第2章14幕 新兵器開発
アルト一行は港街に着き、まずはレオニスを宿で休ませる。リリーとシズクには後で王都で合流する事にし、アルトは急ぎ王都へと向かった。王都到着後、すぐに城に出向き女王に謁見を求める。程なくして謁見の間へと呼ばれたアルトは事の顛末を報告する為に謁見の間へと向かった。
「陛下、アルト・ハンスガルド、勅命を果たし帰国いたしました」
「アルト、面を上げなさい。よくぞ使命を果たしてくれました。既にローゼリア・カラッゾから技術者が到着し、現在は新兵器開発に取り掛かっているところです」
「有難きお言葉、感謝いたします。開発以外にご報告したい事がございます」
「聞きましょう」
「はい。リージアに滞在中、魔族と思われるものを討伐しました。恐らく災厄の王が復活する兆しであるとリージア議会では意見が一致しております。我が国も含め、これに早急に備える必要があるかと存じます。カラッゾ国王には直接私から進言いたしましたが、ローゼリア王国にはまだ情報が届いていないはず。急ぎ共有が必要と愚考します」
「ついにその時がやってきましたか。報告ご苦労でありました。その他に何か進言はありますか?」
「いえ、今現状は以上になります」
「結構。ではアルト。帰ったばかりで申し訳ないのですが開発を行っている者たちと合流し、あなたの具体的なアイデアを共有してください。災厄の王についての話はシルヴィア様をお呼びして後日話し合いましょう」
「承知いたしました。では私は失礼させていただきます」
「此度の活躍、大儀でありました。引き続きお願いしますよ」
「ハッ!承知いたしました」
アルトはすぐに開発部門の場所を聞き、向かう。そこではローゼリアの魔法技術者とカラッゾのドワーフ達、そしてクリフト王国の技術者がアルトを迎えてくれた。
「アルト殿、無事に帰国されたのですね!お待ちしておりましたぞ!」
開発を取り仕切っている王国の担当者『ピーキー・トーレット』が出迎える。
「ピーキー殿、お待たせしました。先ほど女王陛下へ報告をしこちらに来た次第です」
「アルト殿の案を元にマナの増幅回路とその制御回路の開発を進めているところです。まずはこれが完成しない事には先に進みませんからね」
「そうですね。進捗はどうですか?」
「まだまだ時間はかかりますが、ゴーレムコアを解析したところ面白い事が分かりました」
「解析が出来たのですか?」
「ええ!あのコアはマナを貯蔵する役割と、そのマナを使って全体を制御する複数の命令が刻み込まれており、その組み合わせでゴーレムを制御していたようです。心臓であり脳であったという事ですね」
ピーキーは円眼鏡をクイと上げる。
「マナを貯蔵…それは既存の技術で可能なのですか?」
「いえ、その方法は検討されていましたが、どれも実用段階には至りませんでした。しかしこのコアのお陰でその仕組みが分かり、マナを貯蔵する事については再現する事が可能です」
「それは今回のプロジェクトにも応用できそうですね」
「はい!ただ、今回のプロジェクトで開発するのは人が装着する兵装、となると貯蔵するのもその本人でないと意味がないでしょう」
「思わぬ副産物も発見できたという事で一旦その話は保留にしておきましょう」
「そうですね。それで増幅回路や制御回路について意見を交換したく…」
ピーキーの勢いのまま、回路開発チームの議論に加わる事になったアルト。
今回の新兵器の目標は「エルフ族以外が使える簡易型ヴァルキリア」だ。当然、これには本人のマナを利用する。動力として考えなければならない点は以下だ。
・稼働に必要なマナを本人から吸収する
・吸収したマナを安定稼働させるために増幅する
・増幅したマナを各部位に供給する
・必要に応じて供給量をコントロールする
そしてこれらだけでは新兵器は完成しない。この動力を活かすために装着者が考えた通りに動くようにコントロールするシステムが必要なのだ。アルトは記憶の欠片も含め、ありとあらゆる知識を総動員して知恵を絞った。そしてふと気付く。
「ピーキー殿、マナを吸収して増幅、それを制御して各部に必要に応じて供給するんですよね?」
「そうですね、その発想はアルト殿の提案だったと聞いていますが」
「あの、吸収したマナに装着者の動かしたいイメージってそのまま乗っけられないですか?」
「つまり装着し、マナを流した段階で装着者と装備がマナで繋がると?」
「はい、魔法を行使する際に詠唱をしますよね?その詠唱にはマナとその魔法イメージが含まれていると聞きます。つまりマナはイメージの伝達も兼ねる。であれば、制御装置はその手助けをするだけで良いのかなと」
「なるほど…そのアプローチ、良いかもしれませんな!」
「ではその方向で開発を進めてみて頂けますか?」
