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第2章17幕 亜人連合での戦い

 アルト達一行はリージア東の港町にあるミナモト商会を訪れた後に宿で一泊し、翌朝一番の船で亜人連合の蜥蜴族の集落へと向かった。今回は着いてから何が起こるか分からない為、アルトはレオニスをおぶって空中を跳躍し船に随伴するような形で飛び続ける。レオニスは船旅直後は使い物にならないのだ。幸いなことに今回の航路は8時間ほどと短い。これなら問題なく飛び続けられるだろう。


 昼過ぎに到着した一行は船着き場を降りると蜥蜴族の戦士に呼び止められた。

「人族達が何用でここまで来た?」

「私たちは帝国の西側にあるクリフト王国からやってきました。帝国の脅威と共に立ち向かうべく同盟を結びたいと考えております」

「同盟だと?」

「はい。聞けば帝国はまた動き始め、今度は獣人連合の集落を襲っていると。我々も2年ほど前に帝国の襲撃を受け、リージアを含む帝国以外の国で同盟を結び帝国に対抗する手段と、同盟国が帝国に攻められた際には助力をするという同盟を結びました。これに獣人連合の皆さんも加わって頂きたいと思っております」

「人族は信用ならん。が、我が一存で応えられる内容でもない。族長に会わせよう。ただし、武器はコチラで預からせてもらうぞ」

「もちろんです。お願いします」

「殊勝な事だ。ついてこい」

 そう言って蜥蜴族の戦士はアルト達を族長の元へと案内した。そして族長に会う前に戦士に武器を全て預ける。


「族長、人族と亜人の者が同盟を結びたいとリージアより来ております」

「入れ」

「許しが出たぞ。中に入るがいい」

 テントのような家に入ると一層体の大きい蜥蜴族の男がそこに座っていた。


「ほう、武器も持たずに来るとはな」

「いえ、先ほどの戦士に全て預けました」

「なるほど、それで同盟というのは?」

「はい。私共クリフト王国は2年程前に帝国の新兵器を伴った侵攻を受け、その脅威を目の当たりにしました。今後も続くであろう帝国の侵略行為に対抗するべく、我々は帝国西側諸国で同盟を締結しました。しかし獣人連合のお力添えもあればこの大陸で帝国を包囲する事が可能です。対抗措置として新たな兵装を開発しこれに成功もしております。その兵装を獣人連合の皆様に合った調整を施し供与する事で、帝国の包囲網を完全なものとする事が可能と考えております」

「見返りに何を求める?」

「我が国の女王陛下からは何も求める事はないと伺っております。私も同様の意見です。今後災厄の王が復活する兆しもあります。その状況下で帝国は侵略を躊躇わない。これは獣人連合の方々にとっても深刻な問題と考えております。このままでは帝国と災厄の王の軍勢、この二つの脅威にさらされる事になるでしょう。それは何としても避けたいのです」

「話は理解した。しかし我らは一つの国ではない。あくまで部族単位で動く連合に過ぎん。同盟と言われてもワシの一存では何とも答えられんな」

「では獣人連合を纏められている部族の方と交渉する助力を頂けないでしょうか?」

 思案する族長。その時、外がざわつき始めた。


「族長!狼族の者が帝国兵の襲撃にあい我々に助けを求めて来ました!」

「なんだと!?すまぬが一旦この話は保留にさせてもらおう」

「はい、我々にお手伝いできることがあれば仰ってください!」

「承知した。まずは状況を確認する事としよう」

 そう言って族長は家を出る。アルト達もそれに続いた。




 外に出ると、狼族の大人や子供がこちらに向かって避難してくるのが見える。戦士も幾人か見え、その中に見知った顔を見つけた。アルトはその人物に駆け寄っていく。

「ポチ?なんでこんなところに、一体何があったの?」

「アルトじゃねぇか!お前さんこそなんでこんなところに居やがる」

「獣人連合の人達と協力できないか交渉に来たんだよ」

「それは帝国の奴らとの戦いの為か?」

「ああ、やっぱり噂は本当だったんだね」

「あれは…バケモンだ。俺でも勝てるか分からねぇ」

「ポチでも?ウソだろ?」

「冗談言ってるように見えるか?大マジだ」

 アルトは信じられなかった。この男が負ける事が想像できない。


「狼族の戦士よ、その人族と知り合いか?」

「あんた、蜥蜴族の族長さんかい?悪い事は言わねぇ。逃げた方が良い」

「まずは詳しく聞かせてもらおうか」

「ああ」

 そう言ったポチの口から聞かされた話は到底信じられないものだった。100名以上の狼族の戦士が皇帝一人に向かい次々と屠られていく様を見たと。そして一族の存亡の危機を察した狼族の長老に護衛を頼まれここまで逃げてきたという。遠目で見る限り、生存者はいないだろうとの事だ。そして皇帝軍は北からやってきたという。となれば次はここ蜥蜴族の集落が狙われる可能性が高い。


