2話 一宿一飯
俺は馬車の悪い乗り心地と不安で絶望していた。おじさんは魔法が存在すること、オークやワイバーンなどファンタジー御用達の生き物がいることを教えてくれた。しかし文明は予想通り現代と比べると遅れていて、餓死や盗賊に殺されることが多いらしい。都会から出たことがない俺はそもそも生き抜くことができるのだろうか……。
馬車が止まる。吐き気を抑えているうちに町に着いたらしい。レンガか石でできた家がポツポツとあり教会らしき建物もある。観光気分で町を見回した。
「そこの袋を全部こっちに持って来てくれ!」
「あ、はい!」
「いやぁ、助かったよ!」
おじさんは笑顔で言ってくれたが、重すぎて2割も運べなかった俺には眩しすぎた。
「これお駄賃ね!」
お金が入った小さな袋を手に握らせたあと、野菜をいくつか渡してきた。
「え、貰えないですよ!乗せてもらった分も働けなかったくらいなのに…。」
「いいから貰っときな!お金ないだろ!じゃあワシは日が暮れる前に帰らにゃならんから!」
おじさんは会話をする隙も与えず馬車に乗り、出発する。
「頑張れよ!あ、教会の前に宿屋あるからな。」
「何から何までありがとうございました!必ずお礼をしに行きます!」
おじさんは手を振って返事をしてくれた。こんなに良くしてもらえると思わず、人の暖かさが心に沁みる。
野菜とカバンを抱えつつ宿屋に着く。暇そうに頬杖をついた受付の同年代くらいの女性に宿泊したい旨を伝えると驚いた顔をしながら
「あんた異世界人!?初めて見た!」
とはしゃぎ始めた。
「あ、ごめんなさい!宿泊ですね。1泊夕食付きで銅貨3枚です!」
元気いっぱいの接客に驚きながらも抱えてた野菜を机に置き、お金を出す。
「銅貨3枚ちょうどですね。あの…よければこのお野菜いただけませんか?いただけたらもう1泊サービスしますよ!」
貰ったものだけど調理もできないので快諾する。
「ありがとうございます!いいお野菜なので今日のお夕飯頑張っちゃいますね!あ、お部屋に案内します!」
女性が先導して階段を登る。
「この部屋になります。トイレと食堂は1階です。お食事できたらお呼びしますね!ごゆっくり!」
お礼を言う暇もなく階段を降りていった。案内された部屋はベッドが2つあり、その間にろうそくがのった小さい机があるだけだった。荷物を置いてベッドに横たわる。硬いマットに薄い枕、うるさい隙間風、床を踏む音で家全体がギシギシとなる。普通のホテルなら寝れないような環境でもまだ状況を飲み込めてない異世界人が寝るには十分だった。




