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第4章5幕 神格化実験の真実

 神歴1597年12月、遂に地下実験施設への入り口を見付けたアルト達。奥へと入ると表の研究施設と比べて3倍ほどの広大な空間が広がっていた。そして資料棚や机、恐らく実験に使われた機具などがそこには並んでいる。


 まずは神格化実験が実際に行われた記録や実験に関するレポートや日記などを探す一行。探すこと数時間、シズクはある記録を見付け皆の前に提示した。それは最も神格化実験に適した場所の候補が記されており、この大陸のみならず全世界の地図が詳細に描かれている。


 自分達が知る地図よりとは地形がやや異なるが、おおよそ一致しているので間違いないだろう。その候補の一つはこの近郊にほど近い北西部にある。もう一つは魔族領、そして最後はゼノヴィア近郊の北西部だ。これによると星のマナの流れが通る場所として選出された物らしい。特に魔族領はマナが集中する場所とされており、白き竜の住処と目されていると書かれていた。


 そして他の竜達の場所もその可能性が記されており、水竜と地竜に関してはほぼ間違いなく特定されていた。そして火竜はカグチ国、風竜はクリフト王国の北西部と推測されている。という事はアルトがシルヴィアと最後に手合わせしたあの山の近くに風竜が居た事になる。


「この当時の研究者達は竜の存在を知っていたのね」

「人類が現れたと共に姿を消したと聞いていたが、その場所を見つけるとは恐れ入る」

「他の資料も探してみよう」


 アルトはディスプレイのような物があればそれを中心に手掛かりを探っていた。その中の一つに研究日誌を発見する。日誌の内容を読んでいくとこう書かれていた。


『2108年6月7日、我々は人類の発展のための研究の中で、究極進化として精神生命体への研究を独自に開始。これによってより高次の存在へとシフトすることが出来る可能性が高い』

『2110年7月10日、基礎的な理論はある程度推測が出来る段階になった。これをレポートとして纏めなければならないが、凡人にこれが理解できるように作るのは骨が折れそうだ』

『2110年8月8日、レポートをアルティエイラの高官共に見せて反応を見た所、良い反応が得られた。正式に研究の承認も降りたため、これを別プロジェクトとして優れたメンバーを選出し開始する事とする』

『2114年5月21日、我々は正のマナの確実な分離とその安定方法による精神生命体への進化の方法を確立した。この研究が国に承認されればより大きな研究と実験を繰り返す事で確実性が増すだろう』

『2114年6月2日、国に予算案を提出するも不確実性を理由に承認が降りなかった。奴らにはこの研究の有用性が理解できないのか、未知のものを恐れているのか、愚物とは度し難いものである』

『2115年3月8日、度重なる改良を加え国へ予算案を提出するも同じ理由で承認が降りない。これでは研究が先に進まないどころか継続も難しい』

『2115年12月9日、どこから聞きつけたのかエレドールの高官が我々の研究に興味を示していると聞く。これを利用しない手はない。我々は再びレポートを作成し、予算の融通をエレドールにさせる事で一致した』

『2116年3月3日、遂にエレドールからの出資が決定した。これでようやく前に進める。愚鈍な政治家たちへ金を出させるには不確定要素などは書か必要はなかったと反省しよう。最も、この実験が成功すればその必要もなくなるが』

『2117年4月15日、方法論の構築と共にどうしてもあの竜の親玉の力を利用しないと精神生命体への進化は難しいという結論が出た。この星のマナを利用するにはアレを制御下に置かねばならない』

『2118年10月30日、白竜の居場所を特定した。やはりマナが最も集まる場所に奴はいたのだ。我々はこの地のマナ供給量が過剰であり微かに減少させる調整が必要であると訴え、その実験を行いたいと提案。ヤツをこの施設の北西部までおびき寄せる事を検討する。

『2119年8月19日、遂に精神生命体への進化を行う制御装置が完成した。我々はこれより精神生命体への進化を果たすのだ』


 アルトはこの情報を確認した後、研究者たちの思考や実験が行われた可能性が極めて高い事とその場所がこの場所から少し離れた北西部である事が掛かれていた事を伝える。距離はそんなに離れていない。空から見た所そのような場所は見受けられないが、巧妙に隠されているのだろうか?