「だからと言ってこのまま土地を捨て、他の集落に逃げようなどとはワシらとて納得がいかん。精鋭を集め、警戒に当たろう」

「まぁそうだよな。俺は遅れて到着してもう戦いが始まっていた状況だったからよ、頼まれたら仕方ねぇって撤退の護衛を引き受けたが、このまま尻尾巻いて逃げるなんざ御免だぜ」

「しかしどうする?相手は強大なのだろう?」

「戦って死ぬ覚悟がある奴だけ集めて、あとは撤退する準備を整えておく。帝国の奴らは戦う意思のない奴らに興味はないみたいだったぜ」

「ならば急ぎ集落の者を集め準備をさせよう」


「アルト、俺たちはどうする?」レオニスが意見を求めてくる。

「帝国の皇帝、この目でその実力を見るいい機会だとは思う。しかし…」

「私達も戦うわ、アルトだけに任せっきりはもう無し!」

「はい、出来る限り戦いましょう。逃げる算段も付けておくと良いと思います」

「いざとなったら撤退する。その方向でいいかな?」

「そうだな、勝てないにしても情報を持ち帰る事が大切だ」

「私たちの戦いは相手を倒す事じゃない。驚異を知り、対策を練る事と同盟の締結、そして生きて帰る事よ」

「バックアップは任せてください!」

「よし、決まりだな。族長と話して来るよ」

 アルトはみんなの総意を伝えに行く。


「族長、我々も戦線に加わりたいと思います」

「お主らが?我々の為に戦うというのか」

「はい。先ほども申しました。帝国は我らの脅威です、見過ごすわけにはまいりません。もしこれに敵わないと感じた場合は撤退も視野に入れて臨みますが、族長もそれでよろしいですか?」

「もし敵わぬ相手となれば無駄に戦士を失いたくはない。作戦立て万全の状態でこれに臨むとしよう。助力を感謝する」

「俺様も前線に出るぜ、アルト!お前さんと共闘だ」

「心強いよ、ポチ」

 こうしてアルト達は思わぬ形で鮮血帝との戦いに挑むことになった。




 それから2日後、北方より帝国の軍勢が現れた。その総数はざっと見た感じで数百程度だろうか、皆が赤い鎧を見に纏っており、先頭にひと際目立つ大剣と大盾を持った者が居た。

「アルト、アイツだ。あの大剣と大盾を軽々と扱いやがる」

「力はポチ並かそれ以上って感じかな」

「ああ。そう考えて良いと思うぜ」


 作戦はこうだ。皇帝は必ず宣戦布告をし、一人で立ち向かうという。そこでアルトとポチを先頭にレオニス、リリー、シズクは後衛で待機。各自の判断で遠距離からの魔法攻撃で支援をしつつ、敵わぬと判断した場合はレオニスとリリーによる援護で撤退を開始。泥濘を作り足場を崩し、氷魔法で前進を食い止める。その間に全員が脱出を試みる、というシンプルなものだ。


 そして帝国軍が迫り、噂通りに宣戦布告をする。

「我はガレリオン帝国の皇帝、ヴラディミール・クルオールである。神の命に従い、諸君らの集落を攻める。ただし、私は寛大である。これより猶予を与える。我こそはと思う戦士を残し戦えないものは他の集落へと逃げるがよい。戦う意志のある戦士は幾人でも構わん。私一人が相手をしよう。もし私を破れるものが居るならば、兵は下がらせよう。生きるか死ぬかを選べ!」


