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アーリア物語 ~神と白竜と私(勇者)~  作者: いちこ
第3章 災厄の王とアルト
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第3章2幕 それぞれの新しい力

 アルトはシルヴィアと災厄の王について話してきたことを女王に共有した。そしてその後、アルトは兵器開発陣の所へと赴いた。リリーとレオニス用のアストラルアーマーを作成しているのである。シズクは全身鎧に抵抗があるようで、今のままでよいという。だがシズクにも一つ新しい力について当てがあった


 仙孤族の源家の者が守護精霊に守られており、これを呼び共闘する事はすでにできる事が分かっていたが、その身に守護精霊を宿す事により強力な妖術を使えるようになるという。シズクはその練習に明け暮れていた。


 そしてアルトはアストラルアーマーを使うのではなく、自らのマナで鎧を形成し、自在に操る術を模索する。これまでマナフィールドを細かく体に纏わせたマナアーマーの発展形、そう考えると一見難しくない様に思えるが、ただ防御するだけでなく機動性と空戦能力の獲得、そして火力の向上。これを実現するイメージが中々難しかった。


 推力を得る為の知識や空中での姿勢制御などの知識は記憶の断片にあった。方法論までは解らないのだが、とにかく体のいたるところにバーニアという推進装置を付け、それでバランスを取るらしい。これはマナをエネルギーとして扱うというイメージが出来る今なら実現可能なはずだ。推力はブースターと呼ばれる大きなものとスラスターと呼ばれる補助推力の物をイメージする。このイメージに難航していた。




 彼らはそれぞれが新しい力を手に入れるべく動くと共に、日々の研鑽にも励む。しかし、何かと物は入用、お金を稼ぐ事もまた重要なのだ。暫く試行錯誤を繰り返す中、アルトはギルドへと顔を出した。そこにはかつての仲間、アウロラが受付をやっていた。


「アルト、随分と男前になったじゃない」

「久々に会った親戚のおばさんみたいなこと言わないでよ、アウロラ」

「あ?おばさん?」

「いえ、アウロラはまだまだ奇麗なお姉さんだけど、ほら例えですよ例え!」

 なぜか敬語になるアルト。アウロラには逆らえないのだ。度々命令には逆らってたが。


「なんか手ごたえのある依頼あるかなぁ」

「ここ最近は依頼の件数も増えてきてね、人出は足りてるんだけど依頼には困らないわよ」

「強い奴とやり合いたい!」

「あなた、Bランクに昇格したんですってね。本当にすごいわ」

「リージアでAランクの獣人と知り合ったけど、もっと凄かったよ。しかもたった一人」

「その人も大概ね、待ってなさい。特別厄介そうなの見繕ってくるから」

 その言葉はどうなのかと思いながらもアウロラに任せたアルト。やはりここは落ち着く。


「アルト、これなんてどうかしら?」

 そうアウロラが出してきたのは、今は塞がれている帝国との境にある渓谷、あの惨状があった場所の調査依頼だった。なんでも、夜になると渓谷側から何か気配がするというのだ。どう考えても怪しい依頼だ。

「場所が場所だからあんまり気乗りしないかもしれないけど、なんとなくヤバそうって思ったの」

「まぁ場所はね、気持ちはしっかり整理はついてる。大丈夫。でもなんとなくヤバそうって直感したのを持ってくる所がアウロラだよね」

「どういう意味かしら?」

「俺を良く解ってるって事。これ、受けるよ!」

「了解、じゃあよろしくね!」

「うん、また!」

 そう言ってギルドを後にするアルト。さて、今回は誰を連れていくか、それとも単独で行くか?と思案する。


 城の研究施設に行くと、レオニスとリリーは細かい調整を行っているようだ。今回はこの二人は外そう、そう思ったアルトはシズクに声をかけてみた。


「シズク、ギルドから依頼を受けてきてね、リリーとレオニスは調整で忙しそうだから…」

「私、行きます!」

 シズクはちょっと話すと前のめりに承諾した。今回は二人旅になりそうだ。




 東の砦へと向かう道中もなるべくモンスターとの戦闘を経験しておきたい。特にクリフト王国の東部は比較的強いモンスターが出現する傾向がある。相手としては物足りないのだが、色々と試行錯誤しながら戦う分には丁度いい。


