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ニコラは女に薬草を煎じて飲ませてやりながら、子供と話す。
会話から、どうやらニコラはこの家族とは付き合いが長いらしい。
最初は満月の魔女が、この場所で取れる違法な薬剤の材料の交渉をしに、薬剤の材料を扱っていたこの女の夫を訪ねるために来たらしいのだが、男は事故でこの世を儚く、女はその後、ここの風土病である喉の病に冒されてきた。
満月の魔女は、この地の他の当てから薬剤の材料を手に入れるようになったが、ニコラがこの家族を訪ねることに、文句はなかった。くたばり損ないの、いい実験台があるじゃないか、とニコラの初めて作る薬剤の練習台として、この女を騙くらかして、薬を飲ませろ。そう言ってまだ未熟な腕のニコラが作った薬を検査して、時には手を加えて、送り出してくれたのは、満月の魔女のやり方だったという。
この薬草は、喉の通りが良くなる薬草だ。
歌を歌う魔獣の喉肉と、魔力を含む粘土質の地層から取れるキノコが原料だ。
少し調合が難しいが、ニコラであれば、良いものを作るだろう。
・・そこでふと、ジャンは、ニコラが魔術師の利用するお手洗いの近くで、ウロウロしていたのを思い出した。
魔術師の利用した後の御不浄には、魔力の強い反応が出る。
(・・ああ、あそこは粘土質な場所だな。)
ニコラの使っているキノコの出どころにあたりをつけて、ジャンの心は虚無になる。
なるほど、ニコラもほぼタダで提供する薬に関しては、古い知り合いだろうが容赦無く出自に問題のある材料を使うわけだ。
ちょっとニコラの優しさにじん、ときてたジャンは、やはり屈強なニコラの商売魂に、頭が下がる。
ジャンはニコラの会話に耳を傾ける。
この地域は、実に劣悪な環境だ。ここの仕事のほとんどは、炭鉱の仕事だが、掘削の際に、魔素を含んだ岩盤に突き当たる事があり、掘削人の健康被害は甚大で、子供たちは学校にも行っていないらしい。
だが、
「最近、緑銀石出てない?」
「あんなおっかねえの俺は扱わねえけどな。たまに出るらしいよ」
ニコラがどうやらここを訪ねた理由は、緑銀石の出どころに心当たりがあったからの様子。
「あんた達じゃないのは知ってるけど、見てよこれ」
ニコラの懐から出てきたのは、保管室にあったはずの例の証拠品だ。
「ニコラちゃん、取ってきたらダメだよ!」
「綺麗だな!ニコラ、どこでがめてきたんだ」
フォレストは慌てるがニコラはどこふく風だ。
子供は、しげしげと光にすかして眺めていたが、心当たりはないらしい。
そんな時、ベッドに座ってニコラの煎じた薬を飲んでいた女が、意外な事を口にした。




