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サイクロプス  作者: KAPPA
1/2

第一話 始まり

初投稿です

伊庭刑事は現場へ向かうパトカーの後部座席で退職後のことを考えていた。

すでに定年退職まで半年を切り、事件を追う日々にも終止符が打たれようとしていた。


「・・・ということらしいですよ?信じられます?」


「え!?あ、あぁ・・・」


ふいに耳に入ってきた若い刑事の声に伊庭は生返事で返した。

少し間があって若い刑事は問いただした。


「伊庭さん僕の話聞いてました?」


30になったばかりの山田刑事は、伊庭に疑いのまなざしを向ける。

山田は、伊庭がやり手の刑事だと聞いていただけに期待はずれな気がした。


「聞いてたさ!今回の仏さん変死体なんだろ?」


伊庭の投げやりな返事に山田は少し不満を覚えたが、長い付き合いでもないので顔をしかめるだけにとどめた。

しばらくして、現場に到着した。

閑静な住宅街の真新しいマンションだった。

伊庭はタクシーを降りながら、退職したら妻と旅行に行こうと考えていた。

最後に旅行をしたのはいつかと考えていたら、新婚旅行以来だと分かったからだ。





「もう我慢ならねぇ!!」


男はそう叫ぶと机を蹴とばした。


「まぁまぁ落ちつけよ裕也。いくらお前がキレたところで、どうこうなる問題でもねぇんだろ?」

「辰美てめえどっちの味方なんだ!俺はな、これ以上あのボンボンの言いなりになるのはごめんだって言ってんだぞ!」


辰美と呼ばれた金髪の少年は机が蹴飛ばされた衝撃で灰皿がどこかへ飛んで行ってしまったので伸びてきた煙草の灰をどうしようかと考えながら、裕也に諭すように言った。


「お前の気持ちはわかる。けどよ・・・この町で坂城に逆らったら藤堂の二の舞だぜ?」

「・・・」


裕也は言葉を濁した。


「藤堂君まだ見つかってないんだよね・・・噂じゃ坂城の下についてるヤクザに細切れにされて町中にばらまかれたって・・・」


今までしゃべっていなかった茶髪に眼鏡の少年が控えめに、しかししっかりとした声でそういった。

小汚い廃ビルの一室をしばし静寂が支配した。


「俺が母子家庭なのはお前ら知ってるよな?」


裕也が呟くように言った。

二人は裕也を見た。


「たくさん迷惑かけたけどさ、小三の頃から女手一つで俺を育ててくれたお袋が・・・坂城ん所のバカ息子に、金の返せない雌豚だのなんだのって言われて面白半分でリンチされたんだ」