 なんと尊大なもの言いだろうか。それだけ自身があるという事か。そう思いながらポチとアルトは互いに頷き合い、前に出る。


「ガレリオン帝国の皇帝、ヴラディミール・クルオール!ここは我々が相手をしよう!」

「人族がなぜここに…お前は!?」

 皇帝がアルトを見ると何やら肩を震わせている。

「神に仇名す大罪人とここで相見えようとは!面白い!貴様の名を聞いておこう」

「アルト・ハンスガルドだ」

「アルト・ハンスガルド、今日ここでお前を屠り、我が神の供物としてやろう!」

 そう言うなり皇帝はアルトへと向かってきた。何が皇帝をここまで怒らせるのか、サッパリ理解できないがとりあえずは作戦通り、問題ないと判断したアルトは打って出る。


 皇帝の大剣から繰り出される攻撃の速度は凄まじい。アルトの強化された反射速度をもってしても躱すのが精一杯だ。その風切り音たるやまるで巨大なものが高速で通り過ぎるような轟音を立て、剣で受ける事は死を意味するだろう、そう感じさせた。アルトが回避に専念する中、ポチは反対側に周りこみ横薙ぎに渾身の一撃を胴に向かって狙う。しかし皇帝はこれを見もせずに大盾で防いでみせた。


 あの攻撃を片手で防ぐとは恐れ入る。そう感じながら一瞬の隙にアルトは距離を取る。しかし皇帝はそれを許さない。また距離を詰め大剣を振り回してくる。一撃一撃が死を感じさせるほどの威力のものだと分かるが、慣れてくると違和感に気付いた。それは戦士としては皇帝は些か未熟なのではないか?という事だ。ただ力任せに剣を振るっているように思える。


 躱し続ける内に冷静になったアルトは一つ試してみる事にした。それはあの強化型マナフィールドでこの一撃を防げるかだ。慎重に相手の動きを観察し、横薙ぎの攻撃が着た瞬間にマナフィールドを発動させる。同時に自らは空中に逃れ隙を伺うように跳ねる。マナフィールドは皇帝の剣を止める事に成功した。


 これまで攻撃を止められたことのなかった皇帝はその様子に狼狽えた。ポチはその一瞬を見逃さない男だ。敢えて大盾を弾くように狙い、皇帝から防御の要を奪った。即座に距離を取るポチの姿を見たレオニスは皇帝に向かい疑似精霊魔法を放つ。『雷撃』の言葉と共に雷が皇帝を捉えた。棒立ちになった皇帝に畳みかけるようにリリーは『氷槍乱舞』と唱え氷の槍を多数作り出し放つ。それは尽く鎧に当たり砕け散るが、構わず『氷牙』と唱え地面を走る氷の牙で皇帝を穿つ。しかしこれも赤い鎧に阻まれる。


 だがリリーの狙いはこの後だった。『氷結の地獄牢』そう唱えた瞬間、砕け散った氷が皇帝の周りに集まり無数の針となり全身を穿つように襲う。だがそれでも鎧の防御を突破する事は出来なかった。


「どうなってんのよアイツ!全く攻撃が効かないわ!」

「リリー様、私が!」

 シズクがそう叫ぶとあらかじめ待機していたおきつね様へ『狐火・蒼炎業火』と唱える。それは皇帝の足元から青い炎が立ち上がり、皇帝を焼き尽くさんと燃え盛る。暫くして炎が収まると、皇帝は変わらぬ姿でそこに立っていた。


「終いか?ならばアルトよ!続きを始めるぞ!」

 皇帝は全く魔法攻撃が全く効いていないようだった。盾を手放した分両手で構えたその大剣から放たれる剣戟は、その威力も早さも先ほどより数段上だった。アルトは巧みに足場を作りこれを回避し隙を伺う。皇帝の下に潜り込むように動き縦斬りを誘うと共にマナフィールドを形成し足場で反転する。両手持ちの一撃にマナフィールドが耐えられるか確認する為だ。


 だが皇帝はマナフィールドを砕いた。その膂力は人の領域を超えている。獣人でさえこれほどの威力の一撃を放つ者は居ないだろう。だが、その砕いた体勢は隙だらけだった。ポチは瞬時にアルトを飛び越し背中めがけて渾身の力を込めてその曲刀を振り下ろす。


 激しい金属音と共に皇帝は地に叩き伏せられた。しかし同時にポチの曲刀も破損し、その刃の半分が空を切って地面に刺さる。土煙の中、皇帝は立ち上がった。さしてダメージも通ってないようだ。


「こいつぁ本物のバケモンだな」

 ポチの表情は硬い。撤退も視野に入る状況だ。だが皇帝は執拗にアルトを狙い、またもや斬りかかって来た。もはや怨念と言ってもいいくらいの執念深さだ。この男とは初対面のはず。にも拘わらずここまで執拗に狙うのはなぜだ?皇帝の攻撃を躱しながらアルトは考える。が、今その答えは恐らくでないだろう。撤退を許してくれるような状況でもなさそうだ。アルトはある覚悟を決めた。




