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アーリア物語 ~神と白竜と私(勇者)~  作者: いちこ
第1章 クリフト王国の日々
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第1章24幕 挑戦と希望と

 アルト達はシルヴィアの元を訪れ、充実した訓練の日々を送っていた。アルトは精霊っ魔法を駆使した本来のシルヴィアの戦闘スタイルに、リリー・シズク・レオニスは槍術のみを用いたシルヴィアとの戦闘を基本にその腕を見くべく挑戦を続ける。


 シルヴィアは厳しくも個々の適性に合わせ適切なアドバイスを行い、その実力を引き出すヒントを可能な限り与えようとしていた。ただ、アルトに対しては全力で叩きのめすスタイルだ。この上、戦闘に特化したヴァルキュリアという特殊戦闘形態を持っているというのだ。生ける伝説といわれるのも納得だ。そうアルトは改めてシルヴィアの強さを痛感していた。




「精霊魔法ってあんなに強力なのに無詠唱で即座に出せるなんて…アルトはよく生きてるわよね」

 休憩しつつリリーは精霊魔法の強さを目の当たりにしてそう語る。

「あんな相手は大陸でエルフ以外にそうはいないと思うけどね、本当に厄介だ。精霊の動きにまで注意を払っても、実際何処から何が飛んで来るか反応しきれないよ」

 アルトの反応速度をもってしても予測が難しい、それが精霊魔法なのだ。その上、シルヴィアは精霊魔法を時には小規模で隙を作る為に、時には大規模な高威力なものをと自由自在に操る。それも全属性である。中でも風属性の不可視の攻撃を織り交ぜた連携が厄介だ。


「私たちも精霊魔法が使えたらなぁ」

 そうリリーが呟いた。精霊魔法は精霊との契約が必須だ。その繋がりが常にあるからこそ、戦闘状態に入れば精霊も共に手を貸す準備が整っているため、無詠唱で発動できるのである。

「シズクは火属性に限ってなら似たような事できるよね?」

「そうですね、あくまでおきつね様をお呼びしてからになりますが、詠唱なくその力をお借りする事は可能です」

「守護精霊を呼び出せば使える…か」

 アルトは何やら考え始めた。


「あのさ、皆が使う魔法の詠唱文を地面に書いてもらっても良い?」

「ああ、こんな感じだ」

 そう言ってレオニスが地面に文字を書いていく。それを見て再び思案するアルト。

「どうしたの?詠唱文をまた変える?変えた所で即座に発動なんて出来ないわよ」

 肩をすくめるリリーだったが、アルトはしばらく考え込んだ後こう言った。

「これはあくまで可能性の話なんだけど…」


 アルトの考えはこうだ。魔法には幾つかのプロセスがある。まずイメージを固める、そして精霊にそれを伝える、必要なマナを精霊に渡す、そのマナを使って精霊が魔法を実現する。この順番を守る限り魔法の発動はどんなに工夫しても一定以上は早くならない。


 ならばいっそ発動プロセスそのものを変えてみるアプローチはどうだろうか?まずマナを使い自分に合った精霊に助力を乞う。精霊はマナを受け取り続け待機する。そして術者が任意のタイミングでイメージを伝える。精霊はそのイメージの具現化に必要なマナを術者から引き出し魔法を発動する。


