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アーリア物語 ~神と白竜と私(勇者)~  作者: いちこ
第1章 クリフト王国の日々
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第1章11幕 初めての共同作業

 リリーとシズクの家庭教師を始めてから半年が過ぎようとしていた。彼女たちの成長は順調で魔法統合はまだ完成していないもののリリーは『筋力強化+骨強化』に、シズクは『能力強化』の統合に成功しつつあった。


 このペースでいけば2年後の入学時には間に合うだろう、そう実感をしつつも今日はギルドで依頼を受ける日だ。何か手頃な依頼でもと探しているアルト。彼は家庭教師をしながらもギルドの依頼をこなし無事にEランクへと昇格していた。


 元よりシルヴィアとリトル・フェンリル達と共に森の警備も行っていたアルトにとってEランク昇格程度は難しくない話である。掲示板の依頼を見ながら悩んでいると『風結の誓約』のリーダーであるエリクが話しかけてきた。


「ようアルト!調子はどうだ?」

 彼らは何かとアルトの様子を気にかけてくれるギルドの中でも親しい仲である。

「昇格もしたし家庭教師もまぁ順調かな。今日はなんか依頼でもって探してたところだよ」

「それならアルト、ちょっとうちの依頼を手伝ってくれないか?戦力が少し心許なくてな、お前ならうってつけだと思って丁度探してたんだよ」

 エリクから思いがけない提案をされる。アルトは基本的に一人で行動していた。家庭教師の役割とギルドの依頼を同時にこなす上で誰かとチームを組むと迷惑が掛かると思ったからである。


「俺でいいの?チームで動いた事なんてないから大丈夫かな?」

「うちには頼れる指揮役がいるからな、アウロラの指示さえ聞いてれば大丈夫さ!」

 エリクに半ば強引に引っ張られる様に彼らの元へと連れられる。


「おうアルト!なんだ、今日はお前さんも付いてくるのか?それは心強いねぇ」

 ギルドで一番アルトを気にかけているハンスは嬉しそうにそう言った。どうも彼はアルトがお気に入りらしい。依頼を終えて飲んでいるところに出くわすと必ず絡んできて食べ物を進めてきたりしながらも、お得意の家族自慢を幾度となく聞かされた。彼には3歳の息子と生まれたばかりの娘がいるらしい。どうやら息子の未来とアルトを重ねているようだ。まぁ悪い気はしないのだが。


「チームでの依頼は初めてよね、私の指揮にはきちんと従う事。いいわねアルト。」

 アウロラがそう念を押す。彼女にはハンスやヨハンに絡まれて困っているところをよく助けてもらっている。アルトからすれば頼りになるお姉さんといったところだ。


「お前の事だからそう滅多にけがなどせんと思うが、回復なら俺に任せろよな。」

 大柄の男、ヨハンはそう胸をドンと叩く。


「それじゃあ皆が揃ったところで今回の依頼の詳細を話すぞ」

 エリクがきちっと締め、本題に入った。


 今回の依頼は王都南西の森の中にゴブリンの巣が発見されたとこの事で、これの調査、可能ならばそのまま討伐を行うというものだ。ある程度の規模が予想される為、上位種も数体居るだろうとの推測が立つ。単体での戦力は推して知るべしのゴブリンだが、奴らは無駄に知恵があるため油断は禁物だ。


「いつものように前衛はハンス、その後ろに俺とアルト、アウロラを真ん中に最後尾はヨハンが固めてくれ。アルトは武器がショートソードだからハンスと連携が取れそうなら前に出る事。ただし、初めはチーム戦の勝手を知る為に無駄に前に出るのは避けろよ」

 メンバーに詳細を伝え出発するエリク達とアルト。


 程なくして報告にあった場所に到着すると、盛り上がった土の奥へと下るようにすが作られているようだ。周りを2匹のゴブリンが警戒している。

 エリクはアウロラに合図を送るとアウロラは静かに魔法の詠唱を始める。同時に弓に矢を2本合わせて番え詠唱が終わると同時に引き絞った矢を上空へと放つ。2本の矢は弧を描きまるでゴブリンの頭に吸い込まれる様に命中し、2匹のゴブリンは塵と化す。


 マナはこの世の全ての者に存在し、通常は正と負のマナのバランスの均衡が保たれている。しかしモンスターは負の状態のみの存在であり、その淀みが具現化されたものなのだそうだ。そして実体が倒されればこの様に塵と化しその場に魔石が残る。


 見張りを倒した一行は慎重に入口へと進み魔石を回収。当初の予定通りの陣形で奥へと入っていく。通路は比較的狭いが大人でもかがむ必要はないほどである。注意深く奥へ下る一行。ある程度下ると平坦な通路になっていた。


 そのまま進んでいると不意にアルトは気配を感知する。エリクに目配せをして行軍を停止、左側に目立たないような通路があり、そこに何かが潜んでいる事を伝えた。しばし考えたエリクはハンスを先頭に正面を任せ、ハンスの背後を狙うであろう気配の主から守るようにアルトに指示。少し離れた状態でエリク達が進む事で返り討ちにしてやろうと目論む。


 指示通りに進んでいくと、案の定正面にもゴブリンがおり目立つように威嚇をしている。正面のゴブリンめがけて進むハンスを追うように付いていくアルトに気配が迫る。不意にアルトは気配の方向へ向きその姿を捉えた。槍持ちのゴブリンだ。即座にゴブリンの一撃を躱すアルト。

