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アーリア物語 ~神と白竜と私(勇者)~  作者: いちこ
第1章 クリフト王国の日々
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第1章13幕 王都での日常(2)

 ブラックヴェル邸での訓練の後、アルトの提案で武器を見に行くことになったシズク。アルトはロビーでシズクを待っていた。リリーは限界まで魔法の訓練を行うと言っており、シズクと二人で出掛ける事になったのだ。


「お待たせしました、アルトさん。」

 そう言って二階から降りてきたシズクはいつもと雰囲気の違う印象のブラウンのチュニックにグリーンの羽織物を着ていた。

「いつもと少し雰囲気が違うね。訓練の時と侍女として働いている時しか見たことなかったからシズクの普段着は新鮮だ」

「似合いませんか?」

 少し不安げに尋ねるシズクにアルトは焦る。

「ううん、良く似合ってると思うよ!」

 アルトはこういうやり取りには慣れていない。ちょっと顔を背けてそう答えた。

「では行きましょう!」

 そう明るく振る舞うシズクの尻尾は嬉しそうに横に揺れる。




 貴族街から抜けアルトはシルヴィアに教えてもらった武器屋へと向かう。銀のショートソードがもし破損した場合はそこで直してもらうと良いと言われていたのだ。曰く、口も態度も悪いが腕は一級だとか。


「そういえばシズクに憑いている守護精霊は感じる事が出来るようになった?」

「まだ実際には呼び出してお話は出来なてないです。でも時折夢に奇麗な白い色の狐が現れるんです。あの狐が私の守護精霊様なのでしょうか?」

「多分その狐がそうだと思う。精霊語を覚えた方が良いのかもしれないね」

「精霊語ですか…難しいと聞きますが、守護精霊様とお話が出来るなら覚えてみたいです」

「じゃあ今度から訓練と一緒に精霊語を教えようか。確かに表現が複雑だったりするけど、言語を覚えるなら早い方が良いらしいし」

「そうなんですか?アルトさんは博識なんですね」

「そんなんじゃないよ。シルヴィアのお陰さ」

 そうアルトは誤魔化した。自分の出自の謎を話しても良いか悩んだ末の答えだ。


「でもシズクも随分長い時間、強化魔法をかけて居られるようになったね」

「はい、こうやって普通に過ごしている分にはそんなに難しくないです。流石に食器を扱ったりする時は無理ですが」

「慣れれば筋力のコントロールだけ通常レベルまで弱めるとか細かいコントロールも出来るようになるさ」

「そうかもしれませんが、そんな使い方するのってアルトさんだけだと思いますよ?」

 シズクはクスクスと笑う。


 そんな話をしながら武器屋にたどり着く。如何にもという感じの武骨な店構えだ。中に入るとやや背の低い髭が特徴的な壮年の男性が現れる。

「おや、こんな所に子供が来るとはな。ここは武器屋だが間違っては…ないようだな」

 男はアルトの腰を見てそう答えた。

「その剣、お前シルヴィアのとこの坊主か?」

「シルヴィアを知ってるんですか?これはシルヴィアが僕の為にって用意してくれた銀の剣です」

「知ってるも何も、あの高飛車エルフの事はよく知ってるよ。その剣もワシが作ったもんだ」

(高飛車エルフって、シルヴィアは普段この人にどんな態度とってるんだ?)アルトは内心そんな事を考えながら鍛冶師を見てふと気付いた。

「おじさんはドワーフ?シルヴィアは腕は確かだって言ってたけどドワーフなら納得だ」

 アルトは男の見た目から種族を予測した。そしてなぜシルヴィアが口も態度も悪いなんて言っていたかを理解した。エルフとドワーフは反りが合わないのだ。

「その通りだ。鍛冶でワシらに敵う奴なんてそうそうおらんわい。それで坊主は新しい剣でも欲しいのか?」

「いや、今日は俺じゃなくてこの子に何か合うものでもないかなって見に来たんだ。シルヴィアが武器屋ならここだって言ってたからね」

 アルトは予想通りと思いつつ目的を伝えシズクを紹介する。

「この子はシズク。火と風の魔法が得意なんだけど、あんまり直接戦闘が得意じゃなくてね。自分がどんな戦い方をしたらいいか悩んでたから、武器から決めてそれに合わせるって考えも良いんじゃないかなって思ってさ」

「シズクと申します。よろしくお願いします。」

 シズクは丁寧に挨拶をする。

「しっかりとしたお嬢ちゃんだな。どれ、ちょっとこっちに来てみな」

 シズクを手招きして鍛冶師はシズクを観察する。ただ観察しているだけじゃない、シズクの周りに集まる精霊の気配も感じ取っているようだ。


「ふむ、あんまり戦闘向きなタイプには見えんな。しかしマナの扱いは得意と見える」

 そう言って鍛冶師は商品を眺める。そして一つの錫杖を手に取った。

「これなんかどうだ?これは火の力を強める魔晶石を使った杖の一種でな、カグチ国という所で作られる『錫杖』ってものを模して作ったもんだ」

 シズクはそれを手に取ると目を閉じ自身のマナを流すように錫杖の効果を確かめる。

「なんでしょうか、この錫杖というものには力と何か懐かしさのような物を覚えます」

「懐かしさ、か。そりゃお嬢ちゃんと相性が良いって事かもしれんな」

「これなら私も」そう考えこむシズクを見てアルトは交渉に入る。


「で、おじさん。この錫杖っていくら?」

「銀貨8枚と小銀貨5枚だ」

「銀貨7枚でどう?」

「フン、あの女の弟子らしいの!銀貨7枚と小銀貨5枚だ。これ以上は無理じゃぞ」

「じゃあそれで!シズク、それでいいんだよね?」

「あ、はい。でも私そんなお金は」

「良いの良いの、それは俺からプレゼントするから。これでも依頼でそれなりに稼いでるんだ。それにその錫杖が少しでもシズクの自信に繋がるなら何よりだしね!」

「ありがとうございます!アルトさん!」

「お嬢ちゃんに免じての特別価格だぞ、お前さんにはびた一文負けてやらんからな!」

「それはその時の交渉次第で。俺はそうそう武器を壊す事ないし、買い替えるのはもっと大きくなってからだからね」

 アルトはそうニンマリと笑う。

「全く師弟揃って可愛げがないもんだ。じゃが武器を大切に扱っている事だけは褒めてやる。お嬢ちゃんもその錫杖を大切にしてやってくれよ」

「はい!ありがとうございます!えっと…」

 シズクは名前を聞いていない事に気が付いた。鍛冶師は様子を察し名乗る。

「ワシはトーリンだ。宜しくな」

「ありがとうございます、トーリンさん」

「トーリン、俺はアルト。これからもよろしく!」

「おう、また来るがいいさ。アルトにシズク」

 そう挨拶をして店を出る。


「トーリンさん、ちょっとぶっきらぼうな感じですけど良い方ですね。それにこの錫杖という杖、凄く手に馴染みます。ありがとうございます!アルトさん」

「気にしないで。でもシルヴィアがちょっと悪く言ってたのも納得だよ。まさかドワーフの鍛冶師だったとはね」

「エルフとドワーフが相性が悪いって本当だったんですね」

 クスクスと笑う二人は他愛もない話をしながらブラックヴェル邸までシズクを送り届け、アルトは宿へと戻ったのであった。

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