 簡単に言ってしまえば魔法を使う為に常に精霊に側にいてもらう代わりにマナを提供し続け、任意のタイミングで魔法を早く発動するという方法だ。


「それって莫大なマナが必要なんじゃないかしら?」

 リリーは思案するも、もしそんな事が可能ならと前のめりだ。

「うん、その場の環境の問題もあると思うし、精霊がエルフ以外の人種にマナを差し出してもそう協力してくれるかは解らない」

「だがもしそれが実現できるなら、シルヴィア様ほどとはいかなくても俺たちも自在に魔法を発動できるかもしれん」

 レオニスも実現できた場合の可能性の広がりに期待している。


『ねぇみんな、ちょっと聞いても良いかな』

 アルトは精霊語で周りの精霊たちに語りかける。

『何だ、申してみよ』『何が知りたい』『お前さんの話は興味深い』

 精霊たちはアルトの問いに集まってきた。

『この3人がマナを捧げる代わりに、戦っている間は常に協力をするように付いていく事は出来る?』

『可能だな』『相応のマナは貰うがな』『契約ではなくか、興味深い。続けよ』

『それでね、付いている間に人族が使う魔法のイメージを直接読み取ったらその魔法に必要なマナを引き出してもらって、魔法を実現してもらうのは出来る?』

『ふむ、我々が理解できる言語を使用するのであれば可能じゃな』『精霊とは全く異なる人族にそれを行うのは対価のマナも大きいぞ』『我々に近い存在のエルフでさえ言語でイメージを固める、イメージを読み取るというのは難しいの』

『じゃあ俺みたいに精霊語を話せる人族ならそれが出来るんだね』

『そうじゃな、お前さんは無理だが』『その3人は我らに畏敬の念を抱いていると見える。その者達なら協力するのもやぶさかではない』『特に狐の娘ならば容易じゃろう、何やら我らと似た気配も感じるしの』

『お話しを聞かせてくれてありがとう、みんな!』

『なに、お前さんは特殊な存在じゃ』『人族であって人族の枠から外れておる者よ、我らはいつもお主の側におるぞ』『お前のマナは懐かしさを感じる心地よいものだ、また何かあれば我らと語らうがよい』

 精霊たちはあるべきところへと帰っていった。


「結論を言うと精霊は出来るって言ってた。精霊語の習得が必須だけどね」

「精霊語ね、シズクはある程度は習得しているのよね?」

「はい。アルトさんの様に他の精霊様とはお話できませんが、ある程度は理解できます」

「相当難しいと聞くが、その価値はあるという事か」

 リリー、シズク、レオニスは可能と聞くと検討を重ね始めた。


「ねぇアルト、私達にも精霊語を教えてくれないかしら。もっと強くなるには新しいアプローチも必要だと思うの」

「それに精霊に感謝を伝える為に覚えるだけでも覚えておいて損はないだろうな」

 レオニスは魔法の詠唱文を変えた事で精霊に対する意識に大きな変化があったようだ。

「そうですね。日頃の感謝をお伝えするのにも精霊語は適していると思います。例えお声が聞こえなくともその言葉は届くでしょう」

 シズクらしい言葉だ。守護精霊の存在がある彼女にとって他の精霊への感謝もまた同様なのだろう。精霊もその事を感じていたのかもしれない。

「そうと決まれば、これからは精霊語の習得にも励むわよ!」

「俺とシズクでサポートするよ、シズクも協力してね」

「及ばずながらサポートさせて頂きます」

「ああ、宜しく頼む」

 彼らは習得には時間が掛かるため時間をかけてこの計画を進める事で話し合いを終えた。




「3人はモンスターとの戦闘経験はあるか?」

 夕食を食べながらシルヴィアは唐突に尋ねる。

「いいえ、皆ありません、まだ成人前ですから」

 代表してリリーが答えた。

「そうか、なら経験していくといい。心配する事はない。リトル・フェンリルを3体同行させる。上手くサポートしてくれるだろう。もし危険な時は奴らに任せればよい」

 まさかの提案に手が止まる3人。


「大丈夫、リトル・フェンリル1体でも相当な強さだよ。それが3体で連携を取って守ってくれるんだ。みんなはいつも通りやれば問題ないさ」

「アルト、お前は単独だ」

「うん、お小遣い稼ぎさせてもらうよ」


 夜更けの警護に突然参加する事になった3人。その経験は今後の成長に大きい意味をもたらすだろう。そして最初こそ戸惑っていたもののその役を見事に終えた3人は疲れ果て、サッと水浴びをして寝る準備を整えると泥のように眠るのであった。

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