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アーリア物語 ~神と白竜と私(勇者)~  作者: いちこ
第1章 クリフト王国の日々
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第1章34幕 帰りを待つ者と王国内の裏側

 アルトが戦場へと赴き、劣勢を強いられる中でその力を解放し帝国軍を退けた。その数日間の中で仲間たちは不安と共にそれぞれの日常を過ごしていた。


 リリーとシズク、レオニスは日中は授業を受け夜はアルトの帰還を願い待つ歯痒い毎日を送っている。そしてチッチの世話を任されたリリーはシズクと共に夜を過ごす毎日だ。不安な様子のシズクを放っておけないのもあるが、リリーもまたアルトの身を案じ不安だった。姉妹同然の二人がこの状況でお互いを支え合う、これは至極当然の流れだった。


 アルトが預けた時の不安は杞憂に終わり、チッチは大人しくしている。時折部屋のあちこちに跳びその場でスンスンと鼻を鳴らしたり「キュッキュッ」と鳴くのは普段通りの様子なのだろう。日当たりのいい場所で寝る様はとても妖精とは思えず普通の小動物のようだ。


 そんな様子は彼女たちの気持ちを和らげた。呼べばこちらに来てくれるし、ご飯である木の実も美味しそうに食べる妖精は至ってマイペースだ。そんなある日、アルトが出発してから3日後の夕刻過ぎである。


 食事を終え部屋でアルトの帰りを待つ二人と一匹。リリーがチッチを撫でていると不意にチッチが顔を上げ尻尾を逆立てて東の方向を見る。怯えている様子ではないが、何かを感じ取ったのだろうか。その様子を見て一抹の不安が過ぎる。


「チッチ?どうしたの?アルトを感じるの?」

「この方向、砦の方角です。もしやアルトさんの身に何かが」

 そんな二人の様子に反応せずしてずっと東の方角を見つめ続けているチッチ。


 暫くするとそれも収まり、リリーを見上げ可愛らしい声で鳴く。それはまるで心配ないとでも言っているようだった。

「良く解らないけど、この子の様子はまるで大丈夫だって言ってるみたい」

 そう言ってチッチを抱き上げシズクに渡すと同じようにシズクの顔を真っ直ぐ見つめ可愛らしい声で鳴く。


「そうですね。不思議と私もそう思えます。悪戯の妖精とも言われますが、この子とアルトさんは強く繋がった絆のような物すら感じます」

「妖精がそう感じているなら問題ないって事だと思いましょう」

「はい、チッチのお陰で気が楽になりました」

 そう言いながらシズクに撫でられるチッチは、気持ちよさそうにシズクの元で身体を丸めていた。




 同時刻、王城内は慌ただしく動く。戦況の報告を逐次受けていたマリアンナ12世はゴーレムの圧倒的な力を知るや、その対応に思案を始める。この窮地を脱するためにシルヴィアに頼るべきか考え始めたのだ。そしてある事に気付いた。


「誰か!今回募った傭兵団の名簿はすぐ確認できますか?」

「ハッ!確認してまいります!」

「名簿にアルトという名前が一覧にあるか、確認を急いでください!」

 そう指示する。アルトがもし戦場に向かっていたらシルヴィアを呼ぶ必然性が出てくる。こんな所でアルトを失うわけにはいかないのだ。


「女王陛下、申し上げます。先ほど仰っていたアルトという人物、傭兵団として参加している事が確認できました」

「何てことなの…私は急ぎ賢者様へ助力を申し出ます」

「承知しました」

 嫌な予感が当たってしまった。急ぎ『風の便り』を起動し強いマナを込め至急の案件を精霊に伝えてもらうよう願いを託す。待つこと一時間ほど、金色の戦乙女の姿がマリアンナ12世の前に姿を現す。


「これがシルヴィア様のヴァルキリア、なんて美しい」

 そう呟いてしまうほど、その姿は美しかった。


「マリー、支給の案件とは穏やかではないな。何事だ」

「シルヴィア様、帝国から宣戦布告を受け、現在東の砦で防衛戦を行っております」

「神の仕業か、帝国の奴らがとうとう動き出したのだな。状況は不利なのか?」

「それもあります。帝国の新兵器に圧倒されているとの報が入っております。そしてその戦場に傭兵としてアルトが向かったようなのです」

「アルトが戦場に向かっただと!?」

「はい。協力者としてギルドに傭兵団の募集を掛けたのですが、どうやらそれを見ての事かと」

「今アイツの存在を知られるわけにはいかない。マリー、私も戦場へ向かうぞ!」

「お願い致します。どうかご武運を」

 そう言うや否や、再びヴァルキリアへと姿を変えたシルヴィアは東の砦へと飛翔する。




 その一方で諜報部の一部はルカスの動向に注視していた。宣戦布告からの彼の言動と行動は明らかにこれまでと違った。女王に降伏を進言し、これを却下されるや執務に戻る。そして戦争が始まると自身の屋敷で何やら動いているようだった。


