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そもそも、黒魔石は最近まではクズ石扱いだった事もあり、偽物の黒魔石と比べても、あまりニコラの銭センサーに違いは感じられない。黒魔石の成分にはガラス成分も多いので、黒いガラスで偽物を作成されても、やはりそう違いは感じられない。
「ねえフォレスト、このオニキスは大体金貨22枚と銀貨5枚ってところよね?この黒魔石と、偽物は?」
フォレストは苦笑いだ。お見事。銀貨までピッタリだ。
心の中で、フォレストは脱帽する。
ニコラの銭への鑑識眼は、凄まじい。
「確かに、このオニキスの首飾りは、鑑定によると金貨22枚と銀貨5枚丁度だよ。黒魔石は金貨2枚、偽物は銀貨で5枚というところだね。今なら黒魔石の方は金貨5枚に値上がりしてるかな」
(なるほど・・流行ってすごいわね。流行に乗れば、銭の価値がまるきり違ってくるのね)
銭ゲバ・ニコラは反省しきりだ。人の世界での流行など、魔女の世界において遥か遠い世界の話だ。
何せ魔女は、長命で、実に好き勝手に生きている。
人の世界の流行にも億劫がらずに手を出しておけば、簡単に銭が稼げそうではないか。
ジャンは、偽物の方を光にすかして、ニコラに見せる。
「ニコラちゃん見える?このキラキラと緑に輝いているのが、緑銀石を魔力処理したものだよ。こうして見ると、本当に本物と顕色ないね」
「本当ね・・ほとんど見分けがつかないわ」
ニコラもジャンに習って、光にすかしてみたり、重さを比べてみたりしてみたが、本当に、言われなければ見分けがつかない。しかも偽物は、割れて中身が出てしまったら、猛毒になる。なるほど、国が躍起になって取り締まる訳だ。
3人で3つの首飾りを前に、ため息をついていたその頃。
「ドワール隊長。これはよくお越しになられました」
保管室の扉が叩かれる音がして、顔色の悪いひょろっとした中年の男が入って、ジャンに騎士の敬礼をした。
非常に顔色が悪く、質は良いが古い型の服に身を包んでいる。
(ギリギリ合法の魔キノコ入りの、疲労回復の高級丸薬20個ほどね)
ニコラが本能的に、銭ゲバ薬師のそろばんを弾く。
こういう不健康そうな、ひょろっとした類の連中は、結構買うのだ。
フォレストが直立敬礼しているあたり、この男はフォレストより上位の騎士だろう。
ジャンはこの顔色の悪い男に振り返り、握手を求めた。
「無理を言って、申し訳ありませんでしたフワン隊長。第四の捜査だと伺っていますが、婚約者がどうしても、と」
ジャンはそっと、優しくニコラの前髪をかきあげ、フワン隊長と呼ばれた顔色の悪い男は、そこに魔女の刻印を認めて、微笑んだ。
「マシェント伯爵令嬢。光栄です。どうぞこの事件の解決に、あなたのお力添えを」




