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第4章1幕 アルティエイラにて

 神歴1597年10月、鮮血帝ことヴラディミール・クルオールは拠点を大陸南部のガイアナントから北上し南部大陸の北部にある『リル・ヴァシナ』へと移していた。ここでも日々戦いに明け暮れる鮮血帝はもはや正気を失っていた。それは部下たちもまた同様で彼らは全員が神託を受け「この大陸に存在する全ての者を屠れ、力を我が物にせよ」という言葉にただ従うだけの狂信者の集団と化していた。


 部下もまた敵からマナを奪う力を与えられ、その力を増大させていた。一方その数は当初800人いたものが現在は50人ほどにまで減っていた。過酷な戦いを繰り広げた事もあったが、鮮血帝は戦闘時に配下が邪魔と見るやこれを容赦なく斬り、配下の力さえも奪っていったのだ。


 それを繰り返すような行軍の中で配下の者たちさえも同じように味方ごと敵を倒す、そんな戦いを繰り返していればその数は激減するのは当然である。だが彼らに迷いはない。なぜならばそれこそが神より与えられた使命なのだから。




 同じ頃、アルト達一行はナッツ号で飛行しては途中で休憩し、その度に周囲の魔獣や正気を失った者たちを退け、休みながらも北部大陸の東の都市『アルティエイナ』に到着していた。ここでの情報収集をする為には先日訪れたネヴァリスと同じように戦闘は避けられないだろう。


 都市を目前にし彼らは十分な休憩を取る為、野営をしていた。

「ついにここまで辿り着きましたね。アルティエイナは身分の高い者たちが住んでいる可能性が高いという事ですが、ここもやはり人類はすでに正気を失っているのでしょうか」

 シズクは不安げだ。やはり正気を失っているとはいえ武器を持たない者たちとの戦闘は彼女にとっては辛い物なのだろう。


「そうだな。恐らくはこの大陸の人類は同じような状態にあると考えた方が良い」

「せめて話が出来る人が居てくれたら楽なんでしょうけど、そんな楽観的な考えが通る場所ではないわね」

「ここがより発展している都市だとしたら、もしかしたら軍に相当する敵も居るかもしれない。そのくらいは覚悟した方が良いと思うよ」

「アルトが言っていた危険な武器ってものを使ってくる可能性があるって事?」

「ああ、多分ね。まずは俺が内部の様子を空から見てくる。もし銃を持っているなら地上から狙ってくるからそれで判断が付くと思う」

「飛べるアルトさんにばかり頼ってしまうのは気が引けますが…アルトさんのいう事を聞いた方が良さそうですね」

 そして次の日、アルトは単独で内部偵察へと飛び立った。


 アルティエイナの街はネヴァリスと比べて建築物の高さが高い物が多い。記憶の断片にある『ビル』が中央に行くにつれて増えてくる。そして中央にはひと際目立つ大きなビルが存在している。何か手掛かりがあるとしたら、恐らくそこだろう。


 今の所、街の様子はネヴァリスとそう変わりはない。アルトを視認している者もただ歩いている者も、皆正気を失っている者達だ。ビル群に近づき進んでいくと、街並みの雰囲気がなんとなく変わる。それはこの街の政治に係るような場所のように思えるのは、やはり記憶の断片のせいなのだろう。


 そして中央のひと際大きなビルに近づくと不意に下から魔力を感じる。間違いない、地上からの攻撃だ。アルトが考えていた通りマナを打ち出すもののようで、軽くマナフィールドで防いでみたりアルカナと同程度の強度を持つ盾をぶつけてみる事で威力を計る。マナフィールドでは防げない程の威力だがアルカナの装甲を破るほどではないという事が分かる。


 ならばと盾を随伴させて射撃が来る方向に飛ぶ。近づくにつれて射撃の威力が増してくる。だが決して躱せないほど速いわけでもない。意を決して盾を飛び出し射撃を躱しながら射手に近づくが、やはり言葉が通じる相手ではなさそうだ。その場には3名いたが2名を斬り、残りの1名の銃を剣で弾いて共通語と精霊語で話しかけてみる。だがやはり反応はなかった。


