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アーリア物語 ~神と白竜と私(勇者)~  作者: いちこ
第1章 クリフト王国の日々
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第1章33幕 覚醒の咆哮

 アルト達は王国兵の撤退を援護する為に帝国側の砦方面へと進軍していた。そして撤退してきた王国兵と接近するとエリクが軍旗を掲げ宣言する。


「我々は王国の傭兵団だ!王国守備軍の撤退を援護する!急いで砦へ撤退してくれ!」

 その声を合図にアルトはゴーレムを眼前へと跳んだ。ゴーレムはアルトに反応しハルバードを振り下ろそうとする。勢いが付く前に止めるべく瞬時にハルバードの刃の部分へ多重防護フィールドを展開しこれを防ぐと、続けて腹部へと近づき可能な限り広範囲にフィールドを展開した。


 これによってゴーレムの前身は止まる。その隙にゴーレムの足元から王国軍が次々と抜け出してきた。(よしこれなら!)とゴーレムを制止するフィールドは残して足止めを試みるアルト。その場所を絶妙に変えながらもゴーレムが振り払おうとする手を上手く躱し、撤退の援護に努めた。


 多くの王国兵が足元を脱出してくる中に帝国兵が混じり始め、王国兵が逃げるその背中を切る。(これが帝国のやり方かよ!)と思いつつも自分がゴーレムを足止めしなければ再び蹂躙が始まる。王国兵の援護は傭兵団に任せるしかないと心に言い聞かせ、巧みに空中を移動しながら腹部や胸部とフィールドの位置を変え前進を防ぐ。


 王国兵の撤退がほぼ完了したのか、足元の隙間から出てくるものが居なくなったことを確認したアルトは今度は傭兵団の撤退準備だと後ろを見る。傭兵団もそのような動きを見せ始め、帝国兵はアルトに注意を向け始めていた。その瞬間だった。ゴーレムは後ろに下がり、アルト目掛けてハルバードを振り下ろそうとしていた。


(しまった!これでは傭兵団に被害が出る!)

防ぐしかないタイミングと判断したアルトは覚悟を決め可能な限り遠くに弾力性の高い耐衝撃フィールドを、自分の1m手前と50cm手前、腕に多重装甲のフィールドを展開し防ぐことを試みる。耐衝撃フィールドをいとも簡単に破ったハルバードはアルトの刃ったフィールドを尽く破壊した。しかし、その甲斐あってか直撃する事はなく、横後方に吹き飛ばされただけで済んだのは不幸中の幸いだった。


 しかしその勢いはすさまじく、渓谷の壁面へと叩きつけられ、地面へと降りざるを得ない程の痛みが走る。そして眼前に広がる光景を見たアルトは絶句した。傭兵団の前衛に一部被害が出ていたのだ。そしてアルトは見た。ハンスが撤退をしようとした隙を見せた瞬間、笑いながらでハンスの背中を深々と切る帝国兵の顔を。


「…ハンス?」

 そう呟くと勢いよくハンスに近づき、その兵士を殴り飛ばす。そしてハンス抱き抱える。

「おいハンス!大丈夫か!?」

 しかしハンスは反応しない。その目に既に生気は無かった。遠くでアウロラの声が聴こえる気がする。だが、アルトの脳裏にはこれまで見せたハンスの笑顔で埋め尽くされていた。


(うちの下の子がな、この前立って歩いたんだよ!)

(上の娘も可愛くってなぁ。もう絶対嫁になんかやらん!アルト、お前でも許さんからな!)

(うちの嫁は王国一、いや世界一の別嬪よ!料理もうめぇんだぜ!)

(冒険者なんて危険な仕事もよ、金貯めて店を出す為にやってんだ。そしたら平和に暮らせんだろ?)

(アルトよぉ、お前もいつか良い嫁さん見つけて、平和に暮らすのが一番いいぜ!うちの娘はやらんがな!ハッハッハ!)


「おい、ハンス、ウソだろおい!返事してくれよ、家族と平和に暮らすんだろ!?なんで黙ってるんだよ!!」

 しかしすでにハンスの魂は星へと帰っていた。返事など出来ようもない。


 直後、辺りに白銀のマナの粒子が輝きだす。その光はアルトを中心に発せられており、次第に直視できない程の強さになったかと思うとアルトの声にならない叫びと共に爆発的に広がっていく。その様子を見て誰もが動きを止めた。ゴーレムさえも制御が失われているようだ。


 そして徐々に輝きが治まると同時に白銀のマナが収束していく。そこにはハンス抱き、翼を広げた人の形をした白銀の竜の姿があった。そっとハンスを降ろし、白銀の竜人は軽く羽ばたき地面から飛翔する。


 そして白銀の竜人は咆哮した。それは聞いた者の心に直接響くものだった。王国兵には自分たちを守り切れなかったという悲しみと謝罪が、帝国兵には絶対に生きて帰さないという怒りと殺意が込められていた。ゴーレムも先ほどから動きを止めたままだ。