 担当の諜報部隊2名の内、1名が魔法を駆使し屋敷内に潜入。ルカスの居場所を突き止め『ウィスパーアンプリファイ』を使い中の様子を探る。どうやら妻と話をしているようだ。

「あなた、帝国が王都へ到着するのはもう数日、私たちの安全は保障されているのでしょうね?」

「問題ない、既に手は打ってある。我々の安全と地位は約束されている。それにゴーレムが止められる事は万が一にもあり得ん」

「それならばよいのですが」


 会話の内容から察するに、帝国との密約とその確認を行っているようだ。とうとう尻尾を掴んだと確信し、ドアを開け中に入る諜報員。


「無礼な!何者です!」

 そう憤る夫人をよそにルカスは顔を青くしていた。

「お前は、まさか王国諜報部の…」

「はい、その通りです。我々がここに居る意味ご理解されていますね、ハイランド伯爵」

「何を言っている、私に何もやましい事など」

 ルカスはこの期に及んで白を切るつもりのようだが言葉を遮り諜報員は言う。


「私達は火と風の魔法のエキスパートでしてね、その中にどんな囁き声も逃さず聴き取る魔法があるのですよ。もちろん、先ほどのあなた方の会話もこの耳でしっかりと確認しております」

「バカな、そんな魔法聞いた事ないぞ!」

「弁解は後で聞きましょう。我々の実力はよくご存じかと。大人しく同行して頂けますね」

 そう言うや否や窓を突き破りもう一名もその場に現れる。


「おのれ…あの女狐めが」

「その言葉も陛下にお伝えしましょう。逃げようなんて思わない事です。おい、ルカス・ハイランドを拘束しろ」

 窓から入ってきた諜報員にそう命令すると、彼は夫人を押しのけルカスを拘束した。抵抗らしい動作を見せたがあっさりと捉えられてしまうルカス。諜報部隊本部へとルカスは連行されていった。




 東の砦に急行するシルヴィア。空から見る砦には今のところ被害はないように見える。が、向かっている途中でアルトの物と思われる強大なマナを感知していた。何か起こっている事を知ると同時にまだ生きていた事に安堵しつつ、急いで戦場へと向かう。


 そして彼女は上空から見ていた。アルトと同じマナを持つ白銀の竜人が帝国兵とゴーレムを次々と撃退し、蹂躙していく様を。そしてあの人の身で到底成しえない強大な一撃が砦を破壊し、周囲に甚大な被害を与え空へと消えていくのを。


「この様子では万一つでも目撃者は残らないだろうな。ならば私が取るべき行動は一つだ」

 そう言って崩壊した帝国の砦へと向かうシルヴィア。そして砦の隣接する街の被害状況を確認し、帝都へと向かう。空戦の概念が無い世界だ。空からの脅威に対し何ら防衛策などない。あっさり帝都へ侵入したシルヴィアは皇帝が居ると思われる居城へと向かった。そしてマナを込めた声で宣言する。


「先ほど、貴様たち帝国の侵攻を私がこの手で打ち砕いた。貴様たちの玩具など私にとっては玩具に等しい。砦と隣接する街も相応の被害を与えた。これは一方的な侵略行為への報復である。今後同じことを繰り返すならば、このエルフの里の番人シルヴィアと里のエルフの戦士たちが帝国の歴史に終止符を打つだろう!」

 そう宣言した後、帝城に隣接する塔を雷で破壊してみせるシルヴィア。軽く加減はしてやったが。そしてそのまま王国へと帰還した。




 王国へ戻る途中、渓谷を抜けるとアルトの放った一撃の余波で帝国側の砦にほど近い部分が崖崩れを起こしており、王国と帝国を繋ぐ唯一の手段は途絶えていた。これは好都合だ。そして東の砦へと向かい。アルトを保護。いち早く王城へと連れ帰ったのであった。

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