 大まかに偵察を終えたアルトは、皆の所へと戻っていく。内部の様子を共有した後、戦闘態勢を整えて街へと突入する4人。憑依の術を使ったシズクの走る速度は他の二人と比べやや遅い程度だ。シズクに合わせて進軍をし、ビル街を抜け、一気に主要部と思われる大きなビルへと向かう。しかしビル目前にして集中砲火を受け、4人は一旦物陰に隠れる事にした。


「まともには近づかせてくれないようね」

「散会して個別に突入するか?」

「あれはマナを打ち出しておるのだろう?そのマナを吸収するか逸らす事は出来ぬのかえ?」

「もしあれがレーザーと同じ原理だとしたら…リリー、思いっきり濃い霧をこの辺りに散布できるか?」

「目くらましでもするつもり?それも効果的だとは思うけど」

「濃霧の中ならアレの威力が落ちるかもしれない。試す価値はある、やってみてくれ」

「分かったわ」

 リリーはありったけの広い範囲に濃密な霧のイメージを込め『濃霧の結界』と唱える。そしてアルトはマナフィールドを展開し集中砲火の中へと飛び出す。先ほどと同じ威力ならマナフィールドは耐えられないはずだ。アルトの予想は的中しており霧で減衰したマナの弾丸はマナフィールドを破壊することが出来ない。


「やっぱり霧で減衰する!このまま一気に突っ込むから、射撃が俺に集中したらビルへ向かってくれ!」

「やれるのね、そっちは任せたわ!」

 アルトは飛び、射線に向かって盾を形成して飛ぶ。そして射手たちと対峙し、これを次々と倒していった。さらに飛び周囲の警戒に当たるアルト。別方向からの射撃はどうやらないようだ。入り口と思われる場所へと降り立つと、皆が集結していた。


「なんで霧で弱まるって分かったの?」

「空気中の水分が高まる事で力が拡散しちゃうんだよ。多分砂煙でも同様の事が起きると思う。効果は霧ほど期待できないけど。」

「なるほどな。今後の戦いに有用な情報だ」

「さて、中へ参るとしようぞ」

 4人はビル内部へと入っていった。ネヴァリスとは違い内部も相当な広さだ、探索を隅々までとはいかないだろう。となればある程度上の階を目指す方が得策かと思案するアルト。大体の場合、重要なポジションの人物は高い所にいるものだ。記憶の断片がそう告げている。


「最上階を目指そう。まずは階段を探すか」

「アルトや、内部にも先ほどの兵が巡回しておる。気を付けよ」

「了解。出来る限り面倒な戦闘は避けたい。リリーは『サウンドデコイ』は使えたっけ?」

「当り前じゃない、初級の魔法よ。使えるわ」

「じゃあそれを使って階段を探しながら敵はなるべく無視する方向で行こう」

「我が『音消し』を使う事でより安全に道中は進めるだろう。焼き払った方が早いと思うがの」

 憑依状態のシズクは中々どうして好戦的なのである。ナッツ号を「ふざけた名前」と言ったあの言葉もおきつね様の言葉だと信じたい。


 アルト達は無音状態での意思疎通の為、予めハンドサインを決め探索を開始する。アルトが先頭でその後ろにリリーとシズク、後方の守りはレオニスの担当だ。早速巡回している兵士をサウンドデコイで誘導し、その隙に無音で通り過ぎる。そうしていく内にアルトは階段を発見した。ここからは可能な限り上り続けるだけだ。


 30階くらい上っただろうか、階段は途切れドアがある。気配に問題が無い事を確認し、アルトは内部へと入る。通路が続き、またいくつかの部屋があるようだがこの階の敵を掃討して探索をしてしまおうとまずは通路を音消しを掛けたまま進み続け、敵の姿を発見し次第始末する。これを繰り返し、この階の気配が全て消えた事を確認すると各部屋を調べ始めた。


 いくつかの部屋を調べた後、ひと際広い部屋を調べる4人。ここまではそれほど重要な手がかりらしきものは見つかっていない。広い部屋の中を手分けして探す事にし、アルトは大きな机を調べる事にした。そこにはまるでパソコンのディスプレイのようなものがある。が、肝心のパソコンらしきものは見つからない。そもそもこの世界には科学技術は無いのだ、これは魔法で動くのだろうか?


