1-⑦
アルの穏やかな目に、曖昧に笑った俺が映る。
な、なんだ。そういうことか。
まぁ実際、大きいドラゴンを従えることで得られる権力に目がくらんで、ドラゴンを道具としてしか見てない人間も、多いらしいからな。
俺としては当たり前だけど、アルの言ってることも、そのとおりなのかもしれない。
「とりあえず、そこに座ってくれ」
俺が通された部屋は、バウムクーヘンを半分に切ったようなカウンターの奥にある、ギルド長室ってところだ。
左右の壁に沿うようにして、大きな棚が並び、奥に長机と椅子、資料の山があり、部屋の真ん中にソファが二つ、木製の机をはさんであるだけだった。
すすめられたソファに腰かけると、向かい側にアルがティーカップを二つ手にして座った。
「さて、お前の名前を聞かせてもらおうか。あのドラゴンの名前も、あるなら、それも」
アルがティーカップを俺の前まで、机に滑らせた。
「俺は優花で、ドラゴンはルキ。それで、今回ドラゴ⋯⋯ギルドにきたのは、ルキがドラゴンとドラゴニストを殺してしまったからだ」
「理由があるんだろ」
アルは机に肘をのせて指を組み、探るような瞳でのぞきこんでくる。
「理由があればいいってことじゃないけどな。実は――」
ルキが大きくなったこと、俺の左足が潰れたことを伏せ、一部始終を伝えると、アルは小さく息を吐いた。
「そりゃ大変だったな。相棒を殺されかけて、優花も殺されかけたんだから、仕方ないよな。ルキが光属性だから、死に間際で馬鹿力でケガを治し、自分を強化して倒したっていう線が有力か。⋯⋯しっかし、優花が死にかけてなくてよかったな! いくらドラゴンが強くても、自分以外の大ケガを治癒するなんて、できないし。それこそ、古代ドラゴンくらいだ」
「そうだな⋯⋯」
考えこむアルをよそに、俺は引きつった笑みを浮かべる。
そうだよな、潰れた足なんていう大ケガ、普通じゃ治せないよな。
なんの代償もナシにやってのけるなんて、やっぱりルキはスゴいんだ!
だけど、だからこそ、隠さなきゃいけない。
スゴいからって、珍しいからって、ルキが悪いヤツらに狙われるのはゴメンだ。
俺とルキが引き離されるのだって、絶対に嫌だ。
「けど、お手柄だよな」
「何が?」
「何が、って、アレを連れてきたことに決まってんだろ」
「アレ⋯⋯って、アイと男のことか? お手柄なんかじゃない。殺してしまったから、報告にきただけだ」
「はぁ、優花は本っ当にドラゴン協会のことしか知らないんだな」
本気で言ってんのか? と疲れたようにソファにもたれた。
「そりゃ死体は持ってきてくれたほうが助かるけど、そんなんで報告にくるヤツなんて滅多にいない。大体、殺しちゃったらそこに放置で、俺らギルド職員が通報を受けて、回収しに行くんだ。持ってくる場合は、懸賞金がかかってるのとか、依頼とかだけだ」
「まぁ、たしかに喧嘩とかで殺しちゃいました、なんて、知られたくないもんな」
「そうだけど、別に法とかで裁かれたりとかはしないぞ。なんせ、今の世の中は弱肉強食。狩ってもいいけど、狩りすぎたら世間からはじき出されて、懸賞金を出されるってだけ。ある程度は問題視されないんだ」
「腐ってんな⋯⋯!」
ギリッと奥歯を食いしばると、体中から熱が発せられているように、皮膚が熱くなった。
いつかの、命が目の前で消えた情景が、パッとまたたき、胸のあたりがグッと重みを増した。
強ければ、殺しても許されるなんて、絶対に間違ってる。
そのたった一つの死で、誰かが奈落に落とされることだってあるのに。もう生きていけないって、命の鎖を断ってしまうことだってあるのに。
そんなこともつゆ知らず、のうのうと生きているヤツが正しいって?
ふざけんなよ!