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Flyer!  作者: 流暗
一章
1/9

1-①

「ルキ、取ってこーい!」


 俺が手のひらサイズのボールを投げると、ルキは小さな翼をはばたかせ、はねるボールをくわえた。


「クルルー」


 嬉しそうに鳴いたルキは、短い足を一生懸命に動かし、俺の足元にボールを置いた。


 くぅ~、今日もルキはかわいいな!


 真っ直ぐに見つめる、赤みがかった大きな黒目。

 上機嫌に触れるフサフサな尾と、ピンととがった三角の耳。

 ちょこんと頭にのった小さな双角は、ドラゴンの証。


 さ・ら・に!


 全身をモッコモコな羽毛で包まれ、背にはオマケみたいな二つの翼がついている。


 あらためて紹介しよう。

 両手にすっぽりと収まる、このかわいすぎるドラゴンは、ルキ。俺の相棒だ。


 今は、ルキと一緒に家の近くの公園に遊びに来ている。

 一面、何もない野原だけど、そのおかげで、俺たちしかいないから、思いっきり遊べるんだ。


 くふふ、ルキを独り占めなんて! 贅沢だ! でも嬉しい!


「クル?」


 ルキが小さく鳴いて、首をかしげる。


 ぐっ、反則だ!


 ルキの周りが、星でも浮かんでいるみたいに輝いて見える。


 俺は、膝を折ってボールを握ると、ルキの頭上をこえるように放る。


 パッと後ろを振り返ったルキは、翼をはばたかせながら、はねるようにボールを追った。


 そんな後ろ姿を見ながら、俺はふと胸につっかえるものを感じた。


 ⋯⋯ルキってさ、飛べないんだ。

 ドラゴンって、そもそも人間より一回り以上大きいし、立派で大きな翼を使って、空を自由に飛び回ることができる。


 それなのに、ルキは小さすぎるし、翼があるのに、はばたくだけで、体は浮かない。


 だけど、ルキはこうして翼を動かして、ボールを追う。

 ルキは飛んでいるつもりかもしれないけど、残念ながら、足が地面から離れることはない。


 そんな健気な姿も愛らしいけど、それ以上に、何もしてやれない自分に、どうしょうもなく腹が立つんだ。


 ⋯⋯って、あれ?


 ルキが戻ってこない⋯⋯? ボール、そんなに遠くに投げてないハズなのに。


 慌てて首をめぐらせても、俺の視界には風に揺れる草木が映るだけ。


 ルキがイタズラで隠れてる?

 いや、それは俺が心配するって分かってるから、ない。


 だとしたら、なんで見つからない!?


 見通しのいい公園だ、それでも目の届く範囲にボールを投げるように、注意していた。

 何がどうしたら、ルキが消えるんだ。


 冷えきった指先を、グッと握りこんだとき。


「ルキ⋯⋯!」

                  ・・

 公園を出てすぐの路地に、ルキがいる予感がした。


 考えるより先に体が動いて、今まで出したこともないようなスピードで走っていた。


 でもなんで、あんな暗くて細い場所にいるん⋯⋯。


 限界まで伸ばした足を、転びそうなほど速く前に出す。

 嫌な予感に、ツーッと冷や汗が背中を伝った。


 まさかまさかまさかまさかまさか⋯⋯!

 誘拐!?


 でもなんでルキが⋯⋯。いや、なんでじゃないな。

 小さくて、あんなにかわいいドラゴンは、他にいないから。

 珍しいから、ルキを攫って――!?


 人一人がギリギリ通れるくらいの道に、テレビやら、大型の家具やら、壊れたモノが乱雑に、窮屈そうに置かれている。

 一寸先は真っ暗闇で、黒いインクで塗りたくられたみたいに、何も見えない。


 だからって、進まない理由にはならない⋯⋯!


俺は不安定な足場を躊躇せずけり、迷わず暗がりを曲がる。


 絶対にスピードを落とさないように。


 でも、別の理由も考えられる。


 世の中には、たくさんのドラゴンがいて、人間は長年もの間、ドラゴンと契約することで栄えてきた。ドラゴニストって呼ばれてる。


 高位なドラゴンほど大きく、強く、契約も難しいから、大きいドラゴンと契約してる人ほど、重宝された。


 そう、今世の主な価値観は、どれだけ大きいドラゴンを従えているか、なんだ。


 中には、自身に与えられた権力で横暴する人とか、自分のドラゴンより小さい場合、そのドラゴニストとドラゴンに攻撃する人とかもいる。


 俺が心配なのは、後者だ。


 ルキは人間より小さいから、そういうヤツらだった場合、どうなっているか、分からない。


 最悪の結果を想像してしまった俺は、無意識に速度を上げる。

 悲鳴を上げる体なんか気にならないくらい、頭の中がルキでいっぱいだ。


 ビュォッと風が、俺をたたいてすりぬけていく。


 道を抜けた先は、背の高いビルに囲われた、コンクリの広場だった。

 壁にスプレーで落書きがしてあり、その壁も、今にも崩れそうで、不安を煽るような空間だ。


 それに、結構広い。


 小型ドラゴン三匹だったら、戦えそう――。


「ッ!!」

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