第2章3幕 探求者たちの国
翌日、王宮からの使いの者が宿に訪れ王宮へと案内されるアルト一行。それぞれに立派な個室を用意してくれるという高待遇であった。そして程なくして国王を含む関係者を集めた詳細な会議が開かれる事となった。
アルトはまずゴーレムの脅威について、その実戦経験を持って語る。ミスリルで覆われており既存の魔法では太刀打ちが出来ない事、物理攻撃もその巨体には意味をなさない事、自身が扱えるマナフィールドについて説明し、それで止める事が精一杯だったこと、それでも振り下ろされる攻撃を受けた際は防ぎきる事が出来なかったという事だ。
ゴーレムを倒したのはシルヴィアという事にしたが、これはヴァルキリアが尋常でない力を持っていると認知されているため疑われなかった。とてもじゃないが自分が暴走したなんて言えるわけもないし、それを再現も出来ないのだから仕方ない。
そしてその対抗策としてコアの解析から始め、マナを増幅する装置、増幅したマナを制御する装置、そしてそれらの動力で稼働可能になった鎧、ないし搭乗型のゴーレムの様なものを人が制御するための装置の開発が必要だと訴えた。簡単に言ってしまえば「簡易型ヴァルキリア量産計画」である。
このアイデアだけでもローゼリアにとっては魅力的だろう、そう踏んでいたアルトだったが食いつきは予想以上であった。すべてを語り終えた後は会議場はざわつき様々な議論が飛び交う。参加者は国の要職の者と国王のみならず、各研究機関の代表などもいたのだが、立場を超えて議論をしている様子を見てローゼリアという国を理解できたように感じた。
アルトは一度話を区切るため制止をかけ、その他に自身の経験を元にロッツが編纂した教科書を一冊取り出し、魔法学についての新見解を述べた。主に詠唱文の工夫をし、精霊への感謝を明確にすることで同じマナ量でも効果が変わる事、マナ出力と総量の伸びについての見解、魔法統合による効率的な身体強化と能力強化の実現などである。
併せて疑似精霊魔法についても説明を始める。精霊と会話できる事を明かし、自身が精霊を介した魔法が使えない為に仲間に精霊語を教えた事。精霊語を覚えなくても毎回精霊に対して呼びかける必要をなくすことが出来る事、ただしこれは相応のマナ量が必要になり、扱えるものは限られるという事である。
それらのメリットを踏まえた上で、精霊語を覚えた上でその絆をより深めれば、高いマナ総量を持つ者であれば疑似精霊魔法を使用する可能性は高いという事を知識として共有した。
再び湧く会議場。国王までもが興奮気味に議論に参加している。これは収拾がつかないなぁと思い彼らからの質問にも丁寧に答えていく。3人も質問攻めにあっており、その日は議論だけで終わったのであった。
翌日、アルトは一度話を整理したいと申し出る。このままでは研究者達はいつまで経っても自国で新しい可能性についてあれやこれやと話し続けるだけだろう。そして気になる事がもう一つあった。先日倒したヒュージスライムの魔石のマナが正負の均衡が取れていた件についてだ。
そして再び会議場に集まった者たちはアルト主導の元、意見を述べていく。まず議題として新兵器共同開発について、これに賛同してもらえるか?という事だが、これは快諾してもらえた。もちろん、開発完了の暁には同型機を同量配備するという条件を提示した。
開発場所についてだが、地理的にもクリフト王国で行うことを提案。これは今後カラッゾやリージアでも同様の提案を行う事を伝え、最もゴーレムの脅威に詳しい国であるクリフト王国であればその有用性が判断できるという理由で納得してもらう。
魔法学の情報提供についてはしばらくこの王宮に滞在し、数名の者に直接指導をする事で話がついた。もっとも内部では誰が教わるかという議論が後で繰り広げられるのだろうが。
そしてアルトは別件として今回のヒュージスライムの魔石の件について、正負の均衡が取れている者であったことを伝え、これを皆の前に出す。それはすぐに答えが出た。なんと魔法生物研究所なるものが存在し、外での実験中のイレギュラーで発生したものを穴に閉じ込めていたそうだ。
それを聞いたアルトは(この国は魔法に関して熱心過ぎる、ある意味危険かもしれない)と危惧する。それは記憶の断片による『科学』の追及の裏で悲惨な事件がいくつもあったという物を想起させる物だったからだ。
一通り決めるべきことの方向性は決めた。あとは詳細を詰める段階だ。国王には兵器開発に適した人材を選出してもらう提案を行い、クリフト王国の王都へ向かってもらうように依頼をする。同時にゴーレムコアの解析については現存している物が4つあり、うち一つはクリフト王国に、残り3つは各国に献上するつもりで持ってきていると伝えた。これによって自国での解析とクリフト王国で協力体制を敷いての解析が可能となる。
そして魔法学の共有のための滞在期間をどの程度にするかという話だが、これも人選を行ってもらったうえでその人材の吸収速度に依存する為、後日改めて決めるという意見で一致。ただし、ハーフエルフ、人族、亜人とそれぞれ人種を分けてもらいたいと提案はしておく。これはどの種族でも同じように扱えるはずだという実証データが欲しいためである。可能であれば12歳~15歳くらいの人材が適しているとも伝えた。
1593年9月、ローゼリア王国での魔法学研究について、ローゼリア魔法王国の学生たちが特別参加する事になったと聞いたアルト達。若い人材の方が吸収速度が速いという判断と、伸び率が高いという仮説に基づいたものである。
メイン講師はリリー、シズク、レオニスである。アルトの担当は精霊語と魔法統合についてのみになった。選抜されたメンバーは計5人。
セリーナ・ローズウェル。ハーフエルフの女性で12歳、マナ総量:200Mep
アイザック・アンダーヒル。人族の男性で14歳、マナ総量:60Mep
ハーパー・アーカンドル。猫人族の男性で13歳、マナ総量:10Mep
カレン・エールべル。兎人族の女性で12歳、マナ総量:50Mep
エルミン・ブルック。クォーターエルフの男性で13歳、マナ総量:150Mep
人選としてはなかなか面白い構成だ。一見、人族と亜人族のマナ総量が低いように思われるだろうが、通常の人族が10Mep~100Mep程度、亜人族は1Mep~10Mep程度の者が多い。むしろアルト達と関わった王国の生徒たちが異常なのだ。
つまり彼らはこれでもエリート候補生なのである。彼ら彼女らがこれからどんなように伸びていくのか、非常に楽しみだ。
こうしてアルト達のローゼリアでの生活が始まった。そしてそれは実に濃厚なものであった。アルト達自身にとっても、ローゼリア王国の者たちにとっても。