二人は驚きの表情を隠せなかった。

裕也が3人で集まろうというからまたいつもの嫌がらせにあったのだと思っていたのだ。


「お袋はまだ病院の中だ・・・だから頼む、二人とも力を貸してくれ!」


二人は顔を見合わせた。




後日、3人は町で一番大きな交差点「桜交差点」のファーストフード店の前に集まった。

時間は午前4時。

車も通らなければ、人影一つ見当たらない。

作戦の再確認をした3人はそのまま坂城の息子である”徹哉”が住むマンションへと向かった。

裕也は徹哉を殺す決意を固めていた。

辰美は自分たちがしようとしている事が今だ信じられずにいた。

そして、茶髪に眼鏡の少年・・・信二は、親友である裕也に人殺しになってもらいたくはなかった。





「う〜ん・・・酷いな」


伊庭は死体の前で手を合わせた。

しかしその恐怖に歪んだ顔と、異様な死に様にそんな言葉がつい口をついた。


「死因は内臓破裂によるショック死だそうです」


山田はそう言いながら半分露出している被害者の服をまくりあげる。


「けど僕は、ショック死ならこれが原因だと思うんですよね・・・」

「なんなんだこれは・・・?」


伊庭の表情がゆがむ。

被害者の腹には、通常より大きい10数個の“目”が埋め込まれていたのだ。

その目の一つ一つがまるでこちらを見ているようで不気味だった。


「鑑識によると、この目は生きているうちに埋め込まれたものだそうです。しかも、これに圧迫されて内臓が破裂してショック死・・・ひどいもんです」


山田が被害者から目を背ける。

彼はまだ刑事になったばかりで、人の死体をあまり見た事がないのだ。


「この目は、人のものじゃないな。大きすぎる」

「そうですね、今鑑識に調べてもらってます」


山田は、この状況でも冷静な伊庭を見て少しだけ彼を見直していた。

伊庭の顔は部屋に入る前と後とで明らかに変わっていた。


「山田、仏さんこの部屋の住人なのか?」


伊庭が真顔で聞いてきたので山田は先ほどの考えを改めた。


「それさっき、タクシーの中で言いましたよ?被害者は、香山信二 17歳 無職。この部屋の住人とは別人です」






少年は、夕方の町の道路脇をとぼとぼと歩いていた。


夕日が見事なまでに町を赤く染め、点滅している信号機が赤に変わるとそれを合図に世界が真っ赤に染められたかのような感覚にとらわれる。


日曜日ということもあって人通りは少ない。


少年は右左を確認すると、赤の世界に足を踏み出す。


その時だった、一台のバイクがものすごいスピードでカーブを曲がってきたのだ。


バイクを運転していた女は、少年に気づくのが遅く、かわしきれずにそのまま突っ込みそうになる。


「危ない!!」


女は叫んだ、だがその時すでにバイクは止まっていた。


「あ、僕なら大丈夫です。ちょっとスピード出過ぎでしたよ?僕も赤信号わたってたから文句は言えないですけど・・・」


少年はバイクの傍らでヘッドライトに手をおいて、微笑みながらそう言った。


「え?あなた・・・」


なぜ無事なのか?女がそう質問するのも聞かないで少年は立ち去って行った。




少年が家に到着するころには外は薄暗くなっていた。


ここら辺の家には多いガラスの引き戸をがらがらと開けながら少年は「ただいま」と言う、すると奥の方から母親が顔をのぞかせてくる。


「あら、お帰り悠斗、今日は部活特に遅かったのね?帰り道大丈夫だった?」


「うん、特に何もなかったよ」





彼は気づいていた。

自分には、特別な力があると・・・そして、それをよく理解していた。


「悠斗、学校の方はどうだ?勉強で困っていることとかないか?」


「うん、大丈夫だよ父さん。それより、今度の夏の大会で僕試合に出してもらえそうなんだ!」


「本当か?そりゃすごいな!」


珍しく食卓に顔を出した父親とこんな会話ができる。

そんな父親に、その傍らで微笑んでいる母親に、悠斗は自分の力の事で心配をかけたくなかった。

自分はただの14歳、この力が疎ましいというわけではないが彼はそう思うことにしていた。


丹波悠斗は、近所の中学校に通う中学2年生。

成績はそこそこ、友達も多く何不自由ない生活を送っていた。

所属している野球部でもレギュラーメンバーに入りきついながらも頑張っていた。

そんな彼が自分の力に気づいたのはふとしたことがきっかけだった。


ある日の部活からの帰り道、悠斗がほかの部員たちと一緒に帰っている時だった。


その猫は草むらから悠斗達の様子をうかがっていた、それを見つけた悠斗は猫のところに駆け寄った。

猫は逃げるどころか草むらから出てきて悠斗の前でのどを鳴らした。


「かわいいなー」


悠斗がそう言って、猫の頭をなでてやっている時だった。

彼はあることに気が付いた。

頭をなでてやっているその猫が、まるで動かなくなっていたのだ。

半開きになった口はそのままに、瞬きをすることもなければ喉を鳴らすこともなかった。


「悠斗ー!早く帰ろうぜー!」


「あ・・・うん」


猫の事が気になったが、悠斗はそのまま友人のもとへ走り去った。

途中後ろを振り返ると、そこに猫はもういなかった。

それが始まりだった。





「だから、ホントなんだってば!何度言えば信じてくれるの?」


「分かったわ!じゃあ、あなたの言ってることが本当だと仮定してよ!?」


朝から同僚のほら話に付き合わされたとしか思っていない友人はついに切れた。


「な・・・仮定して・・・なによ?」


「あなた警察に行くべきだわ、だって男の子をひいたんでしょ?」


「いや、だから正確にはひいたんじゃなくてひきそうになったってだけで・・・」


「そこが信じらんないのよ!80キロオーバーで、男の子に突っ込んでなんでいきなり止まれるの?・・・朝香?あなた、制動距離って知ってる?」


友人の真顔の受け答えに朝香はついに説得をあきらめた。


「あぁ・・・うん・・・そうね、そうだわ。私が馬鹿でしたごめんなさい。朝からこんな話につき合わせちゃってごめんね、知子・・・」


知子はフラフラと休憩室から出て行く同僚を見て、少し悪い気がした。

そもそも朝香は嘘をつくようなタイプではない。

しかし、あまりに突拍子のない話に、さすがに3年目の同期であっても疑わざるを得なかった。


「朝香!」


知子の呼びかけに朝香が振り返った。

その目の下にはクマができていた。

彼女曰く、その出来事がきっかけで眠れなかったのだそうだ。


「無理しないでよ?」


知子のその言葉に朝香は微笑で返して休憩所を後にした。

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