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アーリア物語 ~神と白竜と私(勇者)~  作者: いちこ
第3章 災厄の王とアルト
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第3章4幕 災厄の王

 神歴1597年6月、遂にすべての同胞が目を覚ました。魔族軍の将、キルケインは歓喜した。遂に打って出る時が来たと。各地に同胞を送り出し、モンスターの強化や発生ポイントの設置を行い、負のマナの活性化による魔獣を作り出し世に放つ。その計画を実行している最中、キルケインは神託を受ける。


『我が忠実なる信徒であるキルケイン、間もなく異界の勇者がやってくるだろう。今回の勇者は強力な力を持っている。災厄の王の為、これの阻止に全力を注げ。クリフト王国とリージアにモンスターによる攪乱人員を集中させよ。そして本土決戦でこれを討て。さすれば我が信徒に栄光の道が開けるだろう』


 キルケインはこれを受け、勇者を迎え撃つべく準備を進める。モンスターの可能な限りの強化と前衛への布陣。可能な限りモンスターで消耗させ、その間に勇者を特定。これを孤立させ一族総出で打って出る。災厄の王に頼るのは一番最後だと。


 そして信託の通りに同胞に指示を出し、クリフト王国とリージアでの工作に全てを回す。工作隊はその後、本土へ戻り戦線に加わるようにさせる。そしてこの作戦の成功率をより上げる為に戦場を整える準備にかかった。




 神歴1597年6月、アルト達は18歳となり身長もかなり伸びていた。相変わらずレオニスは追い越せないのだが。アルトは身長178cm、レオニスは身長182㎝、リリーは身長162cm、シズクは身長150㎝と伸び悩んでいた。もっとも、仙孤族であるシズクは元々身長が低い種族なのでこれはそんなに悲観する事ではないのだが。


 そんな多感な面も持つ彼らだが、日々モンスターや魔獣の討伐に明け暮れていた。現在はクリフト王国で討伐を行っているが、近々魔族の島へ渡り決戦となると皆決心をしていた。そしてある日、クリフト王国女王からの勅命が降る。災厄の王が復活したと判明しこれの討伐をアルトに命ずる、と。


 その場にはシルヴィアも駆けつける。やはり前回の事があり心配なのだろう。

「アルト、遂にこの時が来たな。私のやれることは全てやった。あとはこうして見送る事しか出来ん」

「ありがとうシルヴィア。それだけで力が湧いて来るよ。大丈夫、俺は必ず戻ってくる」

「ああ、その為に今日までお前を鍛えてきた。その実力も見せてもらった。信じているぞ」

「うん、行ってきます!」

 アルトを見送るシルヴィアの表情は硬い。それは遠い過去の苦い思い出がそうさせているのだ。アルトはそれを塗り替えてみせる、そう決心していた。


「この国の事はみんなに任せよう。俺たちは一刻も早く災厄の王の復活の阻止、あるいは討伐を果たし、また平穏な日常を取り戻そう!」

 アルトの掛け声に3人は頷く。こうして一行は急ぎリージアへと向かう。


 リージアへと到着した一行。レオニスは船酔い防止の薬を王国の研究者からもらい、それを服用する事で酔わずに到着することが出来た。急ぎ中央都市へと向かい状況を確認すると、リージア東部に特にモンスターが多く出現しており、人員もそちらに割いているとの事だった。


 何やらこちらの嫌な部分をとことん突いて来るような動きに嫌なものを感じるが、早めに動くに越したことは無いと東の港街へと向かう。港町は内部に侵入こそ許していないが、モンスターに頻繁に襲われているようだ。アルト達は近くのモンスター達を討伐しながら街へと向かう。


 オーガとオーガキングの集団、魔獣となった狼の群れ、ゴブリンソルジャーやトレッドキャップなどを中心とした上位ゴブリン種を纏めるゴブリンキング、オークとオークロード、夜にはスケルトンなどやリッチも現れた。戦闘には慣れていたが、ここ迄多くのモンスター達と遭遇するとなると中々進軍もままならない。まるでこちらを消耗させる様な意図すら感じる。


 多くの魔物を退け、東の港町を防衛する冒険者たちにも助けられながら無事に街へと入る事が出来たアルト達はここで一旦休む事にした。ここからさらに2週間ほどかけ南西に向かい魔族の島を目指すのだ。