 正面のゴブリンはハンスが抑えてくれている、この隙に槍持ちを手早く片付けようと誘き出し、さも挟み撃ちにあったかのようにハンスと背中合わせに陣取る形を取ると、槍持ちはチャンスとばかりにノコノコと現れる。エリクが後ろから狙っているとも気付かずに。


 下卑た笑みを浮かべた槍持ちはそのまま塵と化した。エリクの槍がゴブリンを貫いたのだ。ハンスも余裕の様子でゴブリンを切り伏せていた。その様子を見てアウロラは満足げに親指を立てる。


 その後もアルトの高い感知能力を活かし奥部へと進む一行。最奥部と思われる広間を見つけると、内部にはゴブリンやホブゴブリンの他にゴブリンチャンプと言われる戦闘向きの上位種が1体確認できた。総勢で20匹程度だろうか。そこそこの規模の群れというのは間違いない。


 ハンスは止まりエリクにどう動くか指示を仰ぐ。その話し合いの最中アルトは考えていた。このくらいの規模の群れなら自分が引っ掻き回せば何とでもなるだろうと。幸いこの奥部は天井も高く飛び回るには十分な広さがある。


「エリク、俺がおとりになって引き付けるから、その間に一体ずつ確実にお願い」

 そう小声で伝えると静止する間もなく広間へ飛び出すアルト。ゴブリン達の不明瞭な言語が騒がしく響く中、敢えてど真ん中に出て挑発するアルトは自身の周囲に半円状にマナの盾を形成した。


 ゴブリン達は次々とアルトに襲い掛かるがマナの盾に尽く攻撃を弾かれる。そしてその怯んだ隙にアルトは近くのゴブリンから切り伏せていく。


「あのバカ!みんな、陣形を崩さず突撃する!行くぞ!」

 エリクの号令に風結の誓約の面々も広間に入る。アルトが突貫したおかげで背中を取る形になったが、少年を囮に使う作戦など胸糞悪い、早くアルトと合流しなければ。エリクはゴブリンを次々と倒しアルトへの道を切り開いていく。


 肝心のアルトはというと、群れのボスであろうゴブリンチャンプにお得意の空中戦で対抗しており、いかに上位種と言ってもその動きに翻弄されているようだ。


 ハンスも不安を抱えながら次々とゴブリンを始末してアルトに近づこうとしている。気付けばアウロラを残してヨハンまでもが前に出てゴブリンの頭を叩き割っていた。アウロラはアウロラでホブゴブリンの頭を正確に射抜いており、その数はチャンプも含め残り僅かであった。


 チャンプが周りの仲間がほぼ残っていない事に狼狽した僅かなスキをアルトは見逃さなかった。視界から消える様に飛び、次の瞬間にはチャンプの首を撥ねて見せる。そして残りの数体も難なく倒し、広間の敵を掃討した。


 どうやらここが最奥のようで、奥には天然の魔石と思われるものが埋まっている。魔石はモンスターが具現化したものだけでなく、天然に発生するものもあるのだ。天然の魔石はマナの濃い場所で発見されることが多く、正負の均衡が取れているものが多い。しかしこの均衡が崩れ負に傾いていると、このようにモンスターの巣となる場合があるのだ。


 手早く魔石を回収した一行は、ゴブリンの巣から出る。そして安全が確保できたところでエリクがアルトに言った。

「アルト、なぜあのタイミングで出た?」

「どの個体も戦ったことあるし、俺なら攻撃を引き付けることが出来るから一番いいかなって…」

 そう言った瞬間エリクは今まで聞いた事がない怒気をはらんだ声でアルトを叱りつける。

「バカ野郎!俺たちはチームで動くといったよな?お前は確かに臨時の戦力だが誰もお前を囮にする作戦なんて望んでないんだ!お前には勝算があったんだろうが、チームで動く以上はリーダーや指揮役のいう事を聞くのが鉄則だ!作戦があるにしても伝えてとっとと飛び出すバカがいるか、みんなの了承をちゃんと得てからタイミングを見て飛び出せ!お前の行動一つでチームが危険にさらされる事だってあるんだぞ!」

 その言葉はアルトにとって厳しい者であると同時にアルトの身を案じての者だった。

「ごめんなさい、エリク。上手く行ってたからつい調子に乗っちゃって。」

「アルト、お前は確かに強い。だがな、チームで動くというのは個の強さ以上に連携が重要なんだ。みんなで動いてみんな無事に帰る。それが冒険者ってもんだ。それを忘れるんじゃないぞ。」

 エリクはそう言ってアルトの頭を撫でる。彼はただ戦力としてアルトを期待していただけではなく、今回の依頼を通じてアルトにチームで動く意義や意味を教えたかったのだ。


「まぁ今回の事で少しは学んだだろ。またお願いする事もあるだろうが次に同じ事やったらお仕置きだからな!」

 エリクはそうアルトに言うとアルトの頬を引っ張り茶化す。

「うん、今日の事は忘れない!ありがとうエリク!」


 そんなやり取りを側で見ながらアウロラは(エリクとの子がこんな素直な子なら良いな)と妄想にふけっていた。もっともエリクはそんなアウロラの好意に全く気付きもしていないのだが。

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