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アーリア物語 ~神と白竜と私(勇者)~  作者: いちこ
第3章 災厄の王とアルト
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最3章1幕 胎動

 アルト達は獣人連合との同盟を締結、その報告の為の帰途でカグチ国へと寄りシズクの祖母 蓮 と面会を果たし、リージアへと戻っていた。ユキハに事の顛末を話すととても感謝されてしまった。もし刀が気に入ったなら融通するし、他にもカグチ国の物で何かあれば身内割引で提供するとお礼を兼ねた宣伝と思われる提案を受けたアルトは、やはりユキハさんも一癖あるなと感心したのであった。


 そして神歴1595年1月になり王国へと戻った一行。女王への報告を終え、さっそく獣人族用の強化装備の開発に取り掛かる。ポチ曰く獣人は防具を好まず、ガントレット、レギンス、チェストアーマー、ブレストアーマーに至っては最低限の面積の物で構わないそうだ。


 また武器は部族ごとによって好みが分かれるようで、例えば獅子族は両刃斧を好むものが多い一方、狼人族は牙のような大きな曲刀を好み、蜥蜴族は手頃なサイズの曲刀と小盾を好み、熊人族はハンマーやメイスのような打撃武器が主流のようだ。


 まずはポチの装備を作ってプロトタイプを作り、それが出来たらある程度の資材と人材を獣人連合へ派遣しようという意見で一致した。こうしてポチ強化計画がスタートする。


 獣人は特にマナ総量が少ない。大体50Kepと言われている。これを増幅する為にチェストプレートにマナアンプリファイアを設置し、各部にも小型化したマナアンプリファイアを付け、増幅量を稼ぐ案が出された。早速この案で装備の開発に取り掛かる開発陣。


 一方、トーリンとフォルガーには可能な限り早くポチの武器を作って欲しいと依頼する。ポチの要望はともかく頑丈で力で断ち斬る大曲刀、との事だった。二人は思案した後、ポチの特性ならアストリウム製の武器に魔晶石を組み込むか、アダマンタイトを使ったものを作った方が良いと言う。


 アダマンタイトはマナの扱いが苦手な者や防御にマナを割きたくないという物に重宝される金属で、単純な硬さなら現存する物の中で最も硬い金属だ。ただし、武具の硬化魔法が一般的なアーリアではそれほど珍重されず、また採掘できる鉱床も多く入手はそれほど難しくはない。その分、加工の難易度は高い。


 ポチは決して硬化魔法が使えないわけではない。だがその強さは人族に比べやはり劣るものだ。純アダマンタイト製の大曲刀を作る前に一度アストリウムの武器を使ってもらい、アルトのマナフィールドに対し威力がどれだけ出るかを試したが、ポチの膂力に武器が耐えきれないという結果に終わった。


 そこで今度は武器硬化を内包した魔晶石を使ったアストリウム製の武器を試す。するとこれまでと同じようにフィールドの破壊に成功した。だが本人曰く「重さもっと欲しい」そうだ。結局アダマンタイト製の武器を用意する事となった。


 アルトはアダマンタイトも魔晶石と合金化できないかと提案したが、どうやらトーリン達もそれを考えていたらしくいくつかのパターンで用意すると言ってくれた。そしてその作業が進む中、アルトはトーリンとフォルガーに刀を見せる事にした。


