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「どう思う?ジャン様」
3人は、証拠品保管室を出て、第一魔法騎士団の控室に帰途についた。
保管室でフワンに、まるで美味しくない健康茶を飲まされて、口の中がまだ苦いのだ。
魔法騎士団の差し入れに、チョコレートがあったことを思い出した3人は、暗い地下室を出て、2階の第一の控室まで帰って言った。
「聞いた通りだよ、ニコラちゃん。この事件は、動機が不明なんだ。売人を見つけて、そこから洗い出すしかないんだけど、なかなか尻尾を掴めないんだって言っていたよ」
ジャンは自分の取り分のチョコレートを、口に入れるよりも、幾つも幾つもニコラの皿に入れてやる。
ジャンのチョコレートを当然のように受け取るニコラは、自分がどれほど甘やかされているのか知らない幸せな娘だ。
ジャンはこの事件には関わっていないのだが、もちろん会議の発言などで、第四が扱っている難事件の詳細は知っている。
もしもニコラがこの難事件の突破口となる何かを掴めるのであれば、嬉しい限りだ。
「ニコラちゃんの視点なら、犯人像はどう感じるの?少し我々と違う事を感じてくれてたら嬉しいけれど」
今度はフォレストがチョコレートをピン、ピンと自分の皿からニコラの皿に移してやる。
別にフォレストがニコラに優しいからではなく、実家の出しているチョコレートの方がよほど高級でうまいので、こんな安物は口に合わないからニコラに押し付けているだけなのだが。
ニコラはなんの疑問も持たず、二人からそれぞれ異なる意図でもらったチョコレートをもしゃもしゃと食べながら、考える。
(うーん、私なら、この偽造の仕事はしないかな。ということは、私でもしない事をする人達だ)
ニコラ程度の中級魔術師レベルの魔力がある人間が周囲にいて、ニコラが引き受けない仕事を引き受けるような連中。
しかも、ポーション素材の扱いが荒く、魔術師としてのプライドがない。という事は、おそらくは魔術師ではない。
そんな連中といえば、誰だ。
(・・そんなの、あいつらの誰かに、決まってるじゃない)
ニコラがチョコレートをガッと一口で全部口に流し入れるのをジャンとフォレストは見届けて、二人は外套に袖を通す。
ニコラが、何かに気がついたのだ。
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二人の貴公子がニコラに連れられてやってきたのは、ダンジューロという炭鉱の街だ。
王都から船で5刻。割と遠い上に、非常に治安が悪い。空気も悪い。そういう訳で、景気も悪い。
貴公子の格好でうろうろしていたら、大変目立つ。
不健康そうな顔の、うつろな瞳の子供たちが、ジロジロと二人を眺める。
フォレストが居心地悪そうに、ハンカチを袂から取り出したとき、
ドン!と子供が体当たりしてきた。
「わ、おっとっと」
フォレストが驚いて体制を整えている間に、子供は側を走り去る。
その背中に向かって、ニコラは全力で食っていたリンゴを投げつけた。
「いってえ!なにしやがんだ!」
「その財布置いて行かないと、酷い目に遭うわよ」
子供は、風が飛ばしたニコラの前髪に隠れていた、魔女の刻印を見つけて、
「ぎゃー!!!」
とオシッコをちびって逃げ出した。
「な、なんだったんだ」
ニコラはす、とフォレストの財布を手渡した。
「すられてたのよ、フォレスト。助けてあげたんだから、2割ちょうだい。金貨一枚に負けとくわ」
財布の重量から、おおよそ金貨6枚ほど入っている事にすぐ気がついて、的確な割引料金を提示するあたりはさすがだ。
「あ、あの子たちは・・」
「ここの炭鉱の子供たちよ」
ニコラは涼しい顔だ。
「連中は本当に、銭ゲバで、品が悪くて、行儀も悪くて、タチが悪いんだから。手癖も悪いし、本当酷いわ」
プリプリ怒っているものの、ニコラはカゴいっぱいに、薬を入れて、この町に来ていた。
「ここの街はね、空気が悪いのよ。だから炭鉱で働く大人は、病気の人が多いの。でも薬なんか買えやしない。