 東の街のギルドにはポチもいた。久しぶりの再会に笑顔になる二人。

「ここまで来る間、随分と手こずったよ」

「ああ、いよいよ本腰入れてきたって感じだな」

「装備の調子はどう?」

「おうよ!ばっちりだぜ!お陰で楽々戦える、以前よりもな!」

「それは良かった!」

「お前さんたちはすぐに魔族の所に向かうのか?」

「うん、俺たちは軍の指揮とかに慣れてないから少数精鋭で乗り込むことにしたよ」

「俺もついていきてぇところだがよ、ここの守りを任されてる以上は動けねぇ。親玉はアルトに譲るぜ」

「任せてくれ!必ず俺達が災厄の王を止めてみせる」

 ポチと拳でコツンとやると、アルトはシズクを連れてミナモト商会へと向かう。


「ユキハさん、お久しぶりです」

「アルトさん、シズク、久しぶり」

「これから私とシズクは災厄の王の討伐に向かいます」

「そう…それがあなたの使命なのね。シズク、あなたも付いて行くの?」

「はい。アルトさんを支えたい、それが今の私の一番の願いです」

「分かったわ。『おきつね様、どうか皆をお守りくださいませ』」

「今日はその後挨拶と、必ず戻ってきて挨拶にやってきますというお約束に来ました」

「誰一人欠ける事無く、必ず戻って。約束よ」

「はい!」

 二人でそう答えるとミナモト商会を後にした。


 宿に戻るとリリーとレオニスが待っていた。

「挨拶は済んだ?」

「ああ、あとは向かうだけだな」

「今日1日でしっかり休んで疲れを取りましょう」

「そうだな、海上に出ても襲われるかもしれん」

 皆早々と寝支度をし、翌日に備える。




 時は遡ること1年ほど前、帝国は不気味なほど静かな様子を見せていた。モンスター達の襲撃は確かに増えている。しかし対処が難しいレベルとは到底言えない。鮮血帝もあれから鎧も新調し身体も復調したというのに動く気配が一向にない。家臣たちはヴラディミールが何を考えているのか理解できないでいた。


 ヴラディミールは策を講じた。アルト達の動向を探り、消耗しているところを魔族諸共叩こうと考えていたのだ。しかしある日、久々に神託が降ったかと思えばそれは驚くべき内容だった。


『ヴラディミール、そなたには別の使命を与える。帝国南方より船を出し。北東方向へと向かえ。そこにはかつて栄えた忘れられた大陸がある。そこで魔の物を倒すのだ。そなたが魔の物を狩れば狩るほど、力は飛躍的に高まる。そなたに忠誠を誓う騎士を連れ、忘れられた大陸へと向かえ』


 神託を受けたヴラディミールは神託の通り北方の街より長い航海の旅に出た。そしてかかる事2か月、遂にその大陸を発見したのだ。その地は荒れ果て異形の物が支配をする地であった。これが神のお導きであればと、兵を率いてひたすらに異形を狩る。それはアルト達が決戦を行おうとしている今も続けられていた。




 アルト達は海上を南東に進んでいた。海に出て5日、時折海からサハギンやシーサーペントなどの魔物に襲われるもこれを撃退、今のところは問題なく進めている。しかしこのまま襲撃を受け続けて船体が持つだろうか?もし大型の魔物が現れたら船員たちが危ない。


 アルトは試しにアルカナを発動し、囮になるように航路の前を飛ぶ。するとサハギンが海上からこちらを見ていた。奴らは恐らく自分達を狙っている。そう感じたアルトは可能な限りアルカナのまま航路上の敵を殲滅していった。沈んでいく魔石を放置するのはやや不安だが、この際そんな事も言っていられない。


 不意に大型の魔物クラーケンが立ちふさがるように姿を現した。海上の船は進路を変えても間に合わないだろう、ならばその前に倒すしかないと判断したアルトはこれに突撃をし、大剣に蓄えたマナを発動させつつこれを突き刺す。身体を貫かれたクラーケンはあえなく塵へと帰り、アルトは魔石を空中で拾っておいた。次々と襲ってくる海のモンスター達。これをアルトは単身で次々と切り伏せていく。


 6日目、アルトは限界に達し船へと戻った。流石にこれ以上は身が持たないだろう。むしろほぼ1日戦い続けるその集中力たるや大したものである。残った3人は交代でこの役をこなすと決意した。まずはシズクが甲板に立つ。


『おきつね様、我が身に宿りお力をお貸しください』

 憑依の術を使ったシズクは海上が見える甲板の最前に立つと、その力を使い近くの太陽光の熱を自身の近くに集約し集め、海上に顔を出したモンスター達を次々とその熱線で焼いていく。この威力なら大型モンスターが近くに現れても大丈夫だろう。


 6時間後、余力を残してはいるが交代をしたリリーは航路の邪魔にならない様に得意の氷の槍を次々と展開し、周囲のモンスターへと放っていく。水上は彼女にとっても好条件なのだ。


 また6時間後、今度はレオニスの番だが彼はなんと甲板からへと飛び出した。そして風の精霊の助力を得てホバー移動し、アルトと同じように囮をこなして見せる。これはレオニスのアストラルアーマーの脚部に仕込んでもらったものだ。ここで役に立つとは思わなかったが、策はいくつあっても良いものだ。こうして6時間ローテーションを組み、アルトも戦線復帰した後も継続してローテーションしていく。アルトはアルカナでの戦闘でもマナ量に余裕があるため10時間、残りを4時間ずつで負担を分担していく。


 そうして航海を続ける事10日、遂に魔族の島が見えてきた。船体の損傷は軽微であり、ここからならアルカナで一気に接近する事も視野に入るが、あとの3人はどうしようか?と悩んでいると船員の一人が言った。


「投網に入れていくってのはどうすかね?」

「投網ですか…それ、いいですね!」

 無論、この後アルトは3人から袋叩きに合った事は言うまでもなかった。




 そして予定よりやや早い11日の航海で島の眼前迄来たところで小舟を降ろしてもらい、島へと向かう。遂に魔族の島へと乗り込む4人。災厄の王との決戦が遂に始まる。

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