1‐④
フー、フーッ、ザシュッ!
「痛ぁッ!?」
「クルゥ」
肌を刺された鋭い痛みに飛び起きると、真っ白な小型ドラゴンが足を引いた。
フワリと漂う鉄のにおいに顔をしかめ、グルリと首をめぐらせる。
壁に殴りつけられるようにして血を被っている人間と、中型のドラゴン。
動く気配がない⋯⋯っていうか、死んでる?
激しく争った跡はなく、即死だったみたいだ。
⋯⋯あの人間とドラゴンって、俺を殺そうとしてたヤツらだよな?
自分の体を見下ろし、火傷を探す。
燃えつきる、なんて生ぬるいみたいな炎だったのに、かすり傷一つも見当たらない。
夢だったのか⋯⋯?
目の前に、これでもか、というほどの証拠が広げられているにもかかわらず、チラリとそんなことが浮かんだ。
俺は、足にそっと触れる。
痛くない。曲がる、動く!
足だけ俺と切り離されたみたいに、全く動かなかったのに、潰されたこともなかったように元通りになってる。
まるで、俺だけ時間が巻き戻ったみたいだ。
⋯⋯もう、わけわかんないよ。
片手で目を覆って、うつむいたとき。
「クルゥ、クルルー!」
突然肩をおされて、何かに馬乗りにされた。
白い、ドラゴン⋯⋯!
ずっといたのか。違和感が全くなくて、気に留まらなかった⋯⋯のか?
全然、危機感を感じない。
嬉しそうに俺を見つめる瞳と視線が合った瞬間、あのあどけない顔が重なって見えた。
「ルキ⋯⋯?」
無意識にこぼれた言葉に、一層瞳を輝かせ、我慢できないというように、顔をこすりつけてきた。
大きさも見た目も、前のルキとは全く似ていないけど、まとう雰囲気と瞳の輝きは、そっくりだ。
シルクのような手触りの毛をしきりにおしつけてくるルキを引きはがし、体を起こして、頭をなでる。
うっとりと目を閉じてスリスリと甘えてくるルキ。
はぁっ、かわいすぎる⋯⋯!!
幼いかわいさとはまた違って、大人と子供の間の、成長途中なかわいさって感じかぁ。
いい! ルキはどんなになってもかわいい!
何気なくルキの奥に目をやり、なでる手が止まった。
力なくうなだれる、男とドラゴン。
今さら背筋にゾクッと寒気が走り、ルキをまじまじと見つめる。
不思議そうに首をかしげるルキは、とんでもなくかわいい。かわいい、けど⋯⋯。
口の周りと尾に、ベッタリと真っ赤な血がついてる。
やっぱりそうだ。間違いない。
ルキが、あの男とドラゴンを殺したんだ。⋯⋯殺しちゃったんだ。
あっちが襲ってきたとはいえ、殺したなら、人間でもドラゴンでも、ドラゴン協会に報告しなければならない。
調査が行われて、何か問題があった場合、殺した人間やドラゴンは、牢屋行きだ。
今回のことは、絶対にアイツらが悪いと思う。
一度ルキを殺し⋯⋯。
「⋯⋯ルキ、死んだんじゃなかったのか?」