも好ましい。羨ましくもあるけど…俺は金髪緑の瞳だからな、せめて瞳が青ければベルと同じだったのに。…何にせよ、これからも妹のルナとうまくいくように協力を惜しまないつもりだ。俺とベルの邪魔さえしなければ。


 妹のルナは、ゲームでは相手はよりどりみどりで、素晴らしい能力をもつ攻略対象者たちとあれこれイベントをこなしながらその中の誰か1人と結ばれたのだが、この世界では穏やかな生活の末、ユーゴと婚約した。


 俺達の誰もが二人を祝福したし、幸せを心から願った。本来のゲームの攻略対象者である、王子も宰相の息子も、文官も、魔法騎士も、コミュ障の大魔術師も、その他大勢も現れなかったし、そのことで何かが歪んでいるなんていう気配も微塵も感じなかった。


 そのうち可愛い甥っ子や姪っ子に会うことができるかもと楽しみだが、想像するとちょっとしんみりもする。妹の結婚だから祝福するけど、なんだかね、頑張って育ててきたからもう親の気持ちにしかなれないわけ…大きくなったなぁ、ルナ。幸せになるんだぞ…前世の娘のマリエを思い出すなぁ。


 こんな感じでゲームとは大きく変わってしまったこの世界で生きている俺だけど、最初は大変だった。前世で仕事中に急死してこの世界に10歳児として転生した当初は、当然だがパニックを起こした。


 その後『ジュエルナ』の世界だと気付いてからは、娘の考えたゲームの主人公、ルナを幸せにするべく頑張っていた。そうするうちに2年が経ち、なんと最愛の妻『塔子』も何やら事故に遭ったとかでこの世界に転生してきたのだ。それがユーゴの妹のベルだった。


 …これなんだが、愛する妻への未練の大きさから成仏できずここに転生した俺が、亡くなった彼女までも呼び寄せてしまったのではないか、と俺は密かに思っている。言わないけど。


 何にせよ、前世の妻をそうとは言わずに数年がかりで口説き落とし、やっとこの世界でも婚約できた。


 婚約と同時に領地に呼び寄せた彼女にネタバラシをした俺は、彼女、ベルとの同意の上、幸せな結婚生活を夢見ながら穏やかな甘い婚約の日々をすごしていたのだった。『あいつら』が現れるまでは…。


*****


 我がタヴァナー領は魔鉱石が採掘されることでなんとかやっていける土地だった。なのにどうしようもない俺の両親と兄は贅沢を好み、領民を顧みず、どんどん状況を悪化させていった。


 しかし、幸いにも『もう後戻りできない、ルナを魔法学園に入れてゲームの通りに進めてなんとか結婚相手とルナに立て直してもらうしかない…』そうなってしまう前にこの世界に転生してきた俺は、前世の知識と経験…これはゲームをプレイしたのと公務員として生きてきた両方だが…を総動員して、ルナを婚約者にするのと同時並行で領地を建て直したのだ。しかし、その復興は、すくなからず人目を引いてしまった。


 最初に現れたのは『魔法騎士アンドリュー』だった。


 紫色のおかっぱヘアで目も紫色。羽のついた帽子を被った恐ろしく目立つ人物。黒の騎士服はいろいろな銀や白の飾りがついていてきらびやかだ。眩しい。


 俺だって一応貴族で金髪緑目でかっこいいけど、騎士っていうだけでなんだか負けてる気がする。その上『魔法』までついてるなんてズルいだろ。そのアンドリューはお付きの人が何人もいて彼らもみんな魔法騎士の制服、アンドリューのものよりやや簡素な感じの、を着ていたから、ゲームの設定通りに若くして団長になったか、そろそろなるか、といったところだろう。


 でもさ、それもどうなの?魔力が高くて剣術も優れていると言っても学生だよ?他に経験豊富で部下の扱いが上手くて剣もできて政治的判断もできる、そこそこ以上のヤツ、いるだろう?普通に考えて。ゲームだから仕方がないけど、おじさん感心しないなぁ。と心の中でボヤく。いいけど。


 それにしても、ここにアンドリューが現れるとは…本来ならばルナが16歳になって魔法学園に入学し、そこで二人は出会うはずだった。なのにここに来てしまうとは、これがゲームの強制力か。でもここにはルナはいないんだよ、残念でした。…なんて考えながら何しに来たのか、早く帰ってもらおうと執務室で応対したのだが。


「タヴァナー領で守りの石…のようなものを作ることはできないだろうか」


「守りの石…?どういう意味ですか?」


「守りの力だけが出てくる専用の魔石っていうか」


「え、いや、それはちょっと難しいです」


「そう言わず、ちょっとでいいから努力してみてほしい」


「いや、でも魔石って、魔力が込められているだけで、取り出した魔力を何に使うかは術者の素質っていうか」


「そこをなんとか」


「無理言うな」


 アンドリューとの会話は大まかに言ってこういう感じだった。本当はもう少しもったいぶった話し方だったけれど。


 何にせよ、無理を言わないでほしいと思った俺は正しい。この世界では、魔石から出る力が何になるかを先に決めるなんて聞いたことがない。それはあれか、最初から守りの魔力を石に込めろってことか、専用石か、そんなの無理だろう。そもそも守りの魔法を使える人が少ないわけで。


 俺にそんな風に何度も説明されて、アンドリューも頭では無理なことを言っていると理解しているようだけれど、一回でいいから挑戦してほしいと引かない。


 そもそも、なんでそんなことをうちの領地に頼むのかが謎だ。そこを訊くと『いや、まあ、いろいろあるが』とか言葉を濁す。なんなんだ。


「ムゥぅ…」


「この通り、頼む!」


「いや、だからホントに無理ですって」


「そこをなんとか」


永遠に続くかと思われたやり取りに気が遠くなってきたところに、


「カイ〜、スフレパンケーキできたわよ〜」


「わ、おい、入ってきちゃダメだ」


「あら、お客様だった?ごめんなさい」


 ベルがいつも通りの可愛らしさで乱入してきてしまった。田舎でそんなに訪問者もいないし、来たとしても魔鉱石の買付くらいだから気が抜けているのは仕方がないけど。


 慌てて立ち上がり、ベルを部屋の外へ出そうとしたが、その時


「あ、あなたは…」


「「え?」」


 同じく立ち上がった魔法騎士アンドリューが、ベルをじっと見つめている。おい、なんだそのぽ〜っとした顔。俺のまだだけどをそんなに見るな、若造が。


「妹君がいるとは聞いていたが…」


「妹じゃないから!俺の婚約者だから!」


「可憐だ…」


「ええ〜そんな〜お上手〜」


「ちょ、いいから君は黙ってて!って言うか、もうあっち行ってて!!」


「お名前を聞いてもいいだろうか…」


「ダメだから!ほら、早く出て」


「イザベルです、どうぞよろしくお願いいたします」


「イザベル嬢…」


「あ゙〜っっもうっ!ベル!!お辞儀とか挨拶とかいいから!!」


「だってお客様なんて珍しいし、あっ、一緒にパンケーキいかがかしら」


「パっっっ?」


「ぜひ!」


「だぁ〜〜っっ!!??」

お読みくださりありがとうございました。

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