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アーリア物語 ~神と白竜と私(勇者)~  作者: いちこ
第1章 クリフト王国の日々
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第1章36幕 旅立ち

 アルトが学校に着くころには授業はすでに日も暮れかけていた。戦地での出来事は噂になっており、詳細は伏せられている者のアルトの功績はすでに校内全体に広まっていた。そして一人の生徒に発見されるや否や、瞬く間に人が集まりアルトを称える。そんな称賛の声は、アルトにとっては辛いものだった。


「皆さん!アルトはようやく学校に戻って来れて疲れてるのよ、それくらいにしてあげなさい」

 聞き覚えのある凛とした声が響く。リリーだった。

「お疲れ様、アルト」

「ご無事で何よりです!アルトさん、おかえりなさい」

 リリーとシズクはそうアルトを労い出迎えてくれた。そしてチッチが飛びついてくる。やはりアルトの肩の上が一番落ち着くようだ。


「ありがとう、二人とも」

「聞きたい事はあるけれど、今はゆっくり休む方が先決ね」

「そうです。まずは落ち着いて身体を休めてください」

「気持ちは嬉しいんだけど、そうも言ってられない事情が出来てね…ところでレオニスは?」

 そう聞くと二人の表情が曇った。


「ちょっとこっちにいらっしゃい」

 そうアルトを引っ張っていくリリーは落ち着いた場所で話を始めた。

「結論から言うわ。ハイランド伯爵は帝国と内通していた事が明るみに出たの。それを受けてレオニスは事情聴取へ連れていかれてね。ついさっき戻って来たところよ。今は寮の自室にいると思う」

「やはりそうなったか、しかしこのタイミングとはね」

「アルトは知ってたの?」

「ああ、おおよそ検討は付いていたよ。ただ一部の人間以外にはこの事は伏せてもらっていた」

「そう。恐らくハイランド伯爵は地位剥奪の上、処刑されるでしょうね」

「レオニスの処遇はどうなるんだろうか」

「解らないわ。そっちも心配ね」

 アルトは思案し、二人に一旦ここで待っているようにと伝えると、レオニスの自室に向かった。


「レオニス、アルトだ。話は聞いた。少し提案があるんだが聞いてもらえないだろうか」

「アルトか、入ってくれ」

 レオニスの自室に入るとその顔は憔悴していた。

「アルト、戦地での話は聞いた。その一端に父上が絡んでいたとはな。国内のみならず背信行為まで行っていたとは、アルトにも間接的に迷惑をかけた。もう家はなくなるだろうが、ハイランド家の者として謝罪させてくれ」

「レオニス、よしてくれ。君は俺の大切な仲間だ。君が謝る事なんて何一つない」

「そうもいかん、俺にはハイランド家の血が流れている」

「いや、本当に君が謝る事じゃない。生まれは確かにそうかもしれないが、今の君はハイランド家の思想よりも俺に近い思想を持った同志だ。それが何よりも重要だと考えている」

「アルト、そう言ってくれると救われるよ」


「それよりも君の処遇について聞きたい。今後どうなると言われているんだ?」

「上の兄は父と同様に今回の件を知っていた。それはそうだろうな、次期当主となる兄上が知らないわけない。下の兄はすでに独立して爵位を得ているし、今回の件は寝耳に水だったようだ。こちらは処分は免れるだろうが、影響は大きいだろうな。俺は処分などは特にない。本来であれば一族郎党で処刑されても文句を言えない立場だがな」

「そうか、なら一つ頼みがある。学校を退学する事になるが、俺と一緒に来て欲しい」

「お前と一緒に?どういうことだ?」

 アルトは女王からの勅命で各国を回る旅に出る事を告げる。


「そんな大役を任されたとは。やはりお前は凄い奴だよ」

「その人選は一任されていてね。だから君の力が欲しいんだ」

「俺の力が必要…か。嬉しい言葉だが」

「もう家に縛られないで済むんだろ?なら冒険者登録してただのレオニスとして俺と共に来てくれ」

「家名を捨てただのレオニスとして生きる、か。悪くないな」

「そうと決まればこんな所で考え込んでないでこれからの準備に移ろう!」

「わかった、そう急かすな」

 レオニスは苦笑いしつつアルトに引っ張られるように自室から出る。


「リリーとシズクにも話があるんだ」

「アルトにレオニス、話は無事に済んだ様ね」

「ああ、レオニスはこれから俺と旅に出る事になった」

「旅?どこへ?」

 そして同じように女王の勅命として諸国を周る話をするアルト。


「あなたって本当に次から次へと…それで、学校は退学する事になるのかしら」

「そうなるね、なるべく早く準備を整えて出るつもりさ」

「俺も冒険者として活動を出来るように取り計らってもらうつもりだ」

 リリーはシズクと顔を見合わせて頷く。


「そう、なら私たちも付いていくわ!」

「そうです!置いてけぼりはなしですよ!」

「ちょっと待ってくれ、二人は学校を退学する事になっても良いのか?」

「何よ、それくらいの覚悟なんてとっくに出来てるんだから。アルトよりも強くなるにはアルトの側で戦うのが一番いいでしょ?アルトは目を離すとすぐ変なこと思い付くんだから、離れたらまたとんでもない事を考え付いてあっという間に置いてかれるもの」

