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「あらニコラちゃん興味ある?」
ニコラのサイズを調べたり、似合う色合いを探して、ニコラの髪の毛やらなんやらをいじくり回している手を止めて、アナベル女史は、ため息をついた。
「ここ五年ほど、女性の黒魔石が宝飾で流行りだった事は知ってる?昔はクズ石扱いの、ただの安い、印石だったのに」
「アナベル様、初耳ですわ。森にずっといましたので、黒魔石が宝飾になっていた事も、存じ上げませんでしたわ。ただの印石だった黒魔石が、どういう経緯で宝飾になったのです?」
黒魔石は、魔石という名前こそついているが、魔力はほとんど含有できない、安い石だ。
黒魔石の原石は、石炭に似ているが、ほとんど含有できないとはいえ、ちょっとは魔力を含有できるので、広範囲の結界などを敷く際に、目印の魔力として、魔法陣に、ちょっと魔力を入れて置いて印をつけるて、一度だけ使い捨てる用途で利用されていたのだ。
アナベルの言うように、クズ石で間違いない。
正しくニコラが言いたかった事は、(どうやってあんなクズ石を、銭に化けさせる事ができたんだ、仕組みを教えて?)なのだが、こてん、とガワだけは大変美しい、森に暮らしていて浮世離れしている美少女が、さも不思議そうに聞いてくるのだ。
なんでも教えたくなるのが、人間。
アナベルの口も軽くなる。
「それがね、随分前だから王都の若い宝飾デザイナーの間でね、宝石は手が出ない、若いおしゃれな平民の女の子たち向けに、色のついたクズ石を装飾品に使うのが流行し出したのよ」
メリッサが、話を続ける。
「クズ石の流行のちょうどその同じ頃に、「黒い貴婦人の秘密」っていう不倫ものの小説が、王都で流行りに流行ったのよ。小説の女主人公が身につけていたのは、黒いオニキスの首飾りだったのだけれども、オニキスは貴族くらいしか手に入らない、高いものでしょ?それで、人気が出たものだから、代理に使えるものとして、見た感じは似ているけど、お値段は安い黒魔石の研磨方法が開発されたのよ」
「新しい研磨方法で研磨された黒魔石は、表面の輝きはオニキスと似ているけれども、魔力で、奥がラメのように光って、宝飾品としての価値が再発見されて、今王都の庶民の間でとても人気なの。今度はその流行が貴族にまで入ってきて、逆に黒魔石の方が品不足になってきたわけよ」
貴婦人達は、さも大事かのごとく、かわるがわるニコラに、そう説明をしてくれた。
なるほど。流行というものは、銭の匂いのするものだ。
なんでも勉強しておけば、銭になるかもしれない。祖母のガラクタが、いい銭になりそうなので、ニコラは体を乗り出して、アナベルの話に耳を傾ける。
「ところがね、その黒魔石の模造品で、質の悪いものが出始めてきて、問題になっているのよ」
「質の悪いものですが?すぐ割れてしまうとか?」
「そのくらいなら、別に害はないのだけれどもね、模造品はね、着色をしたガラスを使って製作されているのよ。問題はね、質の高い黒魔石の、あの底がキラキラ光る感じを出すのに、なんとね」
アナベルは、はああーーーっと大きく息を吐く。
「緑銀石を砕いたものを使っているのよ!」