「こいつぁ随分とまた変わった造りをしているな」

「素材は隕鉄か。他にも色々と使われてそうだが」

「斬る事に特化した造りか、面白いじゃねぇか」

「だが素材の配分が分からんな、再現は無理だな」

 二人は意見を述べつつ興味深そうに刀を見ている


「そこで二人に提案なんだけど、アストリウム製の刀を作ってみない?」

「アストリウムで作れたとしてもこれの劣化板にしかならねぇんじゃねぇか?」

「アストリウムの特性はマナの伝導率が高いだけじゃない、触媒としても使えるほど使用者のイメージを反映する、それを利用するのさ!」

「つまり単純な硬化ではなく、このカタナの様にしなやかで斬撃に特化したイメージを使う武器強化ならば、似た者が作れると」

「そういう事!」

「しかしよアルト、武器職人としてはそりゃ邪道だ。これをキチンと理解して同じものを作れる腕を磨いてから試すのが筋ってもんよ」

「これは俺の記憶の断片にも実際にどう作られていたかが分からない、失われた技術って言われてるんだ。カグチ国の鍛冶師に聞いてみない事には解らないなぁ」

「良いものを見せてもらったが、この話は無しだ」

 アルトは少し肩を落として見せてからもう一つ重要な事を伝え忘れていたと思い出す。


「あ!トーリンにお願いした例の新装備、期待通りの効果を発揮したよ!ただマナの開放をしたら粉々に砕けちゃったんだけど…」

「お前さん、どんだけのマナ出力を持ってんだよ。想定はしていたがまさか一発で粉々になるほどとはな」

「でも使い勝手はすごく良かった。そこで相談なんだけどね、アレを実戦に耐えうるものに仕上げて欲しい」

「それは構わんが…時間が掛かるぞ」

「構わないさ、それだけ魅力的な武器だった」

「わかった、やってみよう」

「あとこんな魔石を手に入れたんだ。元は9つの首を持つ蛇のモンスターの魔石なんだけどさ、モンスターの元の特性を活かしてこんな武器を作れない?」

 アルトはその構想をトーリンとフォルガーに伝える。


「面白れぇ!お前は本当に柔軟な発想をしやがるな」

「アストリウムを生成する前に術式を付与して、完成後に再度付与を行えばより確実性が増すな」

「そうと決まれば早速取り掛かるか!」

 こうしてアルトはちゃっかり自分の新発想武器の事もお願いしてきたのであった。




 神歴1995年2月、ポチの試作兵装が出来上がった。これとアダマンタイトと魔晶石を組み合わせた新合金『アルカディウム 』を使った武器とアストリウム製の防具一式を纏い、実戦テストを行う。


「ポチ、着け心地はどう?」

「悪くねぇ、体に着けた直後にまるで一部になったように感じるぜ」

「マナの容量も上がってると思う。じゃあ手順通り実戦テストを始めよう!」

「おう!頼むぜ!」


 今回はまず従来型のマナフィ―ルドをぽちのパンチで壊せるか、という所から始まる。フィールドに向かい思いっきり拳をぶつけると豪快な音を立ててマナフィールドは砕け散った。相当なパワー出ているようだ。続いて剣を合わせる二人。


 思えば二人で共闘した事はあっても真剣に勝負した事はなかった。大体の力量は解ってはいたが、今のポチはまるでこの前の鮮血帝を思い起こさせる速度と威力だ。気を抜いたら剣を折られかねない。ある程度手を合わせて効果を実感したポチは距離を取る。このテスト最大の目玉、強化版マナフィールドの破壊が可能になっているかを確かめるのだ。


 アルトは5mほど前面にフィールドを展開、ポチはこれに全身の力を振り絞った一撃を加える。凄まじい金属音と共に、このマナフィールドさえ破壊するポチ。これはもうあの鮮血帝すら超えているのではないかと思わせる強さだ。


「そこまで!ポチさん、どうですか?」

「このアストラルプロテクターって奴は大したもんだな!体が軽く感じると同時に力も湧いてくる、おまけに俺様の能力全体が底上げされたような感覚で自然と動き回れるぜ!」

「プロテクターの効果はバッチリ発揮できていますね!外した時の違和感はどうです?」

「若干身体が怠いな。大したもんでもないが、そのくらいだ」

「アストラルアーマーとほぼ同等の感触、これならすぐに量産に入れそうです!」

「おお!そいつぁ獣人にとっても嬉しい知らせになるだろうよ!頼むぜ、兄ちゃん」

 ピーキーの背中をアルトと同じように叩くと、ピーキーは前へと吹っ飛んでしまった。

「ポチ、力加減しなよ。研究職の人は強化魔法なんて使ってないんだから!」

「すまねぇ兄ちゃん、大丈夫か?」

「え、えぇ。大丈夫です。それよりもこれから忙しくなりますよ!」

 ピーキーはめげない。嬉々として開発陣の元へ向かう。


「ポチさんよ、俺たちの鍛えた剣はどうだい?」

「これはとんでもねぇ業物よ!本当にもらっちまっていいのか?」

「あぁ。その約束だからな。問題があればコイツに請求するから安心してもらってくれ」

 トーリンはアルトを親指で指しながらそう言った。

「じゃあ遠慮なく使わせてもらうぜ!ありがとよ!」

「Aクラスの冒険者の愛刀となるんだ、こちらこそ、いい仕事させてもらったぜ」

 トーリンとポチは固い握手を結ぶ。その様子を見てどうか請求がこちらに回ってきませんようにと願うアルトだった。




 それからポチは単身リージアへと帰還し、4人はまた王国での生活に戻っていた。しかし、ここの所やけにモンスターの動きが良くなっている。力も強く上位種もこれまでより増えていた。これはいよいよ災厄の王の影響が出始めたのかもしれない、そう思えてくる。


 アルトは一度シルヴィアの元へ訪れると告げ、森へと向かった。そしてシルヴィアに現状を聞く。森でもやはりモンスターの動きが活発化しているらしい。その影響はまだ軽微だが、今後はどんどん影響が増すだろうと語った。


「シルヴィア、災厄の王が復活した時のモンスターってどの程度変わるの?」

「そうだな、まずホブゴブリン以上のモンスターがそこら中に湧く。そして上位種も頻出するようになるな。何より野生の獣が魔獣化する。こっちの方が厄介だ。力も増すが数が多い。ある程度の頻発してくるようなら災厄の王が復活するのも近い、あるいはもう復活しているのかもしれん」

