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アーリア物語 ~神と白竜と私(勇者)~  作者: いちこ
第5章 偽りの神と白竜とアルト
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第5章1幕 白き竜

 アルトは白き竜と共に飛翔し地上へと出ていた。そして神が己の身を再生しようとしているさまを目撃する。アルトと白き竜は共に神の元へと降りた。


「そんな、マナの竜の封印が破壊されただと…」

『我を謀り2000年にも及ぶ狼藉の数々、この星の管理者として見過ごすわけにはまいりません』

 そうマナの竜が言うや否や、神からマナが正のマナが抜けどんどんと大地へと返されていく。だがアルトは直感した。これでは傷ついた大地は癒しきれないと。


「私は…私たちは…私たちが消えていく?」

『精神生命体と変わった事であなた達はもう人ある事すら辞めたのです。その奪ったマナを含め全て返してもらいます。あなた達の精神と共に消え去りなさい』

 それを聞いてアルトは竜へと懇願する。


「白き竜、いやこの星のマナの竜よ、どうか聞いて欲しい」

『なんでしょうか?』

「この者最後は私に譲ってもらえないでしょうか?」

『自らの手でこの者との宿命に終止符を打ちたいと?』

「はい。それが我が望みです」

『分かりました。あなたには苦労を掛けました。お好きになさい』


「さて、神?皇帝?どちらでもいいけど、ようやくサヨナラの時間だね」

「お前さえ…お前さえいなければ私は、私たちは!」

「それ、全く同じセリフをお前に言いたい人はこの世に沢山いるんだ。でもそんな猶予はなさそうだから、俺が消すね」

「クソ!クソ!」

「神を気取っていた割に人間らしいじゃないか。消えろ」

 アルトはそう言うと刀で四肢諸共、塵になるまで切り刻む。そしてマナでその塵を操り自身の上空へと集めるとアルカナ・キャノンを出現させ、本来あり得ないマナの奔流で文字通り塵すら残らず消し去った。今この瞬間、神を名乗る偽りの物は潰えたのだ。




