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Flyer!  作者: 流暗
一章
6/9

1-⑥

「ルキぃ、まだ着かないのー⋯⋯?」


 足元に広がる、米粒サイズのビルの集合。

 四方八方から吹く、殴りつけるような強風。


 俺は今、ルキの前足にぶらさがって、空を飛んでいる。


 ⋯⋯何分だろうな、三十分くらい?


 少しでも気をゆるめれば、手を離して落下死コースだ。


 俺はうらめしげに腕を見上げた。


 真っ赤な空が透けて見える半透明の膜をなびかせ、ルキが輝く黄金の翼をはばたかせている。


 白いドラゴンって、見たことないから、色をどうにかできないかってボヤいてたら、ルキが身震いして、元の色に戻ったんだ。


 すごくない!? うちの子天才⋯⋯みたいな。


「うおっ!?」


 あっぶな⋯⋯! 落ちるかと思った⋯⋯!


 手を離しかけた俺を、ルキがサッと尾で助けてくれた。


 進む速度をゆるめ、慎重に俺の足を支えてくれる。


「クルルゥ」


 気をつけて、と言いたそうに、ルキが喉を鳴らす。


 俺が前足をつかみなおしたのを確認し、ルキは大きくはばたいた。


 ⋯⋯俺だって、分かってはいるさ。


 ルキもアイも、空を飛ぶしか出る方法がないって。

 ルキがアイを背負って、口で男をくわえるなら、俺は足につかまるか、尾につかまるか、二択から選ぶしかないんだって。


 ⋯⋯え? 俺が一人で路地から出て、ルキだけ飛んでいけばいいって?


 ムリだ。もう日が暮れる。


 アイと男はどこに置いて寝ればいいんだよ⋯⋯。


 この辺はドラゴン協会がないから、遠くまで行かないといけない。


 そうなると、俺が歩いてたら夜になる。


 だから⋯⋯ってことで今の状況なんだけど。


 もう限界だ⋯⋯! 万年運動不足には厳しい⋯⋯!


 腕がしびれて、感覚がなくなってきたとき。


「クルルー」


 ルキがバサッと音を立てて降りはじめ、俺は最後の力をふりしぼるように、ルキの足にしがみついた。


 うつむいた視界に、大きな影が映る。


 スニーカーごしに伝わる硬い感触に、俺はホッと息をついた。


 やぁっと着いたぁ⋯⋯!


 つま先から着地して手を離し、トトッと数歩、はねるように前に進む。


 ルキが体を沈ませ、俺がさっきまでいた場所に降り立った。


「お疲れ様、ルキ⋯⋯」

「動くな。見ない顔だな。そのドラゴンと人間について、話を聞かせてもらおうか」


 ルキをなでようと伸ばした手が、ぬいつけられたように止まる。


 あっちこっちにはね放題な真っ黒な髪。

 気だるそうに細められた、青みがかった黒い瞳。

 スラリと背の高い、線の細い男性が、ゆっくりと歩みよってくる。


 音もなく現れた、黒いローブをまとった男と漆黒のうろこのドラゴンは、俺たちと一歩の間合いをとって、足を止めた。


「血まみれの中型ドラゴンと人間――それを持ってんのが、ガキなんだ。ギルドの真正面に立たれちゃ、誰も近よれないだろ。それとも、そんなに目立ちたいのか?」

「ギルド?」


 なんとか出た声も、情けないことにかすれている。

 乾いた目を左右に動かすと、数人の人が遠巻きに俺たちを見ている。


 この人、ひょうひょうとした歩きだったから、威圧感は黒いドラゴンのだろうって思ってたけど。


 違うっぽいな。ドラゴンよりも、この人のほうが⋯⋯!


 彼はあきれたように眉を上げると、親指を背後に向けた。


 その先にあるのは、木造の五階建ての建物だ。

 古そうだけど、傷んでいるところはなく、丁寧に手入れされているのが見て分かる。


「⋯⋯?」

「お前なぁ。報告に来たんだろ」

「いや、俺はドラゴン協会に⋯⋯」

「ドラゴン協会?」


 彼は予想外なものが出てきた、というように、すっとんきょうな声を上げた。

 キョトンとした表情は、みるみるゆがんでいき、


「なんだお前っ⋯⋯!! いつの時代の人間だよ⋯⋯ヒーッ腹いてぇー!」


 お腹を抱えて地面を転がりはじめた。


 気のせいか、彼のドラゴンがゲンナリした顔をしている。


「グルル⋯⋯!」

「ル、ルキ。落ちついて。なんでそんなに笑うんだ? 別に面白くないだろ」

「本当に信じてんのか⋯⋯! あのな、ドラゴン協会は昔、禁忌に手を出して、今のギルド本部に壊滅させられたんだよ。だから、今はギルドが、ドラゴンとドラゴニストを統制してる。ドラゴン協会なんて、もうないんだ」


 だいぶ話がそれたな、と言いながら、彼は切れ長の目を細めた。


「中で事情を聞こう。⋯⋯あ、そういえば、名前言ってなかったな。俺はアーベント。みんなにはアルって呼ばれてる。ここのギルド長だ。で、こっちは相棒のツヴァイ。お前のドラゴンと補色属性の中型ドラゴンだな。じゃ、行くぞ」


 アルが背中を向けると、ツヴァイはギルドの横の、木の柱を組み立てただけの舎に歩いていき、その一画に丸くなった。


 うっすらと開いた紫の瞳がルキを捉えて、静かに閉じた。

 ルキもこいってことだろうな。


「クルルゥ」

「大丈夫。すぐに迎えにくるよ」


 寂しそうに頭を寄せるルキをなだめ、ギルドの玄関先で興味深そうに見ているアルの元に駆けよった。


「⋯⋯? どうした?」

「いやぁ、別に。珍しい子だなって、見てただけ」


 心臓が、ドクンとはねた。


 まさか、ルキが珍しいドラゴンだって、気づいて⋯⋯!?


「あそこまで甘えるドラゴンは、珍しいだろ。きっと、すごく信頼してんだ」

「あ、あはは。そうかな」

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