「私もその覚悟は出来ています。アルトさんの側で一緒に強くなって支えるのが私の希望なんです。ダメって言われてもついていくくらいのつもりですから!」

 リリーはともかくシズクは珍しく鼻息荒くそう語る。これは説得なんて無理だなと諦めるアルト。同時にこの二人なら実力もあるし信頼も出来る。理想的なパーティーだ。


「じゃあ4人で力を合わせて各国を周ろう。そうと決まれば校長室へ行かなきゃね」

 そうして校長室へと向かう一行。アルトがノックし用向きを伝え中に入る。

「アルト君、無事に帰ってきてくれて何よりだ。ところで4人一緒に今度は何を企んでいるのかな?」

「校長先生、女王陛下より南方諸国を周り各国の協力と安保条約の締結を結ぶ任の勅命を受けました。それに伴い私は学校を退学したくそのお話に参った次第です」

「なんと、そういう事か。それで3人はなぜ同行しているのかね?」

「はい。この3人は私が最も信頼し、実力を認める者達です。女王から人選を一任されておりますので、3人も同行してもらいたく、共に退学をし旅に出る考えです」

 ハーコンは頭を抱えた。この学校のTOP4が揃いも揃って中途退学とは、流石に想定していなかったのである。


「アルト君は型破りだが、まさか君たちまでそう来るとは思わなんだ。3人とも決意は固いのかね?」

「はい。ハイランド家を捨て一個人のレオニスとして共に旅をすると決心しました」

「私はアルトに負けたくありません。アルトの側が最も効率的に強くなれると確信してます」

「リリー様の侍女として、アルトさんの友人として皆を支えるのが私の使命です」

 それぞれが決意を表明する。


「分かった。退学の手続きは進めよう。残念ではあるがね」

「もうしわけありません、校長。それと一つお願いがあります。ロッツ先生が編纂した教科書を3部頂けないでしょうか」

「教科書?今更君たちに必要かな?」

「いえ、その内容を各国に伝えるのも交渉の一手段として提示したいのです」

「なるほど、そういう事なら用意しておこう」

「ありがとうございます」

「手続きは明日行うとして、今日は寮で休んでいきなさい。名残惜しい友もいるだろう、挨拶も忘れずにな」

「はい!」

 そう答えると校長室を後にし、各々自室へと向かっていった。




 翌日、アルト達は退学手続きを進め寮を退寮した。そして王城へと向かう。門番に用向きを伝え女王に謁見を求め順番を待つ。暫くすると謁見の間へと通された。


「陛下、この度は拝謁のお時間を頂き感謝いたします」

「気にせずともよい。勅命の件で参ったのですか?」

「はい。人選を一任して頂いておりましたので、私が選んだ者たちを紹介すると共に冒険者登録の推薦状を頂きたくお願いに上がりました」

「お久しぶりです。女王陛下。リリー・ブラックヴェルでございます」

「お初にお目にかかります、女王陛下。ブラックベル家に仕える侍女のシズクと申します」

「此度は我が父が大変なご迷惑をお掛け致した事を承知の上、恥を忍んで参上しました。レオニス・ハイランドでございます」

 それぞれが挨拶を述べる。


「レオニス、そなたの事は聞き及んでいます。確かにハイランド家の背任行為は万死に値する所業、されど私はレオニスにはその一件について罪を問うつもりはありません。そなたはアルトと共に研鑽を積み、今後の国の安寧の為に働いてもらいたいと思っていました」

「勿体なきお言葉、寛大なご配慮に感謝いたします」

 レオニスに言葉を掛けた後、リリーとシズクにも声をかける。


「リリー・ブラックヴェル。そなたの事もよく聴いておりますよ。ヴィクターも追い付かれまいと必死に研鑽を積んでいる様子。そんなそなたがさらなる高みを目指す為にアルトと共にありたいというのは至極当然でしょう。その侍女たるシズクの同行も役目を考えれば当然の事です」

「ありがたいお言葉を頂き光栄です、陛下」

「あ、ありがとうございます!女王陛下」

 リリーとシズクがそれぞれ感謝を述べた後、女王は宣言した。


「アルトがその目で選んだ者たちであれば私から言う事は何もありません。3人の推薦状はすぐに用意させましょう」

「ありがとうございます」

「アルト、書簡についてですが今しばらく時間をください。準備が整い次第、使いの者を手配します」

「承知いたしました」

「この国と西方諸国の安寧が掛かっています。頼みましたよ」

「ハッ!必ずや吉報を持ち帰ります」

「よろしい。では下がりなさい」

「はい、失礼いたします。陛下」

 4人は再び跪き、謁見の間を後にした。

 その後、すぐにギルドへの推薦状を受け取りその足で向かう。


 ギルドの登録はアルトの時と違いスムーズに行われた。皆成人間近である、アルトの仲間であり女王の推薦という事も大きいだろう。問題なく準備が整った一行はブラックヴェル邸に滞在する事にした。


 そして旅に必要な準備を整える。全員分のマジックポーチはアルトが用意した。旅にはマジックポーチが欠かせないと思ったからだ。そして各自の武器・防具や当面の食料・野営に必要なテントなどの道具を一通りそろえながら女王の書簡を待つ事3日。遂に使いの物から書簡とゴーレムコア3つを受け取る。戦場で回収されたコアは計4つ、丁度各国分の数が回収できていたのは僥倖だ。




 こうして旅の準備を整えた後、ヴィクターの見送りの元、王都南門から旅に出る事になったアルト達。まずは南西にある魔法王国ローゼリアを目的地として旅立つのだった。

第1章、ようやく完結しました。

次は第2章です!

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