 ひとしきりディスプレイと思われるものを調べた後、台座にマナを注いでみる。すると画面が表示され、しばらくすると情報が映し出される。こんな昔に魔法でこんなものまで作っているとは驚きだ。そしてそれがいまでも動くという耐久性にも感服する。そしてディスプレイはどうやらタッチパネルと同様に操作できるらしい。


 やはり人間は考える事は一緒だな、そう思えたのはこのディスプレイの情報がフォルダ分けされていたのだ。それぞれのフォルダの中を調べていく内、気になる情報が映し出された。


「えーと『神格化実験の研究許可』について?」

 それはとある実験の許可を申請している物のようだった。実験の内容については確認できないが、許可を出しているのは確認できた。他の資料にこの実験の内容について何か手掛かりがあるか探すと、説明資料が見つかった。そこにはこう書かれていた。


『神格化実験についての詳細』

1)神格化実験とは

 神格化実験とは人が肉体を捨て精神生命体となる事でその生を永遠とするものである。これによって管理する者は永遠の生と無限の知を得る事で管理される者たちをより良い方向へと導く存在となる。これはかつてこの世界に存在するか議論された”神”に等しい存在になるものである。ゆえに我々はこれを神格化実験と呼称する事とした。


2)精神生命体へ至るプロセス

 精神生命体は莫大な正のマナの存在という事が研究で発見された。言い換えればこれに負のマナは不要である。よって以下のようなプロセスが必要とされる。

 ・肉体と精神を分離する前に肉体を負のマナに、精神を正のマナに完全に偏らせる

 ・肉体と精神を切り離す為に正のマナを取り込む

 ・同時に肉体そのものをエネルギー変換しこれを動力として精神分離装置を起動させる

 ・精神分離装置によって切り離された個人は精神生命体への進化を果たす


3)問題点

 この実験においての問題点は以下である

 ・肉体と精神を負と正のマナを完全に偏らせる方法論の確立が必須であり、これはまだ未完成である

 ・精神生命体として存在する事が可能である事は確認できたがその維持に必要な正のマナの量は不明である

 ・肉体のエネルギーだけで精神分離装置を起動させる事が可能かどうかは追加で検証の必要がある

 ・精神生命体となったものが融合する可能性が示唆されているが、追加で研究し明らかにするべきである




 アルトが理解できた内容としては概ねこのような感じだった。3人も呼びこれについて読んでもらった。そして皆が皆、同じことを考えたようだ。そう、これが何らかの形で実現され”神”を名乗る者が生まれたのではないか?という仮説だ。


「人が人を辞めようというのじゃ、それなりに大きな代償が必要となろうな」

「こんな事が過去に本当に行われていたなんてな。正道教の神の正体がこれの可能性が高いと思うとバカバカしく思える」

「仮にそうだとして実現した結果、この大陸の有様って事になるのかしら?」

「何らかの不測の事態でこうなったのかもしれないね」

「しかしこれ、不思議な板ね。アルトの記憶の世界にもこんなものがあったの?」

「ああ、これが無いと生きていけないってくらい皆が使ってるものだったよ」

「アルトじゃないが、人は所詮みな考える事は同じという事か」

「我らには判らぬがな。現にあるとはこうも簡単に使いこなしておる。そういう事なのじゃろう」

「ここで得られる情報はこれくらいかな」

「この研究ってどこで行われたのかしら?」

「管理する者を永遠とするならば、やはり権力者のひざ元ではないか?」

「なら予定通りゼノーヴィアに向かうとしよう。次は首都かもしれない所だ。もっと警備は厳重、場合によっては軍隊規模の敵も現れるかもしれない。気を引き締めていこう」

「とは言っても飛ばすのはお主じゃろう?ほれ、サッサとこの場から撤収じゃ」


 シズク(憑依体)にせかされこの建物の屋根を突き破り、屋上からナッツ号で飛び立つアルト達。次の目標はゼノーヴィアだ。

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