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アーリア物語 ~神と白竜と私(勇者)~  作者: いちこ
第1章 クリフト王国の日々
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第1章26幕 暗殺者ギルド(1)

 神歴1591年9月、長期休暇を終え寮での日常に戻ったアルト達。そんなある日の事である。アルトは放課後に校長に呼ばれ校長室へと足を運んでいた。あまり面識もない校長に呼び出されるなど、一体どんな話をされるのだろうか。一息ついてドアをノックする。


「ハーコン校長、アルトです」

「待っていたよ、入りたまえ」

「失礼します」

 中に入ると窓際の大きな机を挟み校長が椅子に腰を掛けてこちらを見ている。


「突然呼びつけてすまないね、少し相談したい事があってね」

「相談ですか、どのようなものでしょう?」

「うん、今年度の新入生は非常に伸びが良い。聞けばAクラスは君やレオニス君、リリー君とシズク君を筆頭に既存の強化魔法と違うより効率的なものを習得し、それを可能な限り長く使うなどのこれまでにない発想を幾つも取り入れているそうじゃないか」

「はい。レオニスが私から強化魔法を教えて欲しいと言われ、その後リリーとシズクと一緒にこれまで培ってきた経験を共有しています」

「それが学年全員に伝わり、全体の伸びも良くなっているのは知っているかね?」

「そうなんですか?それは知りませんでした」

 長く蓄えた髭を撫でながらウンウンとうなづくハーコンは続ける。


「そこで、だ。君さえよければ可能な限りその術を開示してくれないか?という頼みなんだよ」

「なるほど、私の考案したものや経験が役に立つのであれば助力は惜しみません」

「それは助かるね。では担任のロッツ君に情報を提供してくれ。彼が纏め全体に行き渡るように編纂しよう」

「分かりました。ロッツ先生の方から声をかけてくれるという事でよろしいですか?」

「ああ、そうさせるつもりだ。宜しく頼むよ」

 ハーコンは笑顔でそう答える。

「分かりました。失礼します」

 アルトも笑顔で挨拶をし退出をした。



 寮の自室に戻りチッチと戯れつつ自分の経験が役に立つ喜びに頬を緩めるアルト。これまでもクラスの仲間と研鑽を積むのが新鮮で楽しかったが、今後その知識が受け継がれていく事でもっと沢山の人々の役に立つ。それは喜ばしい事だ。それにこの知識は精霊を敬う事も重要である。その思想が広まるのはアルトにとって望むべきものであった。


 喜びと共に寝支度を終えベッドで眠りにつくアルト。チッチも枕の側で寝息を立てている。そこへ数時間後、とある影が忍び込もうとしていた。


 深夜月が頂上より傾きかけた頃、月明かりの中で動く二つの影。通常であれば結界で守られている寮の中に入れないはずだが、どうやってかこの者たちは侵入に成功したらしい。万が一に備え侵入を知らせる音魔法の装置も作動していない。


 侵入者たちはアルトの居室へ向かって迷うことなく進み、窓から物音を一切立てずに室内に侵入する。ベッドに眠るアルトの姿を確認すると、迷うことなく短剣を力強く振り下ろした。


 短剣は乾いた金属音と共に弾かれる。それと共にチッチが飛び起き部屋の中で騒ぎ出す。慌てる侵入者達を尻目にチッチは壁を天所を自由に跳ね、時には自分を捕まえられない侵入者をあざ笑うかのように踏みつける。さすがは悪戯の妖精である。


 一人はチッチを、もう一人はアルトの殺害を試みるも何度刃を突き立てようと皮膚に傷さえつかない。そしてとうとうアルトは目を覚まし、その刃を鷲掴みにする。

「なんだお前?こんな硬化魔法の強さで切り付けても傷がつけられるわけないだろ」

 気持ちよく寝ていたところを襲われ不機嫌な声でアルトがそう言うと、そのまま刃を握り砕いた。狼狽える侵入者の頭を起き抜けに掴み、力を籠める。


「何者?なんて聞いても答えてくれないよね。もう一人に聞こうか」

 そう言うとチッチを相手にしていたもう一人の侵入者がこちらを向くのを確認し、男の頭をもう片方の拳で挟み潰す。その様を見て一層狼狽する侵入者。とても12歳の少年とは思えないその力と、平然と人を殺す冷酷さに恐れているようだ。


「さて、どうして欲しい?お仲間のようになりた…あ」

 話しかけるや否や窓へと走り出す侵入者。しかしアルトはマナの盾を展開し窓からの打出を許さない。勢いよくぶつかった侵入者を挟むように自身の前にマナの盾を展開する。侵入者はマナの盾に挟まれ身動きさえできない程に圧迫される。


「落ち着いて話が出来るようになったね。じゃあ目的は俺の暗殺だとして、誰の指示でどなたさんなのかな?」

 アルトは表情を変えず問いかける。しかし侵入者は喋らない。

「もうちょっと潰されてみる?このままだと君もペチャンコになるけど」

 そう言うと一歩前進しながらマナの盾を前に出す。一層締め付けられる侵入者。死を目前にしてもなおも喋らないとは恐れ入る、内心そんな事を考えながらもアルトはアプローチを変えてみようと試みる。


「ひょっとして喋ったら裏切り者は殺されちゃうのかな?もしそうなら心配は要らないよ。俺の力は見たでしょ。君が答えてくれるなら君だけは見逃してあげても良い。その代わり君の所属する組織の事を教えて欲しい。全員始末してあげるから」

 男は潰されながらもアルトを見る。見た目は普通の少年が、恐ろしい事を淡々と告げる。それはまるで子供の姿をした悪魔でも相手にしているように感じたのだろう。そして観念したのかコクリコクリと頷く。


 それを見てアルトはマナの盾を一つ解除した。その場に崩れ落ちる侵入者。息は荒く咳き込んでいる。よほど苦しかったのだろう、同情はしないが。


「さて、じゃあ知ってること全部話して」

 そう促しベットに腰掛けるアルト。男は淡々と語り出した。


 男は暗殺者ギルドのメンバーであり、目的はアルトの暗殺であった事、依頼者は不明で上からの指示で動いた事、ギルドの本拠地の場所などを詳細に話した。リリー達を襲った件については、そんな話を仲間がしているのを聞いたと語る。そしてその仲間は戻らなかったとも。


 大よその話を聞き終えると、アルトは男に向かってこう言った。

「君の安全は保障してあげるよ。なに、学校から国の方に引き渡してくれるだろうさ」

「てめぇ!騙しやがったな!」

 そう言った暗殺者を適度な力で殴り飛ばすと、暗殺者はその場に転がり気絶したようだ。騒ぎを聞きつけ当直の教師がやってきた。アルトは事の経緯を説明すると、身支度を整える。


「アルト君、何をしようというのだ」

「いえ、そいつから聞き出した話で敵の拠点が分かりましたので。これから潰してきます」

「君一人でか!?危険すぎる!」

「大丈夫です。暗殺がメインの輩のようですので大した実力もないでしょう。寝ている俺を殺せないくらいですから。何より俺と仲間たちの安寧を脅かす存在は放っておけません。早々に対処しなければ」

「しかし…」

「では先生、ちょっとそいつのマントを拝借しますね。もう一人のは血が付いてとてもじゃないですが着る気にならないので」

 そう言うと暗殺者のマントを羽織り、アルトは夜の街へと飛び出していった。


「アルト君、君はこの死体を私に片付けろと言うのかね」

 残された教師は近場のロープで暗殺者を縛りつつ、青い顔で無残に散った暗殺者の死体を見てため息をついた。

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