「その時が攻め時って事だね」

「その通りだ。これから一度私と手合わせしろ。ヴァルキリアの私とな。なに、本気は出さん。お前は私に傷すら付けられないだろうが、剣が当たれば褒めてやるぞ」

「マジデスカ?」

「大真面目だ。外に出ろ」


 外に出るや否やシルヴィアはヴァルキリアを発現し宙へと舞う。アルトは覚悟を決め、跳んだ。そして対峙するや否や、シルヴィアの容赦ない攻撃が始まる。槍と精霊魔法の複合攻撃。シルヴィアの近接戦における基本戦術だ。


 アルトは日々仮想的としてシルヴィアをイメージして鍛錬を積んできた。シルヴィア以上に強い相手を知らないからだ。そしてそんな相手は恐らくこの大陸にそうは存在しないだろう。手加減をしてくれているのは解るのだが、手も足も出ないで回避と防御に専念するしかないアルト。


 だがシルヴィアは驚いていた。つい1年前は不可視の攻撃に対応すらできなかったアルトが、今やそれを感じ取り防御までしているのだ。ヴァルキリアでの精霊魔法は唱える場合は威力を重視した攻撃の時のみである。つまり、今のアルトに使っているのは正真正銘の無詠唱魔法である。


 にも拘らず精霊の動き、殺気、全ての感覚を研ぎ澄ませてこれを凌いでいるのだ。攻撃の手を緩めず続けながらも内心シルヴィアはほくそ笑んでいた。そして槍の連撃と空気の打撃のコンビネーションを防ぐうち、アルトもそれに徐々に慣れてきた。


 次第に動きに無駄がなくなり、余裕が出てくる。そしてアルトはとうとう反撃に出る。空中で巧みに回避や防御を行いながらシルヴィアの槍の攻撃の合間に『デコイフィールド』を設置。これはごく小さなマナフィールドを複数ランダムに展開する事で相手の動きを阻害するものだ。


 その一つに引っ掛かった瞬間。アルトは全力の一太刀をシルヴィアに浴びせた。かすかに傷が付くヴァルキリアの装甲、まさか攻撃力もここまで進化していたとは驚きだ。そしてシルヴィアは両手を上げてみせた。訓練の終了である。


「シルヴィア、今どのくらい手を抜いてたの?」

「近接攻撃だけに限って言えば半分程度だ。ヴァルキリアの力としては1割くらいだな」

「1割…本当にとんでもないね」

「だがお前も随分と成長したな。あの魔法も驚いたが、攻撃を捌き反撃のみならず私のヴァルキリアの装甲に傷を付けるとは」

「伊達に訓練は積んでないさ。でもまだ足りない」

「お前なら力を付けても間違わないと信じている。だからもっと強さに貪欲になれ」

「ああ、分かってる。ようやく自分のマナについても分かって来たんだ」

「ほう、どんな意味だ?」

「多分、俺のマナは物を作り出したり消したりすることが出来る。それの究極系ってヴァルキリアと同じなんじゃないかなって思ってる」

「お前自身のマナだけで、何の力も借りずにヴァルキリアと同じものを目指すと?」

「それが可能になった時、多分シルヴィアを超えられると思う」

「そんなバカげた存在だったら、私に勝つことも可能かもしれんな」

「早く実現させなきゃ」

「焦るな、まだまだ災厄の王は復活していないはずだ。こんなもんでは済まされないからな。しかし用心しておけ。飛躍的にモンスターの増加が早まる時期がいつ来てもおかしくない。それが災厄の王が復活する前兆だと思え」

「分かった。女王陛下にも伝えておくよ」

「よろしく頼む」

「じゃあまたね、シルヴィア!ウルをよろしく!」

「バカ者、あれは私が使役しているのだ。お前のペットじゃないぞ」

「でも俺には家族の一人だよ!シルヴィアと同じくね!」

「まったく、わかった。行ってこい!」

「行ってきます!」

 そう言うとアルトは王都へ向かって跳んだ。




 そこは魔族達が時を待つため眠る地、魔族領。400年に一度、彼らは目覚める。高度な結界で守られたこの大陸は、彼らの王が復活するタイミングで姿を現す。そしてその配下たる彼らもまた、眠りから覚めるのだ。大地に負のマナが蓄積している、目覚めと共に感じ取った魔族の将『キルケイン』は同胞の全てが目覚めるのを待っている。災厄の王の間、そこは誰も入る事が許されない大広間である。その扉の前に跪き誓った。


「今度こそは我が王、そして神の言葉に従い、人類を滅ぼしましょう。先代の私と同じ失敗は繰り替えません。我らから正のマナを奪った人類に鉄槌を!」そう彼は誓うと共に扉の前を後にした。

 それは神歴1595年4月の事であった。

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