『さて、アルト。あなたにアドバイスをしたのは私ですが、どうやら余程の力を使ったようですね』

「はい。この身はすでに人ではなくなってしまったようです」

『あなたにどう報いればいいか、望みはありますか?』

「ではこの大陸と魔族達、貴方がマナの調整に使っていた大地の修復に私の力を使ってください」

『あなたはそれで良いと?』

「はい。約束しましたから」

『分かりました。あなたが消える事になるやもしれません、本当に構いませんね?』

「覚悟の上です」

『その覚悟、しかと受け取りました。あなたがこの星に来てくれたことに感謝を』

「その私を最初に守ってくれたのは貴方です」

『私は、このような結果を望んでいたわけではないのです』

「分かっています。これは私の望みです」

 アルト達が話をしている間に3人が到着したようだ。


「アルトさん!無事ですか!」

「シズク、無事だよ。心配してくれてありがとう」

「私達だってすごく心配して必死だったんですけど?」

「そうだぞ!あんな物を止めようと必死だったのにもかかわらず毎度お前という奴は」

「うん、ありがとう二人とも。ようやく全てが終わりそうだ」

「まだ何かあるんですか?」

「これからこの大陸と魔族領のマナを修復する。マナの竜よ、この3人を乗せていってもらえませんか?」

『良いでしょう、さぁお乗りなさい』

「伝説の始まりの竜に乗せて頂けるなんて恐れ多いですが…失礼します」

「私たちは飛べないんだから、ご厚意に感謝して乗せて頂きますね」

「始まりの白き竜よ、感謝する」

 3人を乗せ、魔族領へと飛び立った一行。マナの竜とアルトはその尋常ならざる力で僅か1時間もかからず魔族領に到達した。


 竜に乗っているリリーとレオニスはただ驚嘆していたが、シズクは驚嘆と共にアルトが単独でそのような速度で飛ぶことに違和感と言いようのない不安を覚えていた。


「キルケイン殿。お待たせしました。あなた方の無実の証明と偽りの神の打倒、果たしてきました」

「アルト!それにその白き竜は…」

「この星に最初に降り立った原初の竜、マナの竜です」

「マナの竜…そのような強大な存在がなぜここに」

「本来、災厄の王の間はマナの竜の住処だったのです。竪穴が空いていたでしょう?あれはマナの竜が飛び立つときの穴なんですよ」

「なんと、そうだったのか」

「そしてここは星のマナが集中する場所。ここで私はマナの竜とこの地、そして失われた大地を正常化します」

「正のマナを復活させる、と?」

「はい。そして皆さんにはマナの竜と共に生きて欲しいと思っています」

「そのような光栄な立場を享受して良いのだろうか?」

『構いません。あなた達は2000年間あの者共に謀られ、虐げられてきた身。これからは私の庇護の元、安寧に暮らす事をお約束しましょう』

 魔族達から歓喜の声が上がる。


『ではアルトよ、参りましょう』

「はい」

「わ、私も側で見ていて良いですよね?」

「シズク…うん、構わないよ」

「じゃあ私たちも生きましょう」

「ああ、魔族の皆さんも一緒にこの奇跡を見ましょう!」

「ありがとう」

 キルケインは目に涙を浮かべている。皆が安らいだ顔をしている中、未だにアルカナを解かないアルトを見るシズクだけは硬い表情をしていた。




『ここが私の住処であり、レイラインの交差する場所。アルト、中央に立ってください』

「ここで良いですか?」

『はい。最後に聞きます。本当によろしいのですね?』

「はい、お願いします」

「待ってください!アルトさん!貴方は自分を犠牲にして欲しのマナの均衡を保つつもりじゃないですか!?」

「シズク、それ本当なの!?」

「アルト、そうなのか?」

「アルト、お前がいくら勇者だからと言って、我々との約束があるからと言ってそこまでする必要はない!」

 皆がその事実を知りアルトを止めようとする中、マナの竜は真実を語る。


『皆さん、もうアルトは人の身ではないのです』

「え?」

 シズクが言葉に詰まり、皆が白竜の言葉を待つ。


『今のアルトのこの姿、これが今のアルト本来の姿です。以前のように人族ではなく、限界以上に力を引き出し神をも超える力を引き出した結果、アルトはこの姿になりました。もう人族のアルトの姿には戻れません』

「そういう事。この世界に俺の力は強大すぎるんだ。もう世界は平和になった、俺の役目は終わったんだよ」

「アルトさん、私はまだ何も…あなたに何もまだ伝えられて…」

「アルト!あなたいい加減にしなさい!シズクがどんな気持ちか分かっていってるの!?」

「リリー様、私の、私の口から直接言わせて下さい」

「シズク…」

 リリーが心配するる様な顔で見守る中、シズクは静かにアルトに近づく。


「アルトさん、私は貴方の事を愛しています」

「シズク…」

「だから信じています。あなたは今度もやり遂げて、きっと私たちの元へ、私の元へ帰ってくるって!」

「アルトは常識が通用しないからな。今更だ、そのくらいやってみせろ!」

「そうよ!私の大切なシズクを残したら承知しないんだから」

 皆が涙を目に浮かべアルトに言葉をかける。


『良き仲間、良き友と巡り合えましたね。アルト』

「私にはもったいない、本当に素晴らしい仲間です」

『では覚悟は良いですか?始めましょう、この大地と星の修復を!』

(全くズルいなみんな。自分の限界か…そうだな、今ならきっと超えられる)

 アルトはそう思い、決意をシズクに伝える。


「シズク!」

「!」

「覚悟を決めた、限界なんて超えて戻ってみせるよ!」

「はい…はい!待ってます!」

「やりましょう!マナの竜よ!」

 そうアルトが言うと、アルトを中心に光が地面へと流れ込んでいく。やがてアルト自身の影はなくなり光の塊となった。そして大きな光を発し天へと向けてマナの奔流が走る。それが大地の深部にも突き抜けるように走るのをその場にいる全員が感じた。




 神歴1958年1月1日、原初の白竜はその姿を世界に知らしめた。その美しい白い姿は竜でありながら白き鱗に鳥のような羽を持った翼と腹部と尻尾に奇麗な毛並みの体毛を持ち、みるものに恐怖は与えず、ただただ荘厳で神聖な美しさを印象付けた。


 そしてマナを込めた言葉で世界の真実を語った。それは星の全ての者へと平等に届いたのだ。

『偽りの神の奸計により、私は2000年に及ぶ時を幽閉されて過ごしておりました。しかし今、人族の勇者、アルト・ハンスガルドによって世界は調和を取り戻しました。災厄の王は神の仕組んだもの。もうこの世には現れません。偽りの神が去り、我らがあるべき星の姿を取り戻したのです。今日この日をもって真の歴史を取り戻した日として星歴とします。星歴1年1月1日、調和の次代の始まりを共に祝福しましょう!』


 世界は湧いた。災厄の王の危機が去った事に。神々しい竜の姿の宣言に。新しい歴史の幕開けの瞬間に立ち会えたことに。この世界の新しい歴史の証人として、皆が祝い楽しんだ。




「全く、あのバカ弟子が。とうとう世界迄救って見せるとは」

 ウルが身体を寄せてくる。

「なに、アイツの事だ。またどこかで油を売ってるんだろう。戻ってくるさ、必ずな」

 アルトの師、シルヴィアはそう呟くと空を見上げて涙した。

「クリフト、マリアンナ。お前たちの無念を私の弟子が果たしたぞ。凄いだろ?まだ先になるがそっちに行ったら目一杯自慢してやるから待ってろ」

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