「了解しました!」
そう言うや否やピーキーは皆に今の話を持っていき、議論に入ってしまった。これはもう自分の出る幕はないなと、今度はドワーフ達の所へ向かう。
「あれ?なんでトーリンがここに居るの?」
「おう!久しぶりだな。お前さんの考えた物を作るために決まってるだろ?」
「トーリンが手伝ってくれるなら心強いよ!」
「帝国の奴らに負けてられねぇからな、ドワーフの底力を見せてやるよ」
久々のトーリンとの再会に喜ぶアルト。そしてドワーフ達の中に見知った顔を見つけた。
「それにストーンハース様のお店の方も来てくれたんですね!」
「ああ、そういや名乗ってなかったか?フォルガーだ。宜しくな」
「はい、フォルガーさん。アルト・ハンスガルドです。宜しくお願いします!」
「このトーリンの旦那がアルトの剣を打った鍛冶師か?噂に聞くクリフト王都の名工と仕事が出来るなんて嬉しいねぇ」
「お前さん、ワシの事を話したのか。全くそんな褒められたもんじゃねぇよ。こいつのは勝手に進化してったんだ。ワシの仕事とは言えねぇ」
「謙遜すんなって!お前さんの腕がなきゃああは成らなかっただろうさ」
「まぁそうかもしれんがな」
ガハハと笑う二人。他にも多数のドワーフ達が来てくれている。ストーンハースの人望のお陰だろう。
「ピーキーさんが仕切ってくれてたみたいですけど、装甲の方は何か課題がありますか?」
「まずミスリルを使う、これは確定だな。基本はミスリル製のプレート部での防御になる」
そう話すトーリンにフォルガーは同意する。
「今回の兵器はマナを増幅して使うんだろ?ならミスリル以外に適した素材はない。それ以上を求めるとなると…オリハルコンとかになっちまうぞ?」
「装甲自体に何か仕掛けを施したいんですよね、例えば俺が使うようなマナフィールドの様に薄い防御壁を張るとかして、装甲も守る感じで。装甲で防ぐのは最後の手段って感じで出来ないですか?」
「難しい要求だな。少なくともミスリル単体では無理だ」
トーリンの言葉にウンウンと頷くフォルガー。
「ミスリルと何かを組み合わせて実現できないですか?魔晶石を混ぜるとか…」
その言葉を聞いた瞬間、二人が顔を近づけてくる。そして同時に反応した。
「魔晶石を混ぜるだと!?」
「は、はい。それで魔法的なものを付与する事が出来るようにならないかなぁ…なんて」
その勢いに押されたアルトは引き気味に答えるが、二人はしばらく考え込んで顔を見合わせ頷いた。
「アルト、お前さんは毎度面白れぇこと考え付く奴だよ!」
トーリンはアルトの肩をバンバンと叩き豪快に笑う。
「フォルガー殿、これは試してみる価値がありますな」
「トーリン殿、我々で新しい合金を作り出してみましょうぞ!」
「息ピッタリだね。俺も理想像をいったん整理してみんなに共有したいから、装甲はお願いします」
「おう!任せとけ!」
またもやハモる二人に任せ、自分はアイデアを纏めよう。そしてふと気付いた。
「あれ?俺何処で生活したらいいんだろう?」
せっかく王都に戻ってきたのだ、久しぶりにあの宿屋にでも止まるかと思い、かつて冒険者として拠点に使っていた宿に一泊する事にしたアルト。城の兵士に女王陛下や開発部門の人々に一旦ここで生活をすると伝えて欲しいと伝え、城を後にした。
あの宿屋は相変わらずの雰囲気でそこにあった。中に入り挨拶をし、とりあえず一泊をすると伝えて部屋を用意してもらうと、ようやく落ち着くことが出来た。その雰囲気にチッチも懐かしさを覚えたのか、部屋のあちこちを見て回った後、ベッドで眠ってしまった。
「さて、イメージを纏めるか」
そう独り言つと、アルトは新兵器の構想を固める事に専念する。あまり思い出したくはないのだが、やはり自分がゴーレムを撃退した時のあの姿、あの力を自在に制御できれば…まずはそこから着想を試みる。
この世界では空戦の概念が無い。ならば空を飛び回るというのは大きなアドバンテージになる。可能な限り速く飛び回り、パワーはポチくらい出せるなら理想的だ。遠距離攻撃手段も欲しい。可能ならばピンポイントで狙う手段と広範囲を攻撃する手段、この二つを揃えたい。
そこまでイメージした後、ゴーレムを仮想的とし倒せるかを想像してみた。ポチのあの一撃はゴーレムにも通用するだろう。そして遠距離からもそれを支援すれば、恐らく十分通用する。3人~4人で掛かれば倒せるかもしれない。
パワーをどう出すか、これはピーキーに後々相談するとして攻撃手段の方を考える。現状では魔法を使う事になるが、そうすると装着者に風と地などの組み合わせの適性を求める事になる。出来ればそれは避けたい。記憶の欠片を探ると別の世界の戦争では長距離からの狙撃をライフルという物で行っていたという。また広範囲を攻撃するミサイルや爆弾という物もあったようだ。