 野営もしながら2日ほどかけて東の砦街に到着し、そのまま砦へと向かい詳細を聞く。しかし、ギルドで聞いた話以外の情報は聞き出せなかった。二人は意を決して渦中の渓谷へと向かい、砦にほど近い位置で野営をしながらその現象が起こる事を待つ。




 月も天井から傾きかけた頃、空気が重くなる事感じ取った二人。テントから出て当たりの気配を探ると、モンスターと似たような気配を感じる。前の方からだ。


 シズクはおきつね様を呼び出し用意する。アルトは頷き気配を察知しながら前進をすると、その気配の元を確認した。人影のようなそれは戦場に残された物が負のマナに動かされているのか、骸骨やゾンビなどの集団だった。


 この中には王国兵も帝国兵もいるのだろう。倒す事で供養になるならば、とアルトは決心する。剣にマナを込め、マナブレードを展開する。シズクにはなるべく後方の敵を焼き払うように指示を出す。単体の脅威度はそれほどでもないが数が多い。奥からどんどん湧いて出てくる。その中に、ひと際大きな影が出現した。


 忘れようはずがない、あれはゴーレムだ。その場にいる者の記憶なのか怨念なのか、あんなものまで再現されるとは…本当に嫌なものを見せてくれるものだ。シズクは後方からの支援攻撃を行いつつ大きな影に狼狽えているようだ。


 もし、あの時のような力が自在に出せるならこの敵を一掃できるだろう。せめてその”一部でも再現”できれば…と考えた時にある考えが浮かんだ。一度後方へと下がり、シズクにある作戦を伝えた。それは前方に迫る者を焼き払い時間を稼ぎ、その間にアルトは新しい魔法のアイデアを試すという物だ。シズクは了承し、そのすぐ後ろでアルトはイメージを固め始めた。これまでは記憶の断片をから全体像をにイメージし、成功に至らなかった。ならばパーツを分けてイメージをすればより簡単なのではと考えたのだ。


 まず脚部のイメージから始める。脚に必要なのは足元に噴射口を設け、ふくらはぎ両端と後ろに姿勢制御を行う為のバーニアを作る。これをイメージしながらマナのブーツアーマーを構成。少し時間が掛かったが、これに成功したアルトは調子よく進めていく。


 続いて腰部の鎧だ、前後左右のそれぞれプロテクター生成。左右プロテクタに姿勢制御のバーニアを用意する。これは前と後ろに噴射口を設けるようにイメージした。これが終わり、次は腕だ。腕はアームプロテクターと指先まで覆う物を、爪のように鋭利な指先を想像して生成する。


 そして肩、二重構造の丸いプロテクターに前後に噴射口を持つバーニアをイメージ。また咄嗟に横に動く為にも内部の真ん中にもう一つ追加するイメージをする。ここまでは順調だ。


 最後に最も重要な胸部、これは全面は1枚のプレートで姿勢制御バーニアを両胸の辺りに配し、背中は真ん中まで覆う物で中心部に出っ張りを作り大型のブースターを作る。さらに肩甲骨の当たりに可動式のスラスターをイメージする。このイメージが固まれば、空中戦闘能力が手に入る。


 シズクが必死に頑張ってくれている。火で苦しむ声が近づいてきた。焦らずイメージを固めなければ。そしてそれはようやく完成した。


 あとはヘルムをイメージ。これはアストラルアーマーと似たものであの竜をイメージした2本の真っ直ぐな角を付けた。そして遂にアルトは独自開発の戦闘形態を実現させた。


「シズク、お待たせ!あとは任せて」

 そう言うとアルトはその白き鎧を纏い白銀のマナを推進力にして敵の中に突撃する。マナフィールドを展開し突撃するだけで屍たちは散っていった。問題はゴーレムだ。アルトは剣をマナポーチから取り出すと、その剣に鎧を作った時と同じようにマナフィールドを張る。そしてマナの粒子を流し。影のゴーレムを切り刻んでいった。


 自分でイメージしたパワードスーツだが、ここまで自在に動けるとは思わなかった。その効果を確かめるように次々と敵を倒していく。シルヴィアはこんな感じで自在に飛び回っていたのか、そう思うとまた師に近づいた実感に高揚感すら覚える。




