1−③
グイとアイが俺の顔をおしのけようとする。
「ダッダメ!」
俺を攻撃するつもりかと思ってたのに、今、ルキを狙った。
負けじとアイの顔をおし返して、ルキを隠すように頭を地面につける。
予想外のところに入りこまれたせいで、ドッドッと心臓が体を揺らす。
それに、アイの口が開いてた。
きっと、ルキをくわえるか、食べるか⋯⋯。
口で何か危害を加えるつもりだったのは確かだ。
より近くなったルキの血のにおいが、ムンと濃くなる。
たまらなくなって、冷えきって動かなくなったルキを、さらに強く抱きこんだ。
⋯⋯これで、ルキに生きるパワーみたいなのが、送れたらいいのに。
「遅いよ。何してるわけ? わざわざ俺が指示しないと、雑魚ドラゴン一匹も奪い取れないの?」
「⋯⋯」
「ハァ、もういいよ。帰ったらアイは、処分申請出すから。⋯⋯いくよ。クロスバースト」
「グルァァ⋯⋯!」
アイが喉の奥からしぼり出すような声を上げた。
伏せた腕のすき間から、赤色の蛍光灯みたいな光が差しこむ。
⋯⋯ん? クロス、バースト⋯⋯?
それって、契約したドラゴンの固有スキルとドラゴニストの潜在能力が合わさって作り出す、一つの技だったはずだ。
ドラゴンとドラゴニストの間に能力差があると、どちらかに負担がかかって、連発できない。逆に、相性がよければ、威力も強く、回数も多く発動することができる。
まぁ、必殺技みたいなやつだ。
⋯⋯ただし、人間に対して出すモノでは、ない。
どんな技かにもよるけど、殺傷力が高すぎて、基本生き物には向けてはいけないことになってる。
なのに⋯⋯こんな至近距離で!?
死ぬどころか、消し炭になるかもしれない⋯⋯!
光の色で大体技の属性が分かるから、赤の光は⋯⋯。
って、赤?
チラリとアイを見る。
藍色ってことは、水系統の固有スキルなはず。
四つある属性の中で、赤と青は補色属性だから、水スキルを持ったドラゴンが赤色の光を発することはないし、その逆もない。
まれに、紫の光を出すドラゴンもいるけど、完全な逆の色になることは、絶対にない。
だから、アイは青系統の光なはずなのに⋯⋯。
「グアァァアァ!」
ゴォッと肌を刺すような熱気が、俺を襲う。
俺はとっさに体を丸め、ルキをかばう。
足はまだ、動かないけど。
眠たそうにペタンと伏せた、小さな体。
懸命に飛ぼうと動かしてた、フワフワの翼。
俺が呼ぶと、嬉しそうに揺れた、長い尾。
真っすぐに俺を見つめる、まんまるな瞳。
⋯⋯ルキと過ごした、空気、感触、感情。
俺がルキと出会ったあの日から、ルキは俺の全てだったんだ。
今は、いくら呼んでも、触れても、俺に応えてはくれないけどさ。
そんな今でさえも、立派な思い出になっていくんだ。
ルキとの時間は、一生色あせないよ。
だから⋯⋯ルキだけは。
俺はどうなってもいいから。
ルキだけは、助かってほしいよ⋯⋯!
『契約条件が整いました。ルキを進化させます』
無機質な声が頭の中に響いて、ルキがパッと白く光った。
透きとおるような光に見とれている暇もなく、肌がちぎられるような炎に包まれる。
「ぐっ⋯⋯!」
死を覚悟した俺の頭では、ルキとの日々がグルグルと回っていて。
ルキが無事ならなんでもいいやって思ったのを最後に、意識が途絶えた。