 それはアストラルアーマーの試作機のテストが終わった時の話だ。トーリンはアルトにある試作武器の開発を依頼されていた。それはある仕掛けを施した大剣だった。アルトの使うバスタードソードよりも大きく、長大なその剣にアストリウム合金を使い、絵の装飾部に魔晶石も2つ組み込む。


 それは長さ140cmほど、幅10㎝ほどの大剣であり、厚みも最大部で10cmと分厚いものだ。その質量と多量のアストリウムによるマナの反応、そして魔晶石にはアルトのマナフィールドとマナブレードをより効率よく展開する術式を付与し、これまでにないほどのマナを含有する事で圧倒的な切断力を付与するという物だった。


 そしてこの剣にはもう一つの注文があった。それこそこの大剣が試作武器である所以であり、効果は未知数だった。それを旅に出る前にアルトは受け取っていた。皇帝のこの硬い装甲を破るには、もうそれしか考えられないと判断したアルトは回避をしながらマジックポーチに剣を仕舞い込み、その大剣を取り出した。


 皆がその剣に注目する中、皇帝は構わず剣を振り回す。それを躱し剣に一気にマナを流し込む。青白く光っていた剣にアルトのマナが注ぎ込まれ、その剣は強く白い輝きを放つ。そしてアルトは皇帝と剣を始めて交えた。強烈な一撃を剣でいなしながら、マナフィールドの密度をより強く薄く、マナブレードの粒子をより濃密に振動させるイメージを描く。


 眩い輝きが増していく中、皇帝はこれまで自身の剣と切り結ぶ者が居なかった事に焦りを見せていた。それを感じたアルトはただでさえ大振りの一撃が一層雑になったところをいなしながら、隙を見つけ渾身の力で弾く。そしてそのがら空きになった胴に逆袈裟の形で斬り付けた。


 鎧にヒビが入り、そこから斬れると確信した得たアルトはそのまま斬り上げ、返す刀で皇帝の首を狙う。しかし体制を崩した皇帝のヘルムに当たり、その顔面を切り裂く事しか出来なかった。そしてこの剣の最大の仕掛けである、込めたマナを一気に前面へ放出する攻撃を繰り出す為、皇帝の胴体に切っ先を向けマナを解放した。


 その威力は今アルトが出せる最大の火力であり、最終手段でもあった。如何に優れた合金であるアストリウムといえど、耐えきれるものではなかった。その大剣はボロボロと崩れ落ち、魔晶石も砕け散る。


 しかしその価値はあった。皇帝は赤の軍勢を巻き込み後方まで吹き飛ばされ、皇帝軍に大きなの被害を与えたのだ。再び愛用のバスタードソードを取り出し、警戒するアルトだったが皇帝軍はあっさりと引いていった。


 アルトは皇帝軍が下がる様子を見て剣を天に向け上げ勝どきを上げる。その様子に皆が歓喜した。ポチはアルトに駆け寄り、バンバンと背中を叩く。

「アルト、なんだありゃ!お前さんあんな奥の手持ってたのかよ!」

「試作で作ってもらったんだ。剣に貯めたマナをそのまま放つ事が出来ないかってね」

「でも一回で壊れちまうんじゃ確かに使いどころが難しいな」

「あいつはアレじゃないと倒せないと思った。作ってもらっておいてよかったよ」

「何より一泡どころか、アレじゃ生きてはねぇだろうな!」

 ポチは豪快に笑いながらそう言う。だが首を撥ねるか頭を潰すかしないと安心できない、アルトはそう思っていた。


「なんだかまたとんでもない事やってくれたわね」

「アルトさん、凄いです!」

「お前のやる事にはもう驚くまいと思っていたが、毎回それを超えてくるな本当に」

「あいつが異常なだけだよ、みんなの攻撃を無効化してたのは正直ビックリしたさ」

 アルトは率直な意見を述べたが、それをお前が言うのか?と総ツッコミを受けるのだった。




「人族の方、礼を言う。我々が生き残ったのもそなたあっての事。約束通り、獅子族の長に面会を取り付けよう」

「いえ、礼には及びません、共通の敵を退けたまでの事。ご助力感謝します」

「今日はコチラでゆっくりと休まれよ、明日獅子族の集落へと向かいましょうぞ」

「よろしくお願いします」


 どうやら無事に任務が果たせそうだ、とアルトはホッと胸をなでおろしたのだった。

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