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まだニコラが、四阿に案内されてから、一杯目のお茶も終わらないうちに、エベリンお嬢様とやらは、オットーにエスコートされて、すぐに侍女の軍団をぞろぞろと連れて、四阿にやってきた。
「ああマシェント伯爵令嬢、メル公爵家にようこそ。この王都で、貴方のお話をご存じない貴族はいなくってよ!」
エベリンお嬢様は、目をキラキラさせて、ニコラの前に興奮した面持ちで現れたのはいいが、確か先ほどは、水色の見事なドレスを着ていたはずだったのに、このちょっとの時間で、わざわざ着替えたらしい。
今目の前のお嬢様の装いは、外国の布地をふんだんに使った、麗しい黄色いドレスだ。
絶対にレッスンなんぞせずに、ニコラが四阿に去った瞬間から、屋敷では上に下にの大騒ぎで、着替えが始まっていたのだろう。
(さっきのドレスより、金貨5枚分くらい価値のあるドレスね。このドレスをうっぱらうとすると、まず肩のレースを外して、手芸屋に売って、リボンは全部別で集めて、それから裾に使ってる別布は小物に作り直して、それから・・)
ニコラは、お嬢様の姿を目にすると、銭勘定を始める。別にこのお嬢様のドレスをどうこうする予定はないのだが、とりあえず金目のものは金にする算段のルートを頭の中で確保するのはニコラの癖だ。
全部でなかなかいい感じの金額が弾き出されたらしい。ニコラはゆっくり口角を上げながらも、計算が忙しくて、言葉をまだ一言も発してない。そんなニコラの姿を見たエベリンお嬢様は、
(さ、さすがね・・高位の貴族の私に媚びたりせずに、言葉も発する事なく、優雅に微笑んでおいでだわ・・森の装いといい、この品位の高い振る舞いといい、噂通りの、高潔なお方なのね・・)
と心の中で、貴族のソロバンを弾き出す。
貴族社会で大変な権力を持つメル公爵家の、エベリンのお茶会。
普通の伯爵令嬢なら、最新のモードに、これでもかというほどの宝石をつけて訪れ、まずエベリンのお茶会に呼ばれた栄誉を大袈裟にお礼して、その次にエベリンの装いを褒めそやかし、公爵家の庭を褒めそやかし、という一連の流れなのだが、ニコラときたら、お嬢様に声をかけられているというのに、ほんのりニヤニヤして黙っているだけ。
「エベリン様。貴方の美しいお姿に言葉もなき我が友に代わり、ご挨拶を」
見かねたキャスが、少しマナーに反するが、ニコラの為に助け舟を出して、エベリンに膝をついて、その手に口付けた。キャスにはニコラの正体はすっかりバレているため、もちろんニコラが貴族的に優雅に高貴に振る舞っているわけではなくて、なんか金の計算が始まって、挨拶するのを忘れてるのだろうと、あたりはつけられている。
(あ、いけね、挨拶だった)
ニコラもキャスの助け舟にやっと気がついて、淑女の礼をとる。
(やはり・・ニコラ嬢は、こんなに儚げで可憐な上に、聖母のごとく高潔な・・)
オットーは、満足そうにガワだけは麗しいそんなニコラを熱い眼差しで見つめると、大きなため息をついて、そして誇らしげに自分の生徒に、紹介した。
「エベリン様、では改めまして、マシェント伯爵令嬢、そしてモートン男爵です」




