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Flyer!  作者: 流暗
一章
5/9

1−⑤

 そういえば、ルキはあのとき、腕の中で脈を感じなかった。


 それって、死んだってことだ。


 ルキが生きてることが嬉しすぎて、気にも留めなかったけど、変なこと⋯⋯だよな? 生きかえったってことだから。


 ⋯⋯ダメだ。一度にいろいろ起こりすぎて、感覚がおかしくなってる。


「まぁ、いいや。ルキが生きて、俺と一緒にいる。それで十分だ」

「クルゥ」


 俺は考えるのを諦め、ルキに笑いかけた。


「とりあえず、アイツらをドラゴン協会に報告しなきゃいけないんだけど⋯⋯ルキがやったんだよな?」

「クルルゥ」


 ルキが、喉を鳴らしてうなずく。


「理由は、正当防衛。⋯⋯最悪、牢屋に入らないといけなくなるかもだけど、そのときは、俺も一緒だからな。今回はあっちから仕掛けてきたし、大丈夫だとは思うけど」

「クルゥ!」

「今の世の中って、物騒らしいしさ。じゃあ、アイツらを乗せるやつ探してくるから、ルキはここで見張っといて」

「クルルゥ!」


 俺がよいしょ、と立ち上がると、ルキは、まかせて! というように大きく尾を振った。


 ふへへへへー、天使だ。愛らしすぎる!


 顔をだらしなくゆるませてルキを一なでし、細暗い路地へと足を向ける。


 ここに来る途中、ガラクタがいっぱい転がってたよな。

 テレビとか、ソファとか、扇風機とか⋯⋯。


 その中に台車みたいなのって、あったかな?


 もしなかったら、もうちょい遠くまで探しに行く?

 いや、ルキと離れすぎるのもよくない⋯⋯というより、俺が嫌だ。


 でも、見つからなかったら、アイツらを運べないし⋯⋯。

 って、アイは中型ドラゴンだ。ルキでさえ俺より大きいのに、その一回り大きいとなるとなぁ。


 台車があったところで、アイを乗せられるか?

 そもそも道がないんじゃ⋯⋯。


 もういいや。台車を探してから考えよう。


 ドンッ!


「ルキっ!?」


 つま先が細暗い路地に吸いこまれたときだった。


 背後から何かが倒れるような音がして、俺はバッと振り返った。


「⋯⋯おい、ルキ?」


 目に映った光景が信じられず、ゴシゴシと腕で目をこする。

 パチパチとまばたきをしても、見ている動きは変わらない。


 ルキが、アイを背に乗せて、男をくわえてる。


 だけど、アイはルキの一回り大きいから、顔と双翼以外は全部隠れていて、アイの足と尾は地面に投げ出されている。


 ⋯⋯何してるんだ?


 やってみたらできちゃった、といわんばかりに、ルキがキラキラと見つめてくる。


 たしかに、ルキがそうやって運べるなら、一番の解決方法だけどさ。


 ルキは俺よりも大きくなったから、俺でもギリギリな路地は通れないわけで⋯⋯。


 ん? ってことは、ルキはどこから帰るんだ?


 しまった⋯⋯! アイツらが通れないことばっかり考えてる場合じゃなかった!


 ルキも通れない。帰れないじゃん!


「ど、どうしよう」


 最悪、ここに住みつこう、などと考えていたとき、


 バサッ


 風を力強く凪ぐ音が、空気を切りさいた。


 パッとはじかれたように顔を上げる。


 ずっと夢見てた姿。

 健気に翼を動かして、いつか飛べるようになるといいな、なんて淡い願い。


 それが今、目の前に実現してる。


 ルキが、飛んでる⋯⋯!!


「あれ⋯⋯?」


 輪郭を失ったルキと、頬を伝うなめらかな感触。


「クル? クルルゥ!?」


 ルキが慌てたように駆けよってくる。


 そっか、俺、泣いてるんだ。


 ルキが浮いたって、ただそれだけのことだけど。

 ドラゴンとしては、当たり前のことかもしれないけど。


 うううぅぅ⋯⋯! これが泣かないでいられるか!


 ルキが、ずっと飛べなかったのに、初めて飛んだんだぞ!


 できなかったことが、できるようになった。


 最愛の相棒なんだ、嬉しいに決まってるだろ⋯⋯!!


 キューキューと心配そうに鳴きながら、ルキが俺の頬をなめてくる。


俺の顔ほどもある大きさの舌は、前のルキのものとは全く違って。


「よかった、よかったなぁ⋯⋯!」


 ルキのフワフワな首に顔をうずめ、俺はしゃくりを上げて泣いたのだった。

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