 地竜の巨大さから考えると、マナの竜も相当大きかっただろう。災厄の間のあの竪穴はもしかするとマナの竜が眠る場所で、飛び立つためにあった竪穴なのかもしれない。そこから推測すると大きな竪穴から入ってもらう必要があるはずだ。大よそ半径10mくらいだろう。


 ここまでで分かった情報を整理する


・白き竜が星のマナを調整してたのは魔族領

・これを研究者達は特定していた

・何らかの形で白き竜とコンタクトを取り、この大陸に呼び寄せた

・必要な装置は完成しており、その稼働に白き竜の力を使った

・場所はここからほど近い北西部

・今もなおそこに白き竜が眠っている可能性が高い


「こうなったらその場所を意地でも探さないと、白き竜が可哀想だ!」

「それに魔族達も白き竜が居てくれれば庇護された民として復権することが出来るかもしれないわ」

「ああ、何より災厄の王を消しただけではまだ不安定な星のマナを調整してもらう必要がある」

「ここから北西部、そんなに遠くない距離です。我々は走ってアルトさんは上空から確認をするのはどうでしょうか?」

「そうだね、それで探してみよう!」

 そう決意したアルト達は研究棟を後にして北西部へと向かう。アルトは先に上空から偵察を行った。やはり見ただけでは何とも言えない、ただの荒廃した台地がそこにあるだけだ。地上に降りた方が楽に見つかるか?そう思案していた時だった。


 アルト達が先ほどまでいた研究棟の方角から極めて強力なマナの奔流が見える。それは正のマナの奔流だった。一体何が起こったのか、アルトは高度を下げて3人に施設の確認を任せると、その場所へと向かった。そこには確かに葬ったはずの鮮血帝が立っている。本当にしぶとい奴だと思ったが、どうも様子がおかしい。


「またお前か、いい加減に諦めたらどうだ?お前では俺には勝てない。タフさだけは認めるけど」

「神…よ!おお神よ!」

「な、なんだよ。いくらなんでも神を盲信し過ぎじゃ…」

『ようやく器に宿れたか。さて、会うのは2度目だな、異界の者よ』

「あんた、皇帝じゃないのか?」

『奴は我が器となり合一した。我こそが神、お前をこの世界へと呼び寄せた者だ』

「あの白い世界の顔…なんで今更姿を見せたんだ?」

『知れた事。貴様に栄光ある使命を授けようとしたにもかかわらずあのマナの竜に邪魔をされ、貴様は我々の意向を無視する始末。挙句、我らが構築した災厄の王のシステムまで破壊しようとしている。もはや看過できん。故に我らはこうして再び肉体を得る事で貴様を排除しに来たのだ』

「それはそれはご苦労さまですね。あいにくあんたみたいな傲慢な奴はこの世界に必要ないんで、全力で叩き伏せて消し飛ばして差し上げましょう」

『愚物が力を得たくらいで言うではないか。ならば力を示してみよ』


 そういうや否や、皇帝の姿は光を放ちみるみると変化していく。それはアルトと似ているようで違う、完全なる物質変化を行っていた。その間、アルトは『フロートキャノン』で皇帝もとい神を攻撃するも、光に阻まれてしまう。『アルカナ・メガキャノン』に切り替え、全力でチャージするもこれも無意味だった。


 アルトはその光が待つまで待機し、姿を現すと同時にもう一撃をお見舞いしようとチャージを始める。そして徐々に収束していくその姿は、先ほどまでの鎧の姿と異なり、白地に金色の美しい鎧と仰々しい翼を纏った顔のない白い男が姿を現した。瞬間、アルトはアルカナ・キャノンを放つ。


 白い男はこれを身動きもせずただ手をかざすと、なんと真正面から受け止めそのマナを吸収した。そしてそのままそれをアルトに向かって放つ。即座に横に回避するアルトに神は急接近し、いつの間にか手に持った剣をアルトに向かって振るう。それはただの長剣のように見えた。


 アルトも瞬時に中に盾を形成し下がりながらこれを防ぐ。しかし盾はあっさりと切り裂かれてしまった。これまでの相手と違い過ぎるその不気味な力は、アルトに死を予感させるものだった。




