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アーリア物語 ~神と白竜と私(勇者)~  作者: いちこ
第1章 クリフト王国の日々
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第1章27幕 暗殺者ギルド(2)

 暗殺者から聞いたギルドの拠点は街の南側の城壁にほど近い目立たない場所にだった。倉庫などが立ち並び、人気も少ない場所だ。記憶の断片から、こういうものの定番は倉庫街という役に立つのか立たないのか分からない知識が脳裏をよぎる。


 指定された建物は2階建てのごく普通の建物だ。通路を挟んで反対側の倉庫の屋根から様子を伺う。2階には明かりがついている。こんな夜中に起きているのか、暗殺者稼業も楽じゃないんだな。そんな事を考えどう行動するか思案するアルト。


(面倒なのは抜き、暴れて全員排除すればいいか)そんな物騒な思考で通路へと降り立ち、入り口のドアをノックした。すると中から声がする。

「合言葉は?」

「知らないね」

 素直に答えるアルトはドアを蹴り飛ばそうとするが、意外な事に鍵の外れる音がした。ドアが放られる様を呆気に取られてみながら(そんな合言葉で良いのか?)と心の中でツッコミを入れる。


「今日の仕事に出てる奴は二人だったはずだが、もう一人はどうした」

「やられたよ、こんな風に」

 そう言ってアルトは剣を抜きドアを開けた男の胴を真っ二つにする。途端にざわめく屋内。

「こんばんわ、本日の暗殺対象です。暗殺者ギルドと聞いてやってきました。大人しく依頼者の情報を渡すか死ぬか選んでください」

 そう言って除けたアルトは事も無げに中の者たちを次々と一刀で切り伏せていく。二階からも加勢がやってくるが、どの相手も碌な腕もない。冒険者ならとっくに死んでるだろうな、そう考えながら次々と襲い掛かってくる暗殺者ギルドの面々を始末していく。


 一通り気配をたどり、一階と二階の様子を見て回る。特に変わった様子はなく人気もない。棚や机など書類らしきものはない。情報らしきものはここにはなさそうだ。しかしここだけじゃない、地下からまだ気配を感じるのだ。


(本命はそっちか)そう考え入り口を探すも見つからない。ならばとしゃがみ込み、全力で床を殴る。轟音を立てて床が飛び散るが、まだ地下室は見つからない。空間は確実にある様なので何度も殴りつけると、厚さ1mほどの天井だったようで、ようやく地下室の内部へ侵入する穴が出来た。


 マナの盾を形成し飛び込むと案の定、四方から攻撃が来る。(まるでゴブリンでも相手にしているみたいだ)そんな事を考えながら、攻撃を弾かれ狼狽える敵を円状に切り裂く。その姿を見て地下に居た者たちは恐怖したのか、次々に奥へと消えていく。


 急ぎ追いかけると鉄の扉がガシャンと締まる音が聞こえ、通路の奥は扉で塞がれた。お構いなしに扉を蹴り飛ばすと、蝶番が外れ無残にも扉は倒れてしまう。総勢15名ほどといったところか、比較的大きな部屋で最奥部らしい。


「あんた達が暗殺者ギルドの幹部で良いのかな?」

 問いかけに怒声と刃で応える暗殺者たちを尽く切り伏せる。次々と絶命していくその様を見てひと際目立っている格好をした男がしゃべり始めた。


「ま、待て、待ってくれ!要求はなんだ?目的は?どこでここを知った?」

「本日の暗殺対象のアルトです。初めまして。」

「暗殺対象って、ガキ一人の…お前が?一人で?」

「そうだよ。寝てる所をダガーで小突かれてね。頭に来たから潰してやろうと思って」

 そう冗談を言うアルトだったがとても冗談に聞こえる状態ではないようだ。


「それだけか?お前それだけで、こんな」

「命を狙われたんだ、そっちだって覚悟あるんだよね。強く賢い方が残る。そういう事でしょ?」

「く、狂ってやがる」

「暗殺家業に身を染めた人間には言われたくないな、それ。で、依頼者は誰?」

「ここまでやられて黙ってられるか!こっちも流儀ってもんがあるんでな」

 首魁と思われる男はそう言ってシミターを抜き、マナを込め始めた。


「つまり、戦って死ぬって事ね。じゃあ後から証拠になりそうなもの探すからいいや」

「なめっ!」

 その言葉を最後に、一瞬で間合いを詰めたアルトは首魁と思われた男の首を撥ねた。その様子を見て残党は戦意喪失しているようだ。だが暗殺を生業とする人間を生かしておくわけにはいかない。この中からまたリリー達を狙う輩が現れても困るからだ。入り口は既にマナの盾で封じてある。アルトは淡々と敵を殲滅していった。




「さて、何か証拠になりそうなものはと…」

 机や本棚を漁っていると、何やら見覚えのある封蝋の印がある手紙を見つける。ハイランド伯爵家のものだ。

「これで確定、か。レオニスが心配だな」

 来た道を戻り一階へと上がる。床下の隠し階段の入り口を開け、外に出ると空が白んでいた。

「とんだ夜だったなぁ。明日は授業を休ませてもらってヴィクターさんに報告に行くこう」


 アルトはまた目立たぬように天井伝いに学園へと戻っていった。




 翌朝、アルトは学校側に事情を説明し、暗殺者ギルドの拠点の報告と事の顛末をヴィクターに報告する旨を伝えた。そしてこの事はまだ他言しないで欲しいという事も伝えておく。事は王国の統治に関わる問題にも発展しかねない。なによりレオニスを案じての事だ。