「あれは…アルト、なの?」

 アウロラの撤退命令でエリクとヨハンは無事に下がっていた。仲間の死を目前にしながらも、今悲しんで止まれば皆が危なくなる、そう言い聞かせ必死に抵抗して後方まで辿り着いたのだ。


「解らない、クソ!一体何が何だってんだ!この戦場は!」

「アルト!聞こえる?返事をして!戻りなさい!!」

 しかし白銀の竜人にはアウロラの声も届いていないようだ。


 次の瞬間、白銀の竜人は先頭のゴーレムへ向かって飛ぶ。そしてその足先を掴むと徐に翼を羽ばたかせ上昇し始める。信じられない事にゴーレムを持ち上げたのだ。そしてそのまま勢いよく地面に叩きつける。帝国兵も巻き込む形で押しつぶされた。その手にはゴーレムの足が千切れて握られたままだった。


「なんだ、あれは?あの巨体を持ち上げて叩きつけやがった」

 エリクがそう呟く。しかし呆けている場合じゃない。今は一人でも多くの命を助ける事が先決だ。もうアウロラもヨハンも、ギルドの仲間たちも誰も失うわけにはいかない。

「アウロラ、アルトは諦める。今のあいつは正気とは思えない。撤退の指示を」

「エリク、でも!」

「ハンスが死んだ!これ以上誰も死なせたくねぇ!…頼む」

「ごめん、分かったわ。傭兵団、総員撤退!!これ以上の戦闘は無意味よ!一人でも多く生き残って砦で会いましょう!」

(お願いアルト、無事で戻って!)アウロラはそう心の中で願いながらも撤退していった。




 白銀の竜人は怒りと殺意の化身だった。それは帝国兵にとって恐怖が具現化したようなものだ。今まで圧倒的な強さを見せていたゴーレムが、目の前で玩具の様に放り投げられたのだ。そして竜人はその手足を尽く潰し、その千切った手足をを後方へと投げていく。その度に帝国兵が巻き込まれ命を散らしていった。


「王国にも新兵器が?」

「聞いてないぞあんなの!化け物じゃないか!」

「撤退だ、ゴーレムも下がらせろ!アレには金が掛かってるんだ!」

 混乱する帝国兵の後方でそんな声が上がっていた。指揮官だろう男が撤退の準備に入る。


 しかし白銀の竜人はその勢いを増すばかりだ。全力で撤退する帝国兵たちに向かいゴーレムの残骸を投げつける。そして2体目のゴーレムも遂にその姿を消した。次々と自慢の兵器が無残な姿に変えられていく、その様に恐慌状態に陥る帝国兵たち。


 そんな彼らに対し白銀の竜人は無慈悲だった。次のゴーレムへと向かう間に帝国兵を見つけると例外なくこれをその爪で、尾で吹き飛ばしていった。その力はすさまじく当たれば体が爆発したように四散する。その威力を目の当たりに一層の恐怖を覚える兵士の中には呆然と立ち尽くすものもいた。そんな兵でさえも、白銀の竜人は手にかけていく。


 目前の尽くを殲滅しながら3体目、4体目、5体目と次々と残骸に変えていく白銀の竜人。帝国兵はもはや残り100名ほどしか残っていなかった。だがここまで全力で逃げてきたのだ。砦まで辿り着けば何とか、そう思った矢先だった。


 ふと後ろを確認すると最後のゴーレムが白銀のマナに包まれ、その姿が次第に変化していくのが見えた。直感的に危険を察知した指揮官は全力で撤退を続けるように指示を出す。後ろを振り返らず、わき目も降らず撤退せよと。


 白銀の竜人はゴレームを巨大な杭へと変貌させていく。そして帝国側の砦をその目に捉えると、その手を砦へと向ける。白銀のマナによって形成された杭は、空気の壁を破る音を響かせて飛翔する。それは王国側の砦からも小さくではあるが確認できた。そしてしばらくしてから破裂音が砦を震わせる。王国兵は狼狽えたが、それは帝国の脅威であって自分達に向けられたものでないと、皆どこか確信のような安心感を感じていた。あの咆哮を聞いていたからである。


 一方帝国側はその杭によって壊滅的な打撃を受けた。残った兵は地表近くで音速を遥かに超える巨大な杭の衝撃波によって誰一人として姿を残さず消えた。そしてそのまま砦を半壊させた杭は帝国側の砦に甚大な被害をもたらし、隣接する街にも大きな被害を出しながら、光の筋となって上空へ消えていった。




 それから数分後、白銀の竜人はハンスの遺体を抱え王国側の砦へと飛翔してきた。着地すると同時にハンスをそっと地面へ降ろす。そしてその姿は淡く白い光を放って消え、元のアルトの姿になった。その顛末を見ていた風結の誓約のメンバーはアルトの元へ駆け寄る。アルトは駆け寄った彼らを見て涙を流して言った。「ハンス、ごめん」と。


 そしてその言葉と同時に彼はその場に倒れ意識を失ったのだった。

暴走したアルトのイメージです。

DALL-E3で描いたのですが力量不足でロボットみが残ってしまいました(´・ω・`)

挿絵(By みてみん)

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