 一方リリー達は地図に示された地点へと向かっていた。地上から見てもやはり何かがあるようには思えない。先ほどの大きな力の奔流も気になるが、アルトなら問題ないだろう、今は自分達の成すべきことをすべきだと周囲を探索する。


 すると不意に何かがこちらに飛んできた。それは地面を抉る。そしてハッキリ見えたのだ。大穴がそこにあると。不意にレオニスが叫ぶ。

「アルト!おいアルト、大丈夫か!?」

「どうしたのレオニス?」

「今飛んできたのはアルトだ!反応がそこにある」

「なんじゃと?あの者がここまで吹き飛ばされたとでも…なんじゃあれは?」


 シズク(憑依)の言葉とその見ている方向に白地に金の装飾が施された見事な鎧を纏った顔のない白い物が浮いていた。それは明らかに異常な存在だった。見た目だけの話ではない、アルトはこの者に吹き飛ばされたのだと理解できるほどの力を感じるのだ。そうしている内にアルトが穴から飛び出してきた。


「こいつは神だ!直接やり合いに来たってさ!竪穴を見つけてくれたからみんなはマナの竜を頼む!」

「でもアルト、あなただけで勝てるの?」

「止める!白き竜が目覚めれば何かが変わるかもしれない、そっちは頼んだ!」

「アルトさん!任せてください!」

 シズクは遂に自身の意思で憑依体を動かせるようになったのか、不意にいつものシズクの口調でアルトに声をかけた。それがアルトの危機を見ての事だろうと予測は付くが。


「俺たちは内部へ急ぐぞ!」

「無事でいなさいよ!」

「すぐに戻りますから!」

 三者三様の言葉を残し穴を降りる仲間たち。


『別れの挨拶は要らないのか?あの者たちでは竜を解放できまい。守護者も配置している』

「仲間たちはそんなにやわじゃないんでね」

『良い事を教えてやろう。私が見に纏うこの鎧、そして剣、生成する全ての者はオリハルコンだ』

「へぇ。それはまた大層な物をお持ちで」

『そして守護者もまたオリハルコンのゴーレムなのだよ』

 それを聞いたアルトはこれまでで最も力を振り絞るようにマナを集中させ、神へと斬りかかる。しかしその尽くを防ぎ、躱し、いなす。そして一撃で切り裂く様な切れ味を誇る剣を振るう。これを受ける事すら許されないアルトは、己の全神経を研ぎ澄ませて躱してはまた斬りかかるを繰り返す。


 だがこれで箱の神には通用しない。ならばと『フロートビット』を展開し手数を増やすアルト。それを見た神は興味深げにアルトを見やり、剣をもう一本作り出した。一斉射撃による攻撃を始めると、それを切り落とそうとする神。だがさすがにその数では対応しきれないだろう、すぐに命中した弾の反動で体勢を崩すとその集中砲火に晒された。だが奴は浮いたまま一向に下がりもしない。


『なるほど、貴様はその奇天烈な発想で我らの計画を邪魔してくれていたな』

 そういうや否や神の周囲に同じような、いや全く同じ形の物が形成されアルトを攻撃してくる。

『貴様に出来る事は私にもできる。貴様以上にな』

 神の言う通り、神の作ったフロートビットは神の周囲から離れ執拗にアルトを追いまわし、周りこみ、気付けば周囲を30を超えるビットで囲まれていた。その十字砲火から逃れようと必死になるアルトの腹部に熱い物を感じる。神の剣が腹部を深々と突き刺していた。


『所詮、貴様は道具にすぎん。道具風情がここまで我らを追い詰めた事は褒めてやろう。しかしもう終わりだ』

 そう言い放つと剣を引き抜きアルトに十字砲火を浴びせる。意識を必死に保ちながらも全身に強力な弾丸を受けアルトは遂に地に落ちた。急激に力が抜けていくのを感じ、これが死かと思うと怒りと情けなさで涙が出てくる。このままではリリーもシズクもレオニスも守れない。


『愚かな道具よ。その心に神たる我らに逆らった事を後悔するべく刻み込むがいい。敗北と仲間の死をな』

 どこまでも冷酷な神の言葉にアルトはただ涙を流し意識を失った。

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