これを魔法で再現できれば、自分にも遠距離攻撃手段が出来るのでは?と考え始めた。そうして思索にふけっている間にベッドに横になり、いつの間にかに寝てしまうアルト。人間、自分の疲れには気付かない時もあるものだ。
翌日の昼、城の使いがドアを叩く音で目を覚ますアルト。かなりぐっすり眠っていたらしい。慌てて扉を開け、要件を聞くとシルヴィアが城に来ており、話をしたいとの伝言だった。急いで準備し、宿を出たアルトは城へと向かった。
城に到着し、騎士たちにシルヴィアの場所を聞いたアルトは客室へと向かう。そこには既にシルヴィアとマリアンナ12世が揃っていた。
「お待たせして申し訳ありません、陛下。シルヴィア、久しぶり」
「疲れていたのでしょう。ちょうど先ほどシルヴィア様も到着したばかり。構いませんよ」
「ありがとうございます、陛下」
「アルト、久しぶりだな。早速だが、魔族と交戦したと聞くが詳しく聞かせてもらおう」
アルトは戦ったハーピーが魔石を運び、ある村を狙ってオークを使った攻撃を仕掛けていた事、これを倒した際に消滅しなかった事、リージアで調べてもらった結果、額に魔石があり負のマナ以外に正のマナも持っている存在であったことを告げた。
「間違いない。魔族だ」
シルヴィアの顔が険しい。かつて交戦したシルヴィアが言うのだ。これは確定だろう。
「シルヴィア、魔族が活動を始めるって具体的にはどういう状況になるの?」
「まず魔族は表立って行動しないだろう。裏で暗躍するように各地に出没し、混乱を招くようなやり方でこちらの消耗を狙う。そしてその動きと呼応するようにモンスターが活発に動くようになる。発生頻度も増すだろうな」
「それは全て災厄の王が原因なんだよね?だったら今災厄の王を倒す事は出来ないのかな?」
「それは無理だ。あいつらの本拠地、魔族の島の位置は解る。だが災厄の王が現れないとそこに行っても何もないんだ」
「別の場所に移動しているって事はないでしょうか?」
「いや、恐らくだが隠されている。あの後しばらくしてふと気になって見に行ったことがあってな。だがいくらその場所を探しても、他の場所を探しても、何も見つからなかった。あれはエルフ族の隠匿結界よりも厄介だ。恐らくは見つけられまい」
マリアンナ12世の言葉にシルヴィアはそう答えた。
「では時を待って現れた所を討つしかないと」
「そういう事になる。まだモンスターの動きに変化は見られない。ハーピーの一件も何かの実験のような物だったのかもしれん。猶予は多少はあるとみて良い」
「いずれにしても我々も準備をせねばなりませんね」
「そうだな。アルト、お前は可能な限り力を付けろ。新兵器開発もいいが、お前が要だ」
「わかった。Aランク冒険者にさえ通用しない今の俺じゃ通用しないだろうしね」
「ほう、Aランクとやり合ったのか?」
「うん、狼族のポチって人と知り合って、その人の全力の一太刀をマナフィールドで防げるか試したんだけど、あっさり破られたよ」
「獣人の膂力は他種族と比べ物にならんからな。良い経験をしたようで何よりだ」
ポチの一件を思い出し、アルトは考えた。獣人族の力もあれば帝国を抑え込むことは簡単なのではないかと。
「獣人族にも協力を仰げれば心強いかもしれない…陛下、それは難しいでしょうか?」
「そうですね、獣人族はカラッゾよりも人族に厳しいと聞きます。信用が得られるかどうかは解りません」
「彼らも帝国の脅威にさらされている一族です。同じ敵を持つ者として共闘出来れば…今回開発している兵装も獣人用にアレンジして提供できるかも含めて検討してみてもよろしいですか?」
「それは良い考えかもしれません。新兵器開発についてはピーキーと連携してアルト、あなたに任せます」
「承知いたしました」
「知恵を絞るだけでなく鍛錬も怠るなよ。鍛えて欲しくなったら森にこい」
「ありがとう、シルヴィア」
「今後はいち早く兵を展開できるように各領主と連携も取りましょう」
「急いだ方が良い。奴らが動き始めてからでは遅いからな」
「仰る通りです。では今日の所はここまでとしましょう」
「私は森を守り続ける。何かあったらいつでも呼ぶといい」
「ありがとうございます。シルヴィア様」
「では私もこれで失礼させていただきます」
「アルトもご苦労でした」
帰国早々に忙しく動き回るアルト。程なくしてリリー達も帰国し、4人は久しぶりにクリフト王国に集う事になった。帝国の再侵攻と災厄の王、どちらが先かは不明だがあとどのくらいの時間が残されているのか、アルト達は可能な限りの手を打てるように心構えをしつつ、再び王国での日々を過ごす事になる。