 学校側は了承するも、事の顛末をヴィクターに報告し一件が片付いたら覚悟しておくようにとアルトに伝える。やはり寮内で殺人沙汰はまずかったか?と思いつつ、自分の役目の一つが片付いたのならばそれはそれで喜ばしい事だと思うアルト。仮に退学になってしまうとしても、昨日校長から受けた話だけはやり遂げて去ろう。そんな事を考えながらブラックヴェル邸へと向かう。


 昼前に連絡もなく訪れたのでヴィクターは不在だった。待つこと数時間、部下に報告を受けたヴィクターはアルトの元へとやって来てくれた。


「アルト君、少し話は聞いた。昨日は災難だったね」

「いえ、狙われたのが私だったのは不幸中の幸いです。どうやって学園の警護を突破したのか分かりませんが、お陰で色々と収穫がありました」

 そう言ってアルトは証拠の品である一通の手紙をヴィクターに渡す。


「これは依頼内容か、なるほど。やはりあの男が裏で動いていたとはね」

「物証はありませんが、リリー様達を狙った犯行もどうやら暗殺者ギルドの仕業のようですね」

「奴らがそう語ったと?」

「いえ、昨日襲撃してきた暗殺者の一人から聞きました。間接的ではありますが」

 ヴィクターは思案する。


「兎も角、お手柄だ!アルト君。暗殺者ギルドの拠点についての調査は私を含む騎士団で行おう」

「お願い致します。私はこれから学校側から事情説明を求められているので、これで失礼してもよろしいですか?」

「大丈夫だ。ありがとう。情報はまた追って共有させてもらおう」

「分かりました。では失礼します」




 ブラックヴェル邸で報告を終え、そのまま学校へ戻ったアルトは一通り落ち着いた事を伝え、沙汰を待つこととした。そういえば、散乱し汚してしまった部屋を片付かなければと思い出し、一気にけだるくなった体で肩を落とし自室へ戻る。中に入ると、驚いた事に奇麗に室内が整っていた。チッチもベッドの上で待ってくれいていたのだろう。丸くなって寝ている。


 ベッドに腰掛け、一息つくとっチッチが起きて肩に乗る。

「昨日はお前も大変だったな。お疲れ様」

 そう言って今や相棒となったチッチを撫でるアルト。


 暫く待っているとドアをノックする音の後、「失礼するよ」担任のロッツ・ポーリーが入ってきた。

「昨日はご迷惑をお掛けしました」

「うん、まずは経緯を聞こう」

 そう語るロッツに事の顛末を話す。語った内容は暗殺者の侵入、元より狙われてるリリーの話、そして入学の経緯として警護も含んでいたという事、これ以上生徒に被害が出ないよう早急に対処する必要があると判断した事だ。事の顛末を聞き終わるとロッツは言った。


「はぁ…事情は概ね理解した。アルト君、君の行った事について、どの部分が問題だと考えているかい?」

「寮内での殺傷行為でしょうか?」

「違う!まず君はまだ子供で我が校の生徒だ。君がどれだけ強かろうが関係ない。たとえ無敵の存在だとしてもまずは我々の判断を仰ぐ事!」

「え?では殺傷行為については…」

「それも問題といえば問題だが、この場合は仕方がない。私は独断先行で動いた事を問題視している」

「それは、申し訳ありません」

「成人し、然るべき権限が与えられたものがそれを行使するなら問題はない。だが君はそうではない。冒険者でもあるかもしれんが、冒険者だからといって組織一つを独断で壊滅させていいわけでもないだろう?」

「それは、確かにおっしゃる通りです」

 ロッツは頷き続ける。


「今回は幸い事が公になる前に終わったので知るものは殆どいない。こちら側で対処する。しかし!」

 ロッツは語気を強めてこういった。

「今後は必ず学校側の指示に従う事!これは最優先事項だ!次にこれを破った場合は覚悟する事、いいね!」

 アルトは呆気に取られていた。なにがしかの罰が待っていると思ったからだ。


「返事は!?」

「はい!承知しました!」

「よろしい。では今日はもう休みなさい。それから例の男の件だが、騎士団に身柄を引き渡した。安心したまえ」

「ご迷惑をおかけしました、ありがとうございます」

 アルトは心を込めて謝罪する。ロッツはそんなアルトを見て頭を撫でる。

「生徒を守るのも我々の務めだ。今回は警備の隙を突かれたのか侵入を許してしまった事は、我々も申し訳ないと思っている」

「内部に協力者がいたのかもしれません」

「そう疑心暗鬼にならなくてもいい。我々も調査を進めるさ。寮の警備体制も再検討しよう。私たちを信用してくれたまえ」

「はい!」

 アルトの元気な答えに満足げに頷くとロッツは部屋を後にした。


「はぁ、長い1日だったね。水浴びして寝ようか、チッチ」

 そう相棒に声をかけ、寝支度を整えると泥のように眠るアルトだった。

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