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アーリア物語 ~神と白竜と私(勇者)~  作者: いちこ
第1章 クリフト王国の日々
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第1章10幕 白い世界とある男の話

 しこたま怒られたアルトは自室でたんこぶを摩りながら魔法統合について再度考えていた。そしてある事を思い出す。

「そう言えばあの記憶と一緒に覚えてるあの白い光景、あれは何だったんだろ?」

 アルトはその白い光景についてふと記憶を探る。




 時はさらに遡り、8年程前の出来事から語ろう。アルトの暮らす世界『アーリア』とは異なる宇宙に存在する現代日本のとある男の話である。今は名前はおろか存在した形跡すらない彼は38歳の男性だった。


 仕事に生き、忙しい日々を送っていた男は突如として仕事に行けなくなってしまう。友人の勧めで心療内科にかかり診断された病名は「重度のうつ病」であった。彼は唯一の生きがいで合った仕事を辞め、生きる目的を失いながらも生き続けなければならない自分に嫌気がさしていた。


 国の制度で生活は保障されているが、それでいいのか?自分はただ働くことが嫌になってしまったのではないか?ただ堕落していくような感覚がどうしても消えない。いっそ楽になりたい、存在が消えてしまえばいいのに、そう考えるようになるまで時間はかからなかった。


 ある日の夜、男の身体に異変が起こる。自分の身体が端から光の粒となって消えていくのだ。いや、身体だけではない。寝ているベッドも、家具も、何もかもが全て消えようとしていた。その光景に恐怖を覚えると共に男はどこか安堵していた。そう『願いが叶ったのかもしれない』と思ったのだ。


 男はこうして一切の痕跡を残すことなく消えたが、この時男は知らなかった。自分の存在のみならず関わった因果関係もろとも世界から消えてしまっている事に。だが例えそれを知ったところで男は安堵したであろう。なぜなら誰も苦しまず悲しまず、自分が消えることが出来る事こそが男の願いだったのだから。




 気が付くと真っ白い世界が広がっていた。なにが起こっているのか理解が追い付かない。世界から消えたいという願いはかなっていないのか?自分はどうなっている…いやそもそも自分とはなんだ?思考があやふやだ。


 そんな事を考えていると白い世界に巨大な人の顔のような者が浮かび上がる。直間的にその存在に嫌悪感を抱いた。それは『人』であるような『人々』であるような存在で、無感情にこちらに何かを伝えてくる。言葉は解らずともそれは尊大な態度でこちらの意図など一切を無視して意志を押し付けてくるような感覚だった。

 その存在の思念のようなものが張り込んでくる不快な感覚が襲ってきた刹那、大きな白い翼を持った何かが自分を包み込む。白い世界が大きく振動する。それは怒りを表しているようだったが、白い翼を持った『翼を持つもの』は自分を包み守ろうとしているようだ。


 ハッキリと見えるわけではないが、感じた。自分を包むそれは白い翼を持った竜の姿をしていると。

そしてその竜に包まれたまま白い世界から遠のいていくのを感じながら意識が途切れた。




 アルトが記憶しているのは白い世界の部分だけだが、この記憶も夢なのかハッキリとしない曖昧なものだ。この白い世界の記憶は気になるが今は何の役にも立たないな、そう割り切り魔法統合に意識を戻す。


 次は防御についてだ。まず敵の攻撃を受けても被害を最小限に抑えたい。この為には防具の硬化は必須だ。そして万が一に防具が敵の攻撃によって破損・貫通した場合の保険として表皮の硬化も同時に行いたい。


 暫く考えた結果、『自分自身と防具を一つの物として考える』というイメージを作り上げる。この試みはアルトにとって比較的簡単だった。出来上がったイメージで魔法を自身に掛け、衣服と皮膚に軽く剣で傷を付けられるか試みた結果、一つの魔法で同時に保護が出来る事が確認できた。


 調子よく魔法のイメージ再構築を進めていくアルトは次に脳で処理を行う物は全て一つに纏められるのではないか?と考える。まず五感やマナや殺気などの気配を感じ取る『感覚強化』と『反応速度上昇』と『思考速度上昇』を一つのイメージとして練り上げる。


 一時間ほどして大よそのイメージが固まった時点で再構築された魔法は3つである。これをさらに纏める事は可能か再検討した結果『筋力強化+骨硬化』と『防御能力上昇』は共存可能なのではないかと思い立つ。そうしてさらにイメージをベットの上や部屋を歩き回りながら再構築していく。


 こうして8歳時に出来上がった新魔法が『身体強化』と『能力強化』だ。身体強化は『筋力強化+骨強化+皮膚硬化+防具硬化』、能力強化は『感覚強化+思考速度上昇+反応速度上昇』をまとめたものである。この二つを常時展開する事なら綻びが発生する事も防げるはず。そう考えたアルトは実戦でそれを証明し、現在に至るまで常時展開し続けているのだ。




 そして話は現在のブラックヴェル邸に戻る。アルトは魔法統合の経緯を語る。もちろん白い世界の話や『記録』の話などは省いてだが。それをリリーとシズクは呆れ顔で聞いていた。アルトの非常識さを幾度か目の当たりにしていた二人は今更この子がどんな事を言っても不思議ではない、そう考えていた。


 そしてその非常識さの原点を垣間見て呆れかえっていたのである。とはいえこの二人は非常に賢こく、話の内容についての大まかな部分は理解していた。


「ではアルトと同じようにまず順を追ってイメージを構築するところから始めるのが良さそうね」

 リリーはそう答えるとアルトに筋力強化と骨強化、そして脳のリミッターについてより詳細にイメージが出来るように根掘り葉掘り質問を始める。シズクも置いてかれまいと耳を傾けた。


 アルトを含む彼女たちはまだ知らない。これが後の魔法学の発展に大きく寄与する出来事の始まりだという事に。

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