表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Flyer!  作者: 流暗
一章
2/9

1-②

「ッ!! ルキ!」


 広場のつきあたりで、一人の男性が背を向けて立ち、側には藍色の中型ドラゴンが控えている。


 その足元に目が吸い寄せられ、駆け出そうとした瞬間、足の力がスッと抜け、前に倒れこんだ。


「ぃっ、なんで⋯⋯!?」


 動け、と叫びながら、バンバン足をたたく。


 ドラゴンの足元には、変わらず真っ赤な丸い塊が転がっている。


 だけど、見間違うハズがない。

 形、大きさ、雰囲気。感じられる全てがルキだ。

 俺の予感は、当たっていた⋯⋯!


「あれえ? お前、まさか、アレのドラゴニスト?」


 男は真っ青に染めたセミロングの髪をかきあげ、かたわらのドラゴンに手をついた。


 一瞬怯えるように縮こまったドラゴンは、男が睨むと、ピンッと背を伸ばした。


 キッと俺が睨みつけると、彼は芝居がかったように両手を上げた。


「あー、怖い怖い。これだから、下位のドラゴニストは⋯⋯」

「ルキを返せ」

「ルキ?」


 ポカンとした表情が、みるみるうちに馬鹿にするものに変わっていく。


「アッハハハハ! こんなのに名前なんてつけちゃって、おっかしー!」

「なんで笑う」

「なんでって⋯⋯ブフッ⋯⋯お前は道具に名前をつけて、かわいがるのかよ⋯⋯!」

「ハァ? ルキは道具じゃな⋯⋯ッ!」


 勢いよく足を振り上げた男を見て、心臓がドッと脈を打った。


「ハイ、笑わせてくれた⋯⋯お礼っ!」

「やめろッ!」


 俺の叫びもむなしく、ルキの小さな体が、グンッと宙に舞い上がる。


 キュ、とかすかに鳴いたルキが落ちるのが、やたらと遅く感じる。


 ペチャッと不気味な音を立てて地面にたたきつけられたルキは、いつもより一回り、小さく見えた。


「ルキっ!」


 ハッと我に返って、目の前で動かないルキを抱えこむ。


 そんな、ウソだろ⋯⋯ッ。


 腕と服が、ルキの血であっという間に赤く染まる。

 したたった血は、早くも地面に水たまりを作った。


「ルキ。なぁ、ルキってば⋯⋯っ!」


 いつもみたいに、嬉しそうに俺を見てくれよっ⋯⋯!


 いくら呼んでも、眩しいくらい輝いてた瞳は、眠るように閉じられたまま。


 俺の体温よりも低くなった小さな体は、ピクリとも動かない。今にも消えそうなほど、軽い。


 呼吸が苦しい。心臓がうるさい。体が冷たい。


 イヤだ。もう、あんな思いは⋯⋯!


「おれをっ、また一人にしないでくれ⋯⋯!」


 俺の悲痛な叫びが、コンクリの壁に素っ気なくあしらわれる。


 なぁ、ルキ。


 俺はルキがもっとちっちゃい頃からずっと、一緒にいたよ。

 俺もその頃はようやく言葉を話せるようになった頃だったけどさ。


 俺は両親が行方不明で、親代わりだった人も、目の前で急に死んじゃったから、ルキだけが生きる意味だったんだ。


 ルキがいなかったら、あの日偶然出会えてなかったら、俺は今、どうなってたか分からない。


 だから、だからさ⋯⋯っ。


 「もう俺を、置いていかないで⋯⋯」


ギュッとルキを抱きしめたとき、耳元で風がうなりを上げた。


「俺を無視しないでくれる? ⋯⋯お前は泣かないんだね。ドラゴンが死んだのに。つまんないなぁ」

「ルキは死んでない」

「生意気だなぁ。⋯⋯その目、嫌いだ」


男がゆっくりと歩み寄ってきて、俺の左足を踏みつけた。


「足、動かないんだって? 契約してるドラゴンが死んだんだから、当然なんだけど⋯⋯。お前は運がいい。大抵のドラゴニストは、ドラゴンと一緒に死ぬんだから⋯⋯さっ!」

「ッ! ぐああぁああぁ!」


 左足がバキョッと砕けた音を上げる。


 あまりの衝撃に、息が止まる。

 痛すぎて、視界が白く瞬く。


 力の入らない体をなんとか支え、ルキを抱えなおす。


 ゆるゆると首を回すと、ドラゴンが前足を俺の左足にのせているのが見えた。


 中型のドラゴンの体重をかけられてるんだ。

 折れるのは当然、潰れてダメになってるだろうな。


 そんなことをぽーっと考えていると、男が不快げに鼻を鳴らした。


「こんなにされても、その反応って。やっぱお前、つまんない。何をしたら、その表情を崩すんだよ⋯⋯」


 彼はツーッと俺に目をすべらせ、いい案が浮かんだように、ニヤリと口角を上げた。


「あぁ、それかな。アイ、やれ」

「グルゥ⋯⋯」

「おい、鳴くな。許可してないぞ!」

「ッ!」


 男が袖に隠れた手首に触れると、中型ドラゴン――アイが苦しそうに頭を垂れる。


 ドラゴンにあんなことさせて⋯⋯!


 基本、プライドが高い子が多いから、心の中は、すごく傷ついてるはずだ。


 契約は、ドラゴンを操れるようになるわけじゃない。

 お互いが必要とし合っていて、共に生きることを誓い、加護を受けるものだ。

 一方的な破棄はできないし、一心同体になるけど、不満に思えば抵抗くらいできるはず。


 なのに、どうして、アイは苦しそうに従うんだろう。


 フーッと顔に熱い風が当たって、ハッと首を戻す。


 ザラリとした硬い鱗で覆われたアイの顔が、ぶつかりそうな近さに⋯⋯!?


 一瞬だけ合った瞳に小さく息をのんだ。


 ものすごい屈辱で燃えてる⋯⋯!


 やっぱり、ああいうのは嫌なんだ。


 ますます謎が深まるだけだよ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