「アルトさん、凄いです。私ももっと強くならなきゃ『おきつね様、どうか我が願いを叶えてください。アルトさんの側で共に戦うために貴方様の力をこの体にお貸しください』」

 これまでより一層強い願いにおきつね様は答えた。おきつね様がシズクに寄り添うと、光に包まれその姿を変貌させていく。赤い狐の目に白い髪、尾の数はおきつね様と同じ5本になり、手に持っていた錫杖をマナポーチにしまうと両手に炎から生まれた扇を手も持つ。


『散れ、異形の者共』そう言うと扇を一振りする。その動作で炎を伴う突風が吹き荒れ、辺り一面は焦土と化した。これが源家の巫女の奥の手である『憑依の術』である。この状態の思考はおきつね様に近いらしく、シズクが敵と判断したものを優美な舞とそれを飾る炎で次々と焼いていった。


 この二人の新しい力により、戦闘開始から1時間足らずで異形の軍勢は姿を消した。砦からもそれは見えたらしく。元の姿に戻り砦へと向かう二人を称える兵士たちに囲まれてしまった。それは宴の様相を呈している。あの惨状を思い出している者もいただろう。今夜は彼らと一緒に喜ぶのも悪くない、そう思うアルトであった。




 後日、ギルドで依頼達成の報告と報酬を受け取ったアルト。砦の担当者が多少大げさに報告書を書いてくれたおかげで良い稼ぎになったのだ。そしてあのとき使った力を再度使えるかと試す。再現性はあり、その形はアルトの意志によって変えられるようだ。


 アルトはこれを『アルカナ』と名付けた。シズクも憑依をコントロール出来るようになり、アストラルアーマーを受領した2人を加え強力なチームとなったアルト達。


 そんなアルトにタイミングよく例の大剣を用意してきた。それは刀身が120㎝、全長160㎝という大剣で先日の試作武器よりもより洗練されたデザインに変わっていた。柄部分の当たりから両側に剣が開くようなギミックが仕掛けられ、マナ開放時はの状態で指向性を持たせるそうだ。切っ先部分まで開かないのは剣としても使う為である。


 触媒としても使えるアストリウムに、今度は魔晶石を4つも使っている。それぞれマナブレード展開補助、ギミック展開時のエネルギー制御とマナフィールドによる保護、そして刀身自体のマナフィールドによる保護を補助する機能を付与してある。それでもアルトの底なしのマナにどれだけ耐えるかは不安であるが。現状打てる最大の手は打った、と胸を張るトーリン。


 トーリンに感謝を述べた後、金額を聞いて愕然とした。金貨10枚なのだ。それはそうだろう、これだけ一品なのだ、そう安値は付けられない。アルトしか使えないのでそれを踏まえたら妥当だろう。


「トーリン、これは素晴らしいものだ。金貨10枚でも安いかもしれない、でもごめん、今は買えない」

「安心しろ!どうせそうなると思って女王陛下に許可をもらって防衛費から出してもらってるからよ」

「ほんと!?ありがとう、トーリン!」

 トーリンは腕も人柄も素晴らしい偉大な鍛冶師だ。そうアルトは感謝する。

 この時、神歴1595年6月。アルト達の準備は着々と進んでいたのだった。




 同時期、帝国では未だヴラディミールの回復は進んでいなかった。よほどの傷だ、完治まで数か月はかかるだろう。その間、ヴラディミールは赤の軍勢に帝国の街を守護するように名を下し、少数精鋭の舞台が地方へと派遣される。また、自身の鎧もお抱えの名工に新しく作り直させていた。


 ヴラディミールは床に臥せりながらも考えていた。神の御力を授かった自分が負けた理由を。これまでの相手とは全く違い、攻撃が全く当たらないどころか弾き返すアルトという男。あの男が神の敵ならば、早急に討たねばならない。回復を急ぎ、また力を蓄えアルトを倒す。それが自分が今最も優先すべきことだ、そう確信していた。


 そして災厄の王を自分が討つ、それこそがこの大陸の支配者たる自分の成すべきことだ。鮮血帝のアルトへの憎悪と執着心はこうして日に日に募っていくのであった。

アルカナの最初期イメージです。かなり雑ですがだいたいこんな感じの鎧の姿がベースです

挿絵(By みてみん)

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