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やはり人間、美しいという事は実に得だ。
ニコラはガワだけは本当に美しいので、得することが多い。
「ニコラちゃん来てくれたのね!」
ニコラが馬車を降り立った瞬間から、今か今かと待ちかねていたのは、ジャンの母親。ニコラの隣にいる自分の息子なんざどうでも良い扱いに、ジャンは苦笑いだ。
今日は、二人揃って、王都のジャンの実家に遊びに来ている。
「お義母さま!今日はお義父様もおいでなのね!」
「やあニコラちゃん、ようこそ」
ジャンの前ではものすごく厳しい伯爵まで、溶けそうにニッコニコだ。
ニコラは基本、ジャンに甘やかされに甘やかされてるのが、ジャンの両親は、ジャンのそれを上回る。
ジャンの母のメリッサなど、ニコラがやってくる度に上に下にの大騒ぎだ。
ニコラは、ガワはめちゃくちゃ美少女の上、高潔な父の為に犯罪に巻き込まれた不幸な生い立ち?と客観的に思われている。そんな王都のご婦人の中でも知らないものなどいない、有名なハッコウノビショウジョが、行き遅れ確定気味だった息子のお嫁さんになってくれるのだ。
しかも自分の娘には、「お母様こんな時代遅れのドレスなんて着れないわ」と袖を通してももらえなかった夫人若かりし日の古臭いドレスも、全部喜んで着てくれる。メリッサ夫人の若かりしころの数倍は美しいこの美少女がだ。
メリッサ夫人は、美しいと呼ばれるタイプの見かけではなかった、若い頃の薄ら苦い自分の青春の思い出を、ニコラを通じて美少女に上書き感がするのだろうか、ニコラに自分の若い頃のドレスを着せて、お菓子をあげて、お人形のごとく可愛がっている。
尚、ニコラは魔女育ちなので、服飾なんざ興味はないので、くれるもんはなんでも嬉しい。
いや、興味が無いことは無いのだが、森に魔女と引きこもって暮らしていたので、王都の一般の基準と美意識が猛烈にずれているのだ。
王都では一般的にダサいとされている、パフスリーブやら、黄色の多いくすんだピンク、びらびらのレース、ハートモチーフなど、わかりやすく少女趣味でメルヘンなものをニコラは好む。
そうでなければ、服飾は、実用性の高い、暗い色のワンピース一択。汚れが目立たないからだ。
王都の洗練されたファッションの若い娘たちの中では、ちょっと引くくらいのダサさだが、ニコラの美貌に合わせ、まだ王都に慣れていないウブ感がいい感じの初々しさで、しかもニコラが王都に出ていなかった理由が理由だ。
王都の貴族の若い男達には、ニコラの装いは大変好評なのが人間の難しい所だ。
つまり、王都の男の注目を浴びたければ、この銭ゲバの好むような、洗練されていない、少女趣味全開の、時代遅れのダサい格好していれば、効果的面なのだ。矜持さえなければ、の話だが。
「母上、父上、今日はニコラちゃんにサロンを呼んでくださって感謝します」
今日のジャンの用事は、王との面会の際に着せる、ニコラのドレスを仕立てる事。
実家の母にお願いして、王の御前に出ても大丈夫なドレスを仕立てる為、夫人のいつも愛用しているサロンを呼んでもらったのだ。
「いいのよジャン!ニコラちゃんが王様からのお褒めをいただけるなんて、我が家の名誉だわ!」
「全くだ。私が王から直接のお褒めを頂いたのは、18の時に騎馬の王覧試合で優勝したのが初めてだった。ニコラちゃんは私より出世しそうだな!!」
ジャンの父である、ライオネル伯爵はワハハと笑う。
こんな若くて可愛い女の子に、お義父様なんて呼ばれてそれだけでも嬉しいのに、加えてこの娘の高潔な父の、騎士としての非業の死に様は、いっそ王都の騎士達、全ての男達の憧れなのだ。
非業の死を遂げた憧れの男の、美しい忘れ形見。こんなに義理父として、テンションの上がる状況はない。
そういうわけで二人してドシドシこの銭ゲバをあまやかしてる。
放っておいたら、この二人、屋敷中のお菓子というお菓子をニコラに与えてしまうだろう。
一応伯爵夫人になるのだから、ダンスだの教養だの、マナーだのをもうちょっときちんと教育しなくてはいけないのではあるが・・ジャンを筆頭に皆、ニコラの